第99話 神の子

 おおまかだけど今後の方針を決めた。とりあえず今後は寝てばかりいないでサクラのそばに居よう。サクラの足りない所をそれとなく気付かせて、天の適正をもっと極めてもらう。いざという時の為に祝福も渡さないとね! ……祝福の試練は危険もあるけどサクラなら大丈夫。だって私と龍馬二人の魂を持っているもの! くふふ。


 アービシアは……今はちゃんと捕縛する。でも、保険もしっかりとかけておく。もし記憶が戻っても上手く魔法を使えないように。間違ってもサクラに危害を加えることが無いように。特別な木の実を渡すんだ。


 部屋を出ようとしてふと鏡が目に入る。エピゴーネンの鏡……複製体を倒してから鏡に触れるとお母さまとお話が出来、ご褒美まで貰える鏡。……うん。サクラに殺されるとしたらこの遺跡かな。サクラは私の魂の欠片を持っているから私が複製体を倒してサクラが鏡に触れることでも褒美が貰えるはず。……ここのことは、決戦の前にレオンに伝えておこう。


 ……………………サクラは怒るだろうな。でも、サクラ以外に頼める人は居ないんだ。神霊同士の兄弟喧嘩はお母さまに禁止されているし、下手したらそれだけで世界が滅びる。実際、今まで世界で私が死んだらすぐに世界が崩壊している。ヴァニティアから聞いた話ではあるけどね。


 でも、サクラなら。天の適正を持つサクラなら。きっと大丈夫だ。サクラは私よりも頭が良い。世界の崩壊なんてどうにかしてくれるよね。


 一度伸びをして思考を切り替える。これからはサクラに私の秘密を隠し通さないといけない……。自信ないな。ヴァニティアの真似をしようか。一つ木の実を創って食べる。すると、ヴァニティアからサクラがピンチだという連絡が来た。


 ―――


 急いでサクラの元へと向かう。と言ってもすぐ隣の部屋だから一秒もかからずに着く。……!? サクラ! 本当にギリギリじゃんか!!


 アービシアが持った植物を操り逆にアービシアを捕縛する。サクラの拘束が解けてサクラが崩れ落ちるのを優しく受け止める。サクラが後れを取るなんて……。!? なんで、なんで黒の魔法の痕跡があるの!? 黒の魔法はアービシアが記憶を取り戻さないと使えないはずなのに……。はっ! それは後回しにしてサクラの様子を見ないと! 黒の魔法は神の直系じゃないと耐えきれない精神的ダメージを与えてくる強力な魔法だ。それこそお母さまの使う白の魔法と対を成す程に……。唯の契約者なら耐えきれないダメージでも……力が封印されているとはいえアービシアアビス・シアンの子供なら神の直系だし黒の魔法を受けても猶予はあるはず! 今から助けるよ! 待っててね!


 ―――


 サクラを植物で作ったベッドの上に寝かせて私は横に座る。サクラの手を握って私とサクラの間の魂のつながりに集中する。目を一度つぶってから開けると辺りの景色が一変する。


 辺り一面が真っ暗な世界。中心にはサクラが座っている。ここは、サクラの心の闇? サクラの目の前には大きな四角が三つ。

 一つ目の四角には龍馬の生きてる世界……によく似た世界、恐らくサクラが桜庭龍馬として生きた世界線が映っている。どうやらサクラがまだ幼い頃の景色みたいだ。サクラが手に握る紙には誕生日会の思い出と書いてある。サクラ以外の子供の横には大人……恐らく両親が立っているのにサクラだけたった一人だ……。

 二つ目の四角に映るのは七龍学園かな? サクラがアービシアを氷華で刺す。しかし氷華を抜き取るとアービシアの姿がカティに変わる……。ずっとその一連の流れが繰り返されている。

 そして最後の四角にはぼろぼろの姿をしたアービシアとサクラが手を取り合う景色が映っている。


 思わず手に力が入る。何て酷いことを!!! サクラの辛い記憶を脚色してさらにひどいものにして延々と見せ続けるなんて。サクラに見なくていいと叫ぼうとするけど声が出ない。サクラの目からはずっと涙が出ている。はやくどうにかしないとサクラの心が死んじゃう。近付きたいのに見えない壁があって近付けない。見えない壁を力いっぱい殴る。ダメだ、壊れない。魔法を使う。これもダメ。どうしよう……このままじゃサクラが……


 龍馬!! 手を貸して!!!


「ったく。俺を呼ぶのが遅いよ」

「っ!? 龍馬……」


 突然背後に現れた龍馬に驚く。ふっと笑うと龍馬は自慢げに言う。


「困ったことがあれば俺を呼べって言ったろ? いつでも力を貸してやるってさ」


 ……ドヤ顔してるところ悪いけど微妙に違うよ?


「龍馬が言ったのは私が苦しくなったら。だよね?」

「そうだったか? ま、誤差だろ気にすんな」


 気障ったらしく笑う龍馬。何かカッコよくなった? ……あれ? そういえば。


「話せるようになってる……」

「おう。俺が来たからな。封印されてる神如きに負ける俺じゃねえよ」

「え……?」


 いや、神って人が勝てるような存在じゃないんだけど……というか龍馬はどうやってここにきたの!?


「そこら辺の話はまた余裕がある頃にな。ほら、敵さんのお出ましだぞ」


 龍馬の目線の方向を見ると三つ目の四角にいたアービシアが外に出てきた。


-なぜおまえは三つに人格が分かれている-


 頭に直接アービシアの声が響く。良かった。この様子だと私達の見分けはついてないみたい。それに今までの世界線の記憶もなさそうだ。


「セレス。セレスはサクラを助けてやってくれ。俺がこいつを抑える」

「分かった」


 龍馬の言葉にサクラの元へ駆けていく。アービシアが攻撃してくるけど気にしない。ちゃんと龍馬が守ってくれるから! しっかりと龍馬がアービシアを抑えてる間に私はサクラの元に辿り着く。サクラの様子を確認すると精神汚染が凄い。……なんで無事なのか。このままだと起こした瞬間自殺しちゃうかも……。龍馬の方をちらりと見る。龍馬は私の考えを察したのか予測していたのか一つ頷く。本当はあまり良くないんだけど……意を決して私はサクラに一つの木の実を食べさせる。すると途端にサクラが崩れ落ちる。暗闇の世界に罅が入りそこから光が差し込み始める。光が当たったアービシアが悲鳴を上げて消滅した。

 崩れる世界の中で二人、龍馬と向き合う。


「龍馬。また会える?」

「おう、もちろんだ。……と言いたいところだがしばらくは無理だな。今回の一件でだいぶ力を消費しちまった」

「そっか。なら、いつか私が龍馬に会いに行くよ」

「そうか。楽しみにしてる」


 世界が完全に崩れ落ち、私は目を覚ます。

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