第88話 ゲームクリア

 引き続きオリディア様と話を続けていく。


「ま、私の事は置いといて……あ、そうだ! 何のご褒美が欲しい? 日本に戻る?」

「え……?」

「いやー、サクラちゃんの魂を勝手に連れてきちゃったからね! 無事にセレスちゃんもこの世界も救われたからこっちはもう大丈夫なの。あ、勘違いしないでね、絶対に帰らなきゃ行けないってわけでも帰って欲しいってわけでも無いのよ? サクラちゃんの好きにするといいわ。ただ、申し訳無いけど今決めてね?」

「今……決めなきゃいけないの?」

「ええ、私が力を貸せるのは試練を突破した今だけだもの」


 先程は現実逃避気味に流した話を突きつけられて息が詰まる。日本に帰れたら……。なんて考えなかった訳ではない。向こうの生活も大変だったけど楽しいことだって多かった……。でも、日本に帰ったらサクラはどうなる? 母は、カトレアちゃんは、セレスは……。


 セレスの方を向く。セレスはじっとこちらを見つめるけど何も言わない。ただ、残って欲しい。もっと一緒にいて欲しい。そんな気持ちは嫌という程伝わってくる。


 オリディア様の方を向く。


「答えは決まったようね」

「はい。私は残ります。そもそも今の私なら自力で地球にも行けそうだから」


 空の適正も時の適正も使える。一度瞬間移動を極めれば日本にだって遊びに行って帰ってくることもできるようになるだろう。


「そう。分かったわ。そしたらご褒美は何がいいかしら?」

「そうですね……」


 特に欲しい褒美は無い。うーん……。あ、そうだ!


「では、…………」

「あら、そんなことで良いの? サクラちゃんには欲が無いわね」

「私にはセレスもカトレアもいますから」

「あー、カトレアちゃんね! 私もサクラちゃんと一緒にモフモフしたいわ! 今度連れてきて!」


 カトレアちゃんに危険なことはさせたく無いかな……。丁重にお断りさせてもらおう。


「それは残念ね。まあ無理強いはしないわ。一人悲しく上でサクラとカトレアちゃんが仲良くしているところを覗き見するわね」


 神らしからぬことを宣言するオリディア様にジト目を送るが気にした様子は無さそうだ。すると人の形態になったセレスが私に話しかけてきた。


「サクラ……」

「どうしたの? ……もう行くんだね」

「うん」


 強い覚悟が伝わってきたため聞いてみるとセレスが頷く。どうやら今から他の世界線のセレス達を鎮めに行くようだ。


「あの日から僕にとってここが特別な場所になったから。世界を渡って贖罪が終わった後に帰ってきやすいと思うんだ」

「そっか……」

「帰って来た時にはサクラのパートナーとして相応しい。サクラに負けないくらい素敵な神霊として帰ってくるからね!」

「うん。私も負けないよ!」


 一度互いに抱きしめあう。セレスがスキルを発動するとセレスの姿が透けていく。オリディア様が見守る中、セレスは長い旅へと出ていった。いつまでも待ってるからね、セレス。


「サクラちゃん。改めてありがとう。あなたが来てくれて本当に良かった。ライアスちゃんにもよろしくね。私はいつでもあなた達を見守っているわ」

「はい!」


 ゲートを使い寮へと帰った私は一人部屋でゆっくりと眠る。セレスの旅が上手くいくように願いながら……。


 ―――


「サクラ、起きなさい」


 カトレアちゃんの声で目が覚める。


「カトレアおはよう」


 あくびをしつつ挨拶をするとカトレアちゃんがため息を吐く。


「戻ってきたのなら呼びなさいよ。そしたら一緒にいてあげられたのに」


 ふと頬に涙がつたっていたことに気が付く。セレスがいないのに気が付いて私が寂しくないか心配してくれたのかな?


「大丈夫だよ。永遠の別れでもないし、カトレア達がいるからね!」

「そう。さ、帰る時間よ。魔動車に向かいましょう」


 照れたのか私の背中を押すカトレアちゃんに何かおかしくなり笑う。さあ、帰ろうか母のいる我が家へ!


 ―――

<オリディア視点>


 サクラちゃんがゲートで出ていき一人残された私は神界へと戻る。


「サクラちゃん。この世界とセレスちゃんを守ってくれてありがとう」


 せっかくサクラちゃんを呼び出すことができたのにアービシアの娘として生まれてきてしまったせいで能力に制限がかかってしまっていた。洗礼式の時に一瞬干渉できたおかげで制限を解除するきっかけを作ることはできたけどセレスちゃんが暴走する前までに力を取り戻せるかは賭けだった。この世界の神だというのに、天才である私なのにできないことが多くてもどかしいし悔しかったけど無事に終わってくれて良かった。


「シアン。問題は解決したのか?」

「オリディアと呼んでと言っているでしょう? ま、なんとかなったわ。あなたのおかげよ。ありがとうね桜庭ちゃんを寄こしてくれて」

「選択したのは桜庭さ。俺じゃない」


 気障な仕草をしているこの男は地球の神よ。私の後輩で、アースフィア……アビスフィアの世界をSDSのゲームとして制作してくれたのも地球の魂に干渉する許可をくれたのもこの男。大きな借りが出来ちゃったわね。ほとんどの地球人がセレスちゃんを倒す試みしかしなかったときは正直諦めていたけれどこの男の推薦で桜庭ちゃんの魂を選んだ。


「どうして桜庭ちゃんを選んだの?」

「ただ目についた。それだけさ」


 相変わらずこの男の考えはよく分からないわね。ま、悪い奴じゃないのは知っているけど。


「次にアビスフィアの世界に干渉することがあったらサクラに伝えてくれるか? ゲームのクリアおめでとう。そして……」


 そのまま地球の神は姿を消した。次に会うのは何億年後かしら? それにしてもわざわざ言付けを残すために会いに来るとは……。桜庭ちゃんのことがお気に入りだったのかしら。

 私の世界の救済とゲームクリアを同列にされるのは納得がいかないけどそのおかげで世界が救われたのも事実だし割り切りましょうか。


 こうしている間にもセレスちゃんが一つの世界線を救ってくれた。あ、一度滅んだ世界が直る以上、管理する世界が増えることになるのね……。手がいっぱいになりそうだけど大丈夫かしら……。ま、私は天才だしなるようになるわよね?

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