第81話 魔国の王

 インプに案内されて長い廊下を通り過ぎたあと、一番奥の大きな部屋の前まできた。インプが扉を叩くと直ぐに返事が来て扉が開く。


 コンコンコンっ


「どうぞ」


 部屋に入ると中のレイアウトに息を飲む。廊下も綺麗だったが部屋の中も質素なのに高級感漂うレイアウトだ。玉座に座っている人物以外に人はおらず、魔力感知でも隠れている人達を確認できない。王様は私相手でも警戒する必要が無い程の実力者なのか、ただ危機感が無いだけなのか……。ここ一年半の情報から考えると後者は違うと思う。……前者だとキツいね。魔国と戦争になった瞬間ブルーム王国が負ける可能性が高くなる。


「いらっしゃい。ヤエ。いえ、サクラ・・・の方が良かったかしら?」

「!?」


 奥の玉座に座っている人物に突然本名を呼ばれて警戒する。


「ふふふ、警戒しないで。それよりもお姉さんといいことしたくなったかしら?」


 あれ? この声は聞き覚えが……。それにこのセリフをどこかで……。

 私の本名を知っている人物は歩いてこちらに近付いてきた。なんだか色っぽい雰囲気が凄い。近くまできて顔がよく見えるようになって誰だか分かった。


「レオナ!?」


 私の前まで歩いてきたその人は文化祭のミスコンの時に出会ったSDS主人公の一人だ。


「覚えていてくれたのね。お姉さん嬉しいわぁ。ちなみに本名はレオナードっていうの。よろしくね?」

「ふーん。なかなか可愛いじゃない。セレスが自慢するだけあるわね。魂が変なのは気になるけど」

「ヴィヴィ……」

「やっぱり私の名前も知ってるのね」


 レオナードの横に赤目の黒猫が現れる。レオナードのパートナーの神霊であるヴィヴィリアだ。


「セレス?」

「ええ、セレスが数百年振りに連絡を寄越したと思ったら延々とサクラの自慢話をされてね……。初めて会った気がしないわ」


 何の話をしたの!? 気になるけど怖くて聞けない! セレスを見るとニコニコしてる。その顔は何? 得意げだけど何が怖いよ!?


「気にしなくて良いわ。そんな事より本題に入りましょう? レオナの部下達は全員レオナに服従してるけど客が来た時は誤魔化せないから」


 怖い話が聞こえたけど聞かなかったことにしよう。誤魔化せないのはなんの事だろう。首を捻ってるとレオナが答えてくれた。


「そこは聞かなくていいわ。いつも必ずやってる事があるのだけどサクラにそれをするつもりはないわ。私に絶対服従なんて嫌でしょう?」


 いったい何をされるのかな? 結局何が誤魔化せないのか分からなかったけど怖くてこれ以上聞けないね。


「それにしても済まなかったわね。私に用があってわざわざこんな国に潜入しに来たんでしょう? サクラちゃんみたいな可愛い子にはなんでも答えちゃうわよ?」


 正直、魔国の国王が魔王じゃないと知れただけで目的は達してるんだけど、せっかくだし気になることを聞いてみようかな。


 ―――


「お姉さんといいことしたくなったら何時でも来ていいわよ。」


 別れ際にレオナがそう言って入城許可証なるものを渡してきた。


「あはは、一応ライアスの分もくれる?」

「あら、サクラちゃんは三人が「違います!」あら残念。じゃ、ライアスちゃんの分はこっちね。魔力を流せば持ち主の登録ができるの。そうしたら持ち主以外には使えなくなるから登録よろしくね?」


 突然なんてことを言おうとしたんだ。この小説は健全なのにぶっ込んで来ないで欲しい。ん? この小説ってどういうことだ? よく分からないから気にしなくても良いかな。

 自分の分の許可証にだけ魔力を流す。


「じゃあ何かあったらまた来るかも。じゃあね!」

「ばいばーい!」


 セレスと一緒に手を振って部屋の外に出ると行きに案内をしてくれたインプが近付いてきた。どうやら帰り道も案内してくれるようだ。いや、どちらかというと勝手に城の中を歩き回られたりしないための見張りかな? まあ、どこぞの勇者様じゃないし城の中の壺や樽を壊したりタンスを漁ったりするつもりは無いけどね。


