第79話 魔国へ

 母のいるハイペ村からも出発し、魔国の王都の近くまで来た。魔国は他種族を排斥してるから魔族に変装する必要がある。


「さて、ここから先、二人には変装をしてもらう。と言ってもこのアクセサリーの角と尻尾を付けるだけだけどね」


 ライラさんが角と尻尾のアクセサリーを三つずつ取り出す。可愛いのと渋いのがあるね。


「はいはーい! 私達にはないの?」

「俺らは姿を消せばいいんだから無くて良いだろう」

「むう。付けたかったのに」

「まあまあ、ブルーム王国に戻ったらルアードさんに頼んでお揃いのアクセサリー作るからね」


 セレスは私とお揃いにしたかったみたいだけどライラさんが用意して無かったから我慢して欲しい。ルアード商会なら納得いくまで要望を通せるし。……神霊御用達の商会! とかの宣伝文句付けると思うけどね。セレスを宥めつつ、どの角と尻尾を付けるか考える。うん。たまにはカッコいいのが良いよね。鍬形の形の角を取ろうとしたらライアスに邪魔された。


「ライアス?」

「待て待て待て、どう考えても俺用だろうが! 可愛い系の物が俺に似合うと思うか?」

「…………ニアウトオモウヨ」

「心がこもってないんだが?」


 そっと目を逸らす。仕方ない、私が可愛い系の物を付けようじゃないか。……元男としては鍬形の角にロマンを感じてたんだけどな。


   ライラさんから巻角と悪魔の尻尾のアクセサリーを受け取る。ライアスは鍬形の角に蛇みたいな尻尾だ。ライラさんは短くて目立たない角に兎の尻尾を付けている。


「なんの魔族かな?」


 見事にみんなバラバラだ。せめて角と尻尾で統一した方が良いのでは?


「低位魔族に名称は無いよ。雑種だからね。親の種類も関係なくて一切両親の特徴を受け継がない子もざらさ」

「王様に近付くなら高位の魔族の方が良いんじゃないか?」


 ライアスに同意だね。どこの国でも身分が高い方が王様に近付き易いと思う。


「本当はそうしたいところなんだけどね。奴らは自分達の血筋に誇りを持ってる。部外者が変装すると一発でバレるのさ」


 なるほど、家族の繋がりが深いのか。血統書管理とかしてるのかな? それはどうでも良いとして、高位の魔族に変装しない理由は分かった。問題があるとすれば。


「低位の魔族でも王様に近付けるかな?」

「あんたらなら大丈夫さ。結局の所実力が全てだからね。力を示し続けるだけで向こうから接触してくるよ」


 血筋よりも実力の方が大切なのか。私達にとっては都合良いけど身元の保証とかどうするんだろうか。


「言ったろ、そんなもの身元よりも実力が大切だって」


 さすが戦闘民族。脳筋だね……。高位種族は一族の血筋を大事にしてついていけるのかな? ……純粋な種の方が雑種よりも力が出せるのかも。戦争になった時は要注意だね。


「ま、と言うわけであたし達のやる事はシンプルだ。魔国に侵入したらやる事は二つ。魔族じゃないとバレないこと。そして、闘技大会に片っ端から優勝すること。オーケー?」

「「了解!」」


 後半はともかく問題は前半だね。バレたら処刑されるんだ注意しないと。


 ―――


 準備を終えた私達は少しドキドキしながら門を通る。門番がじっと見てきて焦ったけど手を振ると気さくに手を振り返してくれた。案外いい人かもしれないね。


 王都の中に入ると色んな意味で期待を裏切られた。世紀末のような場所をイメージしていたけどそんなことはなく、むしろブルーム王国よりも綺麗に整備されてるのでは無いだろうか。


「こんなに綺麗なの?」

「ちょっとどころじゃなく意外だな」


 コソコソ話してるとおばちゃんの魔族が近付いてきた。


「あんたたち。田舎から来たのかい? それだと驚くよねえ。この街並みは新しい王様の指示なんだよ。街中で暴れるのも禁止。店で暴れるのも禁止。物を壊すのも禁止なんだと。禁止事項が多くて参っちゃうね」


