第82話 魔王の正体
翌日、再度レオナの所に行き、魔国を出て帰国することを伝える。
「あら、残念ね。もう少しいてれても良かったのに。あー、もっと早く帰ってくれば良かったわ」
「いやいや、そうしたら私達が帰国するタイミングが早まるだけだよ」
「それもそうね。今のこの国だとあなた達がここに居るだけでも危険だものね」
心配してるのは私達のこと? それとも魔国の国民のこと?
「どっちもよ。あなた達がやられる所は想像付かないけどね。大勢に襲われれば怪我くらいは流石にするでしょうし。……するわよね? あなた達一応人間よね?」
そこを心配しないで欲しい……。いや、今の私なら怪我無く制圧する自信もあるけどさ。あはは。と曖昧にしているとレオナの横からヴィヴィが顔を出した。
「サクラ。セレスによろしく伝えておいてちょうだい」
「ヴィヴィ。……分かったよ」
私の返事に満足したのかヴィヴィは一つ頷いてから姿を消した。
「んじゃ、次あなた達が来る頃には他種族も受け入れる、どこにも戦争を仕掛けないような国にしてみせるわ!」
「ははは、全員魅力で洗脳するとかじゃ無いよね?」
「あら、その考えは無かったわ。なかなか良さそうじゃない」
しまった。余計なことを言った。魔族のみんな逃げて!
「とまあ冗談はこれくらいにしておいて、……死ぬんじゃないわよ。死んだら貴女の血を飲み干してやるからね」
良かった。冗談だった。
……激励してくれてるのは分かるけど八重歯を見せて血を飲み干すなんて言わないでください。私の首筋を見ないで! 舌なめずりしないで!
「じゃ、行ってくるね!」
「ええ、行ってらっしゃい。」
なんだか最後に弄ばれた気がしないでも無いけど、無事に魔国への潜入任務が終わった。
―――
道中、魔物に襲われつつも瞬殺して魔道車を進める。数日が経ち、魔国とブルーム王国の国境を越えて母が防衛しているハイぺ村まで戻ってきた。もちろん角と尻尾のアクセサリーは外してある。
「サクラちゃんおかえりなさい。大きくなったわね~」
「母さま、ただいま。……別に大きくなってないよ」
成長期は過ぎてるし、太ったわけでもない。もちろん胸も成長してないがこれは母の遺伝子だから仕方ないだろう。……なにか寒気が?
「サクラ? お母さまは侮辱された気がするんだけど〜?」
「いや、無事に帰って来れて良かったなーって思っただけだよ?」
あ、相変わらず鋭い! 帰国しても油断ダメ! 絶対!
「セレスちゃんはどこかしら〜?」
「セレスは用事があるみたいで先に帰ったよ」
「そうなのね〜。残念だわ〜。モフモフしたかったのに〜」
契約者以外で神霊をモフモフしたいなんて言うのは母くらいだよ……。
「さすがサクラの母親だよな。言動がそっくりだ」
「そうだね。行きに寄った時も思ったけど遺伝子がしっかり働いてるみたいだ」
? ライアスとライラさんが何か小声で話している。
「ライラ〜? なにか言ったかしら〜?」
「イイエ。ナニモイッテイマセン」
あ、母のドス黒いオーラを感じ取ったライラさんが発言を撤回した。何を言ってたんだろう?
―――
ハイぺ村で一泊することにし、簡単な報告を伝える。念話機を使って陛下にも報告をした。帰国したら改めて報告して欲しいと頼まれたがそれはライラさんとライアスに任せること、私には別の用事があることを伝えた。最初は渋っていたが何とか説得し、夜になった。
「サクラ」
みんなが寝静まり、外が真っ暗になった頃、そう呼びかけてきたのはレオンだ。
「うん。私からも聞きたいことがあるよ」
二人で宿の外に出て、村外れの木に登る。月の光で辺りは照らされ、レオンの金毛がよく映える。眺めているとレオンが切り出す。
「魔王の正体は分かったか?」
「うん。……セレスが魔王。……なんだよね?」
「ああ、そうだ」
簡単な相槌が返ってくる。それが一層事実なんだと訴えてくるようでとても辛い。
「これ程否定して欲しい質問は無かったよ」
「だろうな」
「こんなに知りたくない真実も無かったよ」
「だろうな」
「なんでセレスなの? なんで今正体を明かすの? なんで隠してたの? なんでもっと早くに教えてくれなかったの? なんで……」
「すまんな」
途中から涙が止まらない。まるでダムが決壊したかのような質問にもレオンは答えてくれない。
「これだけは答えて。セレスは、……みんなは私達を騙してた訳じゃないんだよね? 敵じゃないんだよね?」
こんな時にアービシアの言葉が毒のようにまわってくる。
『いくら仲良くなっても神霊を信じるな』
ちゃんとレオンから。セレスから否定の言葉が聞きたい。
「ああ。セレスも俺達も敵じゃない。俺もセレスに聞いたのは魔国に入ってからだし、セレスが黙っていた理由は知らないが……。セレスはサクラのために黙っていると言っていた。それ以上は分からん。すまんな」
「いや、その言葉だけで十分だよ。ありがとう」
「わるいな」
今思うとセレスが魔王だというヒントはあった。セレスの感情から、後ろめたさを感じ取ったりすることもあったし、セレスの寝る回数が減り、よく話すようになったのも魔王を覚醒させる魔道具である遺跡に行ったあとだ。何よりSDSで魔王が使う攻撃手段は植物だし、近付くと動けなくなるのもセレスと一緒だった。
一方で、セレスが私の敵じゃないことも確かだろう。もしも敵ならヴァニティアとの戦いで助けたりしない。祝福だってそうだ。わざわざ敵を強くしようだなんて思わないだろう。
「レオン」
「なんだ?」
セレスがなんで魔王なのか、そんな理由は知らないしどうでもいい。けど、もしも、セレスが助けを求めるのなら。魔王になるのが嫌なのであれば……
「私がセレスを救ってみせるよ」
「っ!」
レオンが驚いたようにこちらを見る。セレスがレオンに何を話したのかは知らない。けど、その反応だけで分かる。セレスはなりたくて魔王になるわけではない。
「セレスのこと、頼む」
レオンは一度頭を下げた後、姿を消した。
レオンが消えた後も私は眠る気にもなれず、しばらくの間、木の上で遺跡の方向を眺める。
「さくらちゃ~ん!」
「わっ!? って母さま? どうしたの? こんな時間に」
気持ちの整理をしていると突然後ろから母に抱きしめられた。ここは木の上なんだけど……。
「お母さまレーダーがね〜、サクラが悲しんでるよ〜って伝えてくれたの〜。急いで来ちゃったわ〜」
「そうなんだ」
「そうなのよ〜」
口を開いたのはそれっきりで。夜が開けるまで、私はずっと母に抱きしめられていた。
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