 門を出て、門番の人のにも挨拶をして宿に戻る。さて、今日得た情報を共有しようか。


 ―――


 宿に戻るとライラさんとライアスがすでに戻っていた。


「今日は戻ってくるの早いね?」

「いろいろと気になって仕事に手付かずだったからね」

「俺も気になってたから何時もより気合い入れて相手をぶっ飛ばしてきたぜ」


 たしかに今回の潜入の目的が達成できるとなると早く結果を知りたくてソワソワしそうだ。


「じゃ、報告するよ」


 レオナから得た情報はこんな感じだ。

 レオナが国王になったのは約二年前、体育祭が終わったあと。

 ブルーム王国の平和を目の当たりにして、この平和を壊したくなかったこと。そして私が一人でスタンピードを制圧する姿を目の当たりにしたこと。私のいるブルーム王国と戦争をしても魔国が一方的に蹂躙されると思ったらしい。いくら嫌になって国を抜け出たとはいえ故郷であることに変わりなく、王になって戦争を起こさせないことで故郷を守ろうと思ったのだという。

 しかし、一度一族を抜けてる以上、元の姿で顔を出すのを止めようと思った結果、吸血鬼の変身能力を使って小さい姿に化け、国王の座を奪うことにしたらしい。国王がチビとの噂があったのはこれが原因とのこと。

 返り討ちにあった反逆者達が心酔してるのも吸血鬼の魅力の能力らしい。反発して暴走した輩が他種族。特にブルーム王国に手を出さないように服従させたとのこと。


 魔王の腹心についてはヴァニティア以外にもう一人、グリフスと呼ばれる奴がいたらしい。

 いた。というのはレオナがすでに殺した後だからだ。レオナの強さに目を付けたグリフスが声をかけてきたのを返り討ちにしたらしい。他にも魔王を崇拝する魔族は多いが、進んで魔王を復活させるために行動するとか魔王のために自分を犠牲にしてでも何かを成そうとする狂信者はもう居ないらしい。


 そして問題の魔王だが、グリフスから得た情報によるとすでに覚醒しているとの事。元々噂だけだったが確定して良さそうだ。

 ただし、肝心の居場所は結局分からなかった。今まで留守にしていたのはグリフスに魔王の覚醒について聞き、魔王を探していたからだ。ただ、あまりにも情報が無さすぎて一度帰ってきたのが今日とのこと。


「なんかパッとしないな」

「一年半の苦労には見合わない感じがするね。いろいろと価値のある情報も多いけど肝心なところがね」

「そうだね。でも、魔王さえどうにかできれば魔国との戦争は起きなそうだよ」

「そのようだね。戦争は起きなそうなことと、魔王の腹心が居ないって分かっただけで満足するしかなさそうだね」

「レオナも強いからね。魔王と対峙した時に勝てるかは分からないけど、他の魔族に遅れをとることはまずないと思う。魔王に王の座を奪わらなければ戦争はないよ」

「本当にサクラはそう思うの?」

「セレス?」

「魔王さえ現れなければ、魔国との戦争は起きないと思う?」


 私が気付いていない火種があるのかな? それともただの確認?


「セレスは何か懸念があるの?」

「……ううん。無いよ。……ふんふん。……そっか。もう戦争は起きないんだね。……サクラも十分強くなったし」

「?」


 後半の声が小さすぎてよく聞こえなかった。


「サクラ。後で真実の遺跡に来て。私は先に行ってるから」

「ちょっと待って。真実の遺跡って?」

「サクラ達が太古の遺跡って呼んでる場所だよ」

「一緒に行くじゃ……ダメなの?」

「うん。準備もあるから」

「分かった」


 セレスから伝わるのは喜びと悲しみと覚悟。少しの後ろめたさと、安堵感。ごちゃ混ぜになった感情に何も言えなくなる。


「じゃ、遺跡の一番奥で待ってるよ」


 そう言ってセレスは姿を消した。


「んー、よく分からないけど行くか!」


 ライアスがそう言って帰る準備を始める。でも……。


「私一人で行くよ。……いや、私一人で行くべきだと思う」

「は? なん……。そうか。何か二人にしか分からない何かがあるんだな。分かった。俺たちは帰る。それで良いんだな?」

「うん。ありがとう」


 こうして私達は魔国を抜け出す準備を始めるのであった。

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