 昔は暴れたり壊したりするのが普通だったのか……。というか新王のイメージがアービシアから聞いたものからかけ離れているね……。


「はい。王都に来たのは初めてなんですけど……。私達がいたところとは程遠くて驚いちゃいました」

「あんたたち。どんな田舎から来たんだい。今どき敬語なんて使う奴はおらんよ。そんなんじゃ舐められちまう。気をつけな」


 敬語だと舐められるんだ……。あれ? ヴァニティアは敬語じゃなかった? 他種族には敬語使うのかな? うーん。……放っておこう。ヴァニティアは既に退治した後だし考えても無駄だね。


「そっか。ありがとう。でも、そんな禁止事項ばかりで不満はでなかったの?」

「うんうん。まだ硬いけどその調子だね。不満はもちろんでたさ。ただね、何人束になっても新王には勝てなかった。今までの国王とは一線を引く強さだよありゃあ」


 そこまで強いとなるとやはり魔王が新しい王様なのかな? 余計に分からなくなってくるね。


「反乱勢力はまた集まったりしてないの?」

「いや、ここが不思議なところでね? 一度制圧された奴らは何故か新王に服従するんだよ。一匹狼みたいな奴からよく暴れる悪ガキまで全員さ。その心酔具合から実は魔王様なんじゃないかって噂も流れるほどだったよ」


 やはり可能性は高いか……ん?


「だった。……過去形ということは今はその噂は消えたの?」

「そうなんだよ。魔王に関する別の噂が流れ始めてねえ。今でも国王様が魔王様だって言ってる奴らが居るけどもう少ないね」


 今の国王が魔王じゃない可能性が高いのか。魔王なのか違うのかどっちも有り得て判断出来ないね。もう少し探った方が良いかな?


「別の噂ってどんな話?」

「それがねえ。魔王様が覚醒したって噂さ。そこから今の国王様は魔王様が覚醒するまでの間、代わりに統治を任された腹心じゃないかって噂に変わっていったんだよ」


 結局魔王が関わるの? でも腹心だと倒すと魔王に警戒されるから手を出さない方がいい? むむむ……。


「ん? でも魔王様と代わった訳じゃないんだろう?」

「あんたはせっかちだねえ。そんなんじゃモテないよ?」


 おばちゃん、強し。それにしても覚醒したって。すでに魔王は遺跡に行った後なのか。


「魔王様は裏であたしらを導いてくれているのさ。実は魔王様の腹心の一人が憎き神霊と神霊の契約者とやらに殺されちまってね。警戒して前に出るのをやめたんじゃ無いかって話だよ」


 その腹心と契約者には心当たりがあるね。きっとライアスは内心冷や汗ダラダラだろうね!


「なんだか臆病な魔王様だな。部下を表に立たせて自分は安全な場所にいるとか」

「あんたら本当に魔族かい? 魔王様のやる事にケチ付けるんじゃないよ! そういう事は思っても口にしちゃあいけないよ。袋叩きにあいたいのかい?」


 あ、臆病だと思ったりするんだ。おばちゃんはどの種族でもおしゃべりな人が多いんだな。でも優しい人で良かった。疑われかけてるしこれ以上の情報収集は諦めた方が良さそうだね。


「おばちゃんありがとう! もう行くね!」

「ああそうかい。あんたらの住んでた田舎は常識がズレてるみたいだから言動には注意するんだよ。ああ、それと。国王様なんだけどね。私闘を全面的に禁止した代わりに毎日闘技大会を開催してくれたんだ。あんたらも力に自信があるなら参加してみるといいよ。飛び入り参加もできるからね。じゃ、くたばるなよ」


 欲しかった情報をほとんどくれたおばちゃんはそのまま去っていった。


「さて、一度宿に行って情報を整理するかい? ……まさか一人目でこんなにも情報が集まるとは思わなかったけどね……」


 適当な宿を取った私達は情報の整理と今後の方針立てをするのであった。

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