第77話 段取り

 アービシアとの話が終わった私達はギルマスの部屋に戻りこれからの事を話し合うことにした。


「サクラ君とライアス君には負担ばかり掛けるけど、魔国に行ってもらうことになるかな」

「アービシアの話の確認ですか……」


 魔王が居てもいなくても敵対している国への侵入か……。危険も多そうだけどサクラになってから初めての外国だし少し楽しみだね。……安全な観光では無いけどね。魔王倒したらカトレアちゃんやセレスと一緒に旅に行きたいな。


「そうだね。魔国の王に接触する必要がある以上、長期の依頼になると思う。学園も休学する必要が出てくるだろうし危険も多いだろう。今回ばかりは保護者とも相談をした上で返答して欲しい」

「分かりました」


 今までも休学しつつ緊急クエストを受けていたけど二、三日の話だった。今回は長引いたら年単位でかかりそうだもんね……。私の気持ちは固まってるけど、母とカトレアちゃんの説得が必要かな。


「それからライラ君とレイラ君には二人のサポートを頼む。幾ら二人が超人でもまだ学生だからね。長期の遠征となると厳しい事も多々出てくるだろう。信頼できかつ二人の足手まといにならない人員を見繕ってくれ」

「「かしこまりました」」


 足手まといにならないって条件だけでだいぶ人数が絞られるような……。今の私達に付いてこれるのってウィードさんくらいかも?


「そしてシルビア。今よりも忙しくなるぞ。二人の保護者の許可が取れ次第、出国準備に魔国への入国準備。ただでさえ他種族の入国を禁止してる国に行ってもらうんだ。二人はこの国の宝だ絶対死なせないように準備するよ」

「ええ、私も友には死んで欲しくありませんからね」


 魔国は他種族を排斥してるのか……。ますます危険だね! そして殿下……。SDSみたいに着いてきても良いんだよ?


「父上? 私も行った方がいいですかね?」

「……。シルビアはダメだ。というか大臣達を説得できない」

「それは、確かにそうですね……」


 絶対に魔王がいるならともかく可能性だけで危険な国に王子様を派遣出来ないか。……いや、魔王がいるって確定していても危険だから周りに反対されるのでは? SDSではどうやって旅に出ていたんだろうか……もしや何も言わずに王宮を抜け出したとか? 陛下の息子と考えると有り得るね。


「それに、相手にこちらの行動が把握されていたらシルビアまで外に出るのは不味い。魔族が攻めて来にくいような牽制役としてもいてもらわないとね」

「父上は魔族との戦争になるとお考えで?」

「ゼロではないと思ってるよ。こちらから魔王に対する刺客を送り込むんだ。向こうからすれば戦争を仕掛けられたと言ってこちらに乗り込むいい機会だろう」


 戦争……ね。SDSの終盤でも魔族との戦争が起きていた。その時にサクラがどこにいたか知らないけど七周目の感じからすると私ほどチート仕様では無かったと思う。そして魔族が攻めてきたのはライアス達主人公が魔王を探す旅をしてる時だ……。偶然なのか神霊の契約者達が居ないと知っていて攻めてきたのか……。もし後者だとすれば殿下を国に残すのもあながち間違ってないのかも。


「では各自行動開始と行こうか!」


 ―――


 早速念話機を使って母に連絡をする。死ぬ可能性もあること、でも魔王を倒すのは目標だったから絶対に行きたいこと。思いの丈をぶちまけた。


「いいわよ〜。目一杯楽しんで来るのよ〜? お土産楽しみにしてるわね〜!」

「り、旅行じゃないんだけど……」


 説明した後の第一声がそれってどうなの? 一応命懸けなんだけど……。


「ふふふ〜。反対しても行くんでしょう? それなら私のやる事は背中を押してあげるだけよ〜」

「うん。ありがとう」


 本当はもっと言いたいことがあるだろうに……やはり母には敵わない。そう思えるのだった。……観光と間違えてないよね?


 ―――


 母と話を終えた私は寮に戻りカトレアちゃんとも話をする。


「ふぅ、また私を置いていくのね?」

「ごめん」


 耳と尻尾が垂れてるカトレアちゃんに心が痛む。


「サクラは確かに強くなったけど、おっちょこちょいだし、ドジだし、頭も残念だし」

「か、カトレアさん?」


 突然の罵倒が始まったよ? え? なんで?


「直ぐに顔に出るし、おバカだし、頭も残念だし」

「頭が残念って二回も言った!」


 ひどい! これでも頭良いんだぞ!


「毎回なにかしらやらかすし、死にかけていつも心配をかけるし……」

「ご、ごめん……」

「それでも……、それでもあなたは私のヒーローなの。女の子にヒーローってのもどうかと思うんだけど……。今回もちゃんと生きて帰ってきなさいよ! 私を悲しませないでね!」


 カトレアちゃんはそれだけ言うと布団の中に隠れてしまった。


「うん。……うん。絶対に生きて帰ってくるよ」


 カトレアちゃんの期待を絶対に裏切る訳にはいかないな。と強く決意を固める私だった。


 ―――


 カトレアちゃんと話をしてから数日後、再度冒険者ギルドに集まる。ライラさんは諦めた顔をしつつもお菓子を用意してくれた。


「さて、サクラ君とライアス君は保護者の許可を貰えたかな?」

「貰えました。危険性を理解してるのかは分からないけど……」


 うん。軽かったからね。返事。


「ローズなら理解しているよ。大丈夫」

「ええ」


 なんだかんだで母だからね。……マイペース過ぎて不安になるけど信頼してる。……付いてこないよね?


「俺も大丈夫です。むしろさっさと魔王でもなんでも倒してこいって発破かけられましたよ。功績立てて獣人国の王に収まれってさ」


 ライアスはため息を吐いているけど無事に許可は貰えたらしい。


「良かった良かった。二人とも魔国に行けるんだね。そしたら出発は二週間後だよ。こちらにも準備があるから済まないが少しだけ待ってくれ。サクラ君とライアス君はこの二週間で悔いの残らないように過ごすんだよ」


 悔いの残らないように……。それだけ危険な国なんだね。実際に中に入らないと正確な事は分からないけど、最悪の場合も想定しろってことか。


 それから二週間、魔国に行くまではといつもより多く遊ぶ時間を取った。もちろんセレスも一緒に遊び、最後になるかもしれない平和な日常を謳歌した。


 そして、とうとう出発する日がやってきたのだった。

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