第98話 残酷な真実

 遺跡の中で目が覚めた僕は……私はセレシア。セレスと呼んでね。……うん。龍馬のこともちゃんと覚えてる。


「お目覚めですか? わが主よ」


 私の前に跪くヴァニティアとグリフスを睨みつける。


「ヴァニティアにグリフス。どういうつもり?」

「私達の望みはただ一つ。貴方様のために生き、貴方様のために死ぬことでございます」

「おでも。今までの世界でセレシア様にはお世話になっただ。なんなりとおもうしつけくだせえ」


 記憶を思い出す前は気持ち悪い存在だった二人だけど、記憶を思い出してからは余計に気持ち悪い。なんでこんなに崇拝してるの?


「私は魔王として暴れるつもりは無いよ?」

「主様の御心のままに……」


 気持ち悪いけどこの二人の忠誠心は本物だ。ヴァニティアが知性を持ったのは三回目の世界。私がヴァニティアを見つけて気まぐれに助けてあげた。ただそれだけだ。四回目の世界からはなぜか毎回過去の世界の記憶を思い出しては私に忠誠を誓ってくる。ただ、繰り返される世界の中で毎回ヴァニティアは周りからいじめられている。私が気まぐれに助けたり鏡の力で記憶を思い出したりしてヴァニティアはいじめから抜け出すことができるため世界が繰り返させる度に私への忠誠心が強くなっていくのだ。


 グリフスを助けたのは前回の世界。ヴァニティアもおつむが悪いと言っていたがグリフスはかなりの脳筋だ。力はあるけど知性が足りないグリフスはよく我を忘れて暴走していた。グリフスがグリフスの家族を襲ってしまった時にたまたま通りかかった私がグリフスを押さえつけ、知性を上昇させる木の実をあげて暴走し無くしてあげたのだ。たったそれだけなのに、今回も私に忠誠を誓ってくれるという。


 二人とも戦闘が好きな魔族だ。グリフスは元々戦いが好きだし、ヴァニティアは私が魔王として暴走した時にヴァニティアをいじめていた相手を皆殺しにしてから崇拝度が増すような人材でもある。私の強さに魅せられて忠誠を誓ってるとしたら……。私としては暴れたくないのだけど……。


「おでも。セレシア様が平和な世界を望むというのならおでもその世界を目指しまず」


「そっか……。じゃあ、私のこの周での目標は二つ。魔王として暴れない事。そしてアービシアを復活させない事」

「ですねぇ。あの男は主が死ぬ原因を何度も作ってきた男ですから」


 一周目の世界。私が世界を滅ぼした後、私はアービシアに殺された。アービシアが私を殺したのは私を助けるわけではなく、私の中に封印されている怠惰の欠片を取り返すためだった……。


 二周目の世界。アービシアはサクラを殺そうとした。私の契約者を殺して僕が暴走するように。結局失敗したところを私が手助けした形になってしまった……。


 三周目以降の世界ではアービシアと私の対決がずっと続いていた。正確にはアービシアが鏡に触れて記憶を取り戻し、サクラを殺すために動くまでに私がサクラを保護できるかの勝負だったけど……。どれも私は勝負に負けて魔王として暴走してきた。


 今も……今の私は私が生み出した悲劇が記憶から離れない。私の耳には悲鳴が張り付き。私の皮膚は怒り、恨みのこもった敵意ある視線にさらされている感覚がする。


 そう。このまま進むと私はまた魔王として悲劇を繰り返してしまう未来が待っている……。アービシアをどうにかできてもサクラには寿命がある。エンシェントエルフになった以上、限りなく不老長寿に近いけど……、私が創ったエンシェントエルフも、先祖返りで生まれたエンシェントエルフもすでに死んでいる。サクラだっていつ死ぬか分からない……。


 つまり。私が選択できる未来は一つだけ。






 私が魔王として暴走する前にサクラの手で殺して救ってもらう。それしかないのだ。






 ―――


 これからどうしていくか決めた私はヴァニティアとグリフスに指示を出す。


 ヴァニティアには引き続きアービシアが鏡に触れないように見張りをしてもらいつつサクラとライアスを追い詰めてもらう。もしアービシアが想定より強くてサクラが殺されそうになったら私に合図を出してもらう。……そして、そのまま死んだふりをしてもらう。その後は自由に生きても良いし、私の為に行きたいというなら斥候として生きてもらってもいい。


 グリフスには魔国の様子を見てもらう。サクラの話だと魔国はブルーム王国に戦争を仕掛けてくるらしい。それなら今の魔国の国王を殺して戦争を起こせなくすればいい。今のグリフスなら魔国の国王にも勝てると思う。そして……さすがにグリフスに国を統治するのは難しいから有能な配下を立ててもらって魔国を平和な国にしてもらう。


 私は、これからたくさんサクラに試練を与える。サクラが私を殺せるほど強くなれるように……。鍛えて鍛えて鍛えまくる。

 ふふっ。それにしてもサクラか。私の魂の欠片を持ち、私の姿をして、龍馬の魂と記憶を持つ存在。これは私達の子供と言っても良いのでは? 厳しく育てつつもいっぱい甘やかしてあげよう。私が甘えることもあるかもしれないけど……。少しくらいは良いよね?


 二人に指示を出し終えるとヴァニティアがお願いをしてきた。


「セレシア様。わたくしは嘘が下手です。そこでとある木の実を作って頂きたいのですが……」


 ……そうだね。嘘をつく時絶対笑うもんね。


「ええ、セレシア様のお話ですとサクラ様はとても頭が切れるご様子。となれば対策が必要かと」

「そうだね。分かった」

「ありがたき幸せ」


 仰々しく一礼をしたヴァニティアと羨ましそうにヴァニティアを睨むグリフスが部屋を出ていき。私は部屋で一人になる。

 さて、考えなければいけないのはアービシアの処遇だ。今のサクラ達が受けてる任務はアービシアの生け捕り。つまり私も今すぐアービシアを殺すわけにはいかない。……正直、八周目の世界にして初めてアービシアよりも先に繰り返しの記憶を取り戻すことが出来たこのチャンスを逃したくない。……でも、ただでさえ負担をかけるサクラの足を引っ張りたくない。……鏡に触れてないのにアービシアに力が戻り始めてるのも気になる。問題だらけのこの世界だけど、私がどうにかしてみせるよ。だから見守っていてね。龍馬……。

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