第76話 アービシアとの問答

 ライラさんに案内された私達はギルドの地下へと進んで行った。薄暗くてじめじめした場所だ。


「地下牢かな? 誰に会うんだろう?」

「んーとね。ふんふん。アービシアだね!」


 アービシアがギルドの地下牢にいるの? 陛下に引き渡さなかったっけ?


「王宮じゃなくてギルドの牢なの?」

「ああ、魔族になった人間なぞ王宮に入れておけるかって反対にあってね……。冒険者ギルドに移動させたんだよ」


 ああ、保守的な大臣がいたら言いそうだ。いや、もし戦う力がなければ気持ちは分かるけどね。


「今回三人を呼んだの理由はね。アービシアをごうも、聞き込みをしてたらサクラを呼べと言われたんだ」


 今拷問って言おうとしたよね? べつに隠すことでもないと思うけど……。


「あんなんでもサクラの父親だからじゃないかな?」


 セレスが耳打ちしてきた。なるほど。私への配慮だったか。……ほとんど言ってたけど。あれ? 木の実自白剤を渡してなかったっけ?


「ああ、その件はありがとう。ただなぜか効かなかったんだ」

「えっ?」


 驚いてセレスを見るとセレスも驚いているみたいだ。


「不思議だよね。どんな秘密があるのやら」


 アービシア。魔族になってたのも関係あるのかな?


「魔法封じはしてあるけど半分以上魔族化しているからね。ライアス君には念の為に来てもらったんだ。闇魔法を使うようだったら光魔法で打ち消してくれ。拷問のプロもいる事だしちょうど良いからギルドに収容したのさ」


 そういえば魔法封じの魔道具は魔族には効かないんだっけ? 魔封じの魔道具は魔族や魔物の角を使って作る魔道具だ。使用する魔族の強さで効力が変わる。人族相手であれば基本効くけど魔族になってるし……。

 今の私なら闇魔法にも掛からないと思うけど……。というか結局拷問って言ってるし……。まあ、念の為だしありがたく守ってもらおう。


 ―――


 長い廊下を通り抜けてアービシアの牢の前に来た。


「来たか」

「私に用があるって?」


 こちらを見るアービシア。身体中に拷問で付けられたであろう傷が残っているが気にしていなさそうだ。どうやら闇魔法を使う気配はなさそうだ。


「さて、サクラを連れてきたよ。魔王について知ってる情報を吐きな」

「くっくっく。その前にそこの神霊サマに幾つか聞きたいことがある」

「待ちな。先に情報を吐いてからだよ」

「いや、いいよ。なに?」


 やたらセレスが警戒してる。木の実自白剤が効かなかったと聞いたからかな?


「いやなに、単純な疑問だ。何故オレだけ捕縛したんだ? 他の魔族、ヴァニティアとかも生け捕りにした方が良かっただろう? オレよりも魔王に近い存在がいたんだ。不自然じゃないか」


 ……! 言われてみれば確かにそうだ。依頼として魔族は殲滅するように言われてたからアービシア以外は殲滅したけどヴァニティアも捕縛した方が良さそうだったね。


「ヴァニティアを倒したのは私じゃないよ。変な言いがかりをしないでほしいな」

「言いがかりではないだろう? 現にお前はオレを助けた上に今も魔王の居場所を隠している」


 アービシアを助けた!? いや、それって体育祭の前の話では? その時セレスは事情を知らなかったから仕方ないでしょう。

 魔王の居場所。怠惰の大罪ベルフェゴールも情報がゼロだと意味がない。怠惰の大罪ベルフェゴールの効果は途中経過を省略するだけだから努力しても得ることが出来ない情報はスキルを使っても知ることができない。


「くっくっく。サクラも疑い始めたようだぞ?」


 セレスを疑う? いや、疑ってないんだけど……。そもそも魔王側だと祝福もしなかっただろうし。


「待てよ、セレスがあんたを助けたのはサクラの親族だからで悪気は無かったし、居場所は知りようが無いだろうが」

「本当にそう思うのか? 知りたいことであればなんでも知れるんだろう?」


 なんでアービシアがセレスのスキルベルフェゴールを知っている? ……そういえばエピゴーネンの鏡が吸収したセレスの魔力を遺跡の力で身に付けていたっけ? その時に怠惰の大罪ベルフェゴールのことを知ったのかな。使える期間が短すぎて正確な情報は得られなかったのかな?


「ふん。あんたがなんと言おうがセレスはスパイじゃない。現にあんたが闇魔法を使ってるのがその証拠だ」

「そうだね、セレスの能力も強力だけど完璧ではないよ」

「くっくっく。そう考えるのもお前たちの自由だ。それで、質問の回答は?」

「そういった依頼だったからだよね? 他に言いようがないんだけど……」


 うん。セレスも困惑するよね。他に理由は無いと思うし。


「ふーむ? そういう事にしておこう」


 アービシアが含み笑いをした後、セレスから私に向きを変えた。


「サクラ。いくら仲良くなっても神霊を信じるな。これは父から娘への忠告だ」


 今更何が父だ。ふつふつと怒りが湧いてくる。本気で殺しに来た男の言うことを聞いて命の恩人を信じるなだと? 


「忠告ありがとう。でも大丈夫。セレスが嘘を言ったら私は分かるし、逆に私が嘘をついたらセレスが分かるほどには仲良くしてるから」

「サクラ……。うん。私はスパイじゃないしサクラの味方だよ!」


 セレスから感動した感情が伝わってくる。私がセレスを疑うとでも?


「うん。セレスを信じてるよ」

「えへへ。私もサクラを信じてるよ」


 セレスの頭を撫でる。目を細めて気持ちよさそうだ。


「さて、もういいかい? あんたの言いたいことはよく分かんなかったけどさ、神霊様はちゃんと質問に答えたんだ。魔王の情報を吐いてもらうよ」


 とうとう魔王の情報が手に入るのかな? 少し緊張してきた。私の緊張を感じ取ったセレスにテシテシされた。あらやだ可愛い。


「こんなところでいちゃつくんじゃないよ。さて、お待ちかねの魔王の情報を聞こうか」

「くっくっくっ。悪いが魔王については何も知らないよ。心当たりはあるがな」


 もしかしてセレスの木の実自白剤は効いていたけど、魔王の情報を知らなかったから何も話さなかったのでは?


「ならその心当たりを吐きな!」

「くっくっく。そう急くな。遺跡にいた魔族からの情報だが最近魔国の国王が死んだらしい。後釜には良く分からんチビが収まったとさ」


 魔国は魔族が住む国で、新しい王様がチビなんだね? それが魔王だと言ってる? SDSの魔王はチビじゃなかったけど……。情報ははずれかな?


「チビ? 魔国の王には一人娘がいただろう? その娘とは違うのかい?」

「ああ、その娘は行方不明だと。魔国は実力主義の所があるからな、新王が殺したんだろう。反対した奴らは全員返り討ちになってそのチビの下に付いたんだと。どうだ? 魔王のイメージにピッタリだろう?」


 つまり元々敵対していた魔族達が手のひらを返したってことか……。魔族は魔王を崇拝してるから新しい王が魔王だと知って下に付いた可能性がある。……もしかしてチビの姿は魔王の形態変化前とか? SDSでは出てこなかったけど魔王に第二形態があるとか鉄板だもんね。魔国に確認しに行くのもありかも。


 その後もしばらく問答をしたけどこれ以上の有意義な情報は得られなかった。

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