第80話 時が流れて
「今回も絶対王者がやってくれたーーー! まさかまさかの闘技大会バトルロワイヤル五百連勝を達成したのはこのオンナ! ヤエだーー!」
盛り上がる観客に熱気の籠った会場。数百人の横たわった魔族達の上に立ち、観客の声援に応えるのは私ことサクラ改めてヤエである。
魔国に侵入してから早一年と半年。毎日開催される闘技大会に驚きつつもバトルロワイヤル部門に参加して優勝し続けた。
魔族と言えど神霊達にも認められた実力を持つ私の相手ではない。……と言いたいところだが最初の頃は結構大変だった。激しく動くと角や尻尾が取れそうになるし、殺しは禁止されているから小技で一対多を続ける必要があったのだ。ある程度経ってからは身体操作にも慣れ、余裕を持って勝てる様になっていった。魔族の性格からかわざとピンチを演出すると批判が殺到したため最近では毎回圧倒するようにしている。……似たような絵面であきないのかな?
ちなみにライアスはリオンと名乗りバトルロワイヤルでは無く一騎打ちのトーナメント部門に参加して毎回優勝している。トーナメントは時間がかかり一度に三日かかるため、最近百五十連勝を達成していた。
私もライアスも最初はダークホースとして話題に上がり、最近では絶対王者としてかなりの人気を博している。注目されたての頃は変装がバレるんじゃないかとビクビクしていたが今ではもう慣れたものでかなり堂々としている。
ライラさんは情報収集の継続と私達のマネージャーのような事をしていて、結局デスクワークから逃げられないのかと嘆いていた。
魔国に潜入していて思ったのは意外と良い人が多いということだ。種族の気質か喧嘩っ早いし犯罪も多いしすぐ絡まれるけど一戦した後は仲良くしたりする。気さくに話せる人も増え、今日も闇討ち不意打ち襲撃を返り討ちにしながら過ごしている。
ちなみにお察しの通り、ヤエは桜から連想した八重桜から取った私の偽名だ。王都にいる一人を除いて魔族の知り合いがいる訳では無いが、アービシアから情報が漏れてた事を懸念して一応偽名を使っている。ライアスの偽名であるリオンは、ライアスの語感がライオンに似ていたからライオンをローマ字読みしてリオンとした。
セレス以外には何言ってるか分からないと同意を得れなかったけど、ライアスは変な名前じゃないから良いかとそのまま使ってくれている。
セレスとレオンは日中、姿を消しながら情報収集をして夜に成果を教えてくれた。……分かったのは魔王がどれだけ崇拝されているのか、今までの
そんなこんなで魔族の中に溶け込み、仲良しの人も出来つつ過ごしていたが、今日の五百連勝を達成して宿に戻るとライラさんから新しい情報が齎された。
「二人共毎日大変だったと思うけどやっと報われたよ。五百連勝を達成したサクラに国王が目を付けたらしい。これが城への招待状さ」
なになに? と読んでみると日付がおかしい。
「明日って書いてあるんだけど……」
普通準備とかに時間かかるし、こちらの都合もあるから一週間とか間をおかない?
「すでにサクラが勝つだろうと予想して準備だけしてたんだと。招待状を貰ったのはついさっきだけどね」
あれ? 新王は今不在じゃ?
「今日帰ってきたよ! 準備は他の部下達がしてたみたい!」
「念話機とかで連絡取ってたんじゃないか? んで、サクラに興味が湧いたとか」
なるほどね。どうせなら百連勝くらいでお誘いが欲しかった……。それにしても当初の予定だった新王の正体が確認できるからやっと帰れるね。
「まあ良いじゃねえか。やっと毎日戦いの場からおさらばできるんだし」
「リオン宛には招待状来てないけどいいのかい?」
「あのなあ、招待状を貰うことじゃなくて国王が魔王かどうかを見るのが目的だろうが。片方が貰った時点で目的達成だよ」
そう言いつつも悔しそうな顔をするライアス。
「ま、対策練られてやりづらい相手との戦いは修行になるし帰国するまでは続けて良いんじゃない?」
「そうだな。その間に俺にも招待状が来るかもしれないな」
元気が戻るライアス。単純な奴だな。明日って一日しか増えてないよ?
「あ、返事ってどうするの?」
「んなもん必要ないよ。魔族にとって国王に呼ばれる事以上に大切なことは無いからね。絶対参加だ」
「そ、そうなんだ……」
未だに少しだけ感覚にズレがあるけど仕方ない。新王の所に行く途中で闇討ちされたらどうするんだろう。死にかけつつも向かうのかな? いや、冗談でなく毎日四、五回は闇討ち襲撃あるから……。まあ闇討ちにやられるようなやわな人は声をかけられないか。
「それと、招待状があるのはサクラだけだからあたしも行けないよ。粗相せず、油断せずに行くんだよ」
え、私一人だけ? 大丈夫かな……。何かあったら暴れるよ?
―――
日が変わり、招待状を持って城に行く。ヨーロッパにでもありそうな立派な城だ。
「要件は?」
門の所で一度止められ要件を確認されたため、招待状を見せる。
「ふむ。本物の招待状だな。開門!」
門番の掛け声で門が開く。なんかカッコイイ!
「あなたがヤエ様でしたか。いつも応援しております。今後も頑張ってくださいね」
「応援ありがとう。期待に添える様に頑張るね」
門が開き、案内人が来るまでお話をする。門番が敬語を使っているのは職務だから問題なく誰かに舐められたりする訳ではないらしい。というか城の門番をしている時点で実力が担保されているから誰も手を出さないらしい。
職務中にお話していてもいいのか聞くと、客を飽きさせないように案内人が来るまで持て成すのも仕事の内とのこと。日付のみで時間に指定がない以上、案内人も一日中待ってるわけにはいかないもんね。
しばらく談笑していると小柄なインプがやってきた。
「あのインプが案内人です。それではヤエ様楽しんでくださいね」
楽しむ? 謁見って楽しむものだっただろうか? お菓子でも貰えるのかな?
インプはお話できないのかしないのか、一言も発せず進んでいく。疑問に思いつつも置いてかれないようについて行くのであった。
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