第74話 セレシアの祝福

 ふと目が覚めた。どうやら気絶していたようだ。龍形態のセレスに寄りかかっている。龍の姿もフワフワだ! 龍のイメージで硬いと思っていたけどそんなことは無く、天然の羽毛布団みたいに感じる。このまま二度寝したい。……あれ? なんで寝てたんだっけ? ……あぁ、最後に力尽きたんだったな。いい所まではいったと思ったのに、祝福は貰えないかな?

 悔しくなってセレスのフワフワを思いっきりわしゃわしゃする。すると私と一緒に寝ていたらしいセレスが目を覚ました。


「サクラおはよう!」

「おはよう。セレスには勝てなかったよ……」

「いや、正直俺はドン引きしてるぞ」

「ちょっと人間離れし過ぎなの」


 私達が起きたことに気付いたレオンとジークの二人がこちらにやってきた。え、神霊にドン引きされるレベルだったの? 私のこと? それは良い意味で? 悪い意味で? それともセレスの試練の難易度の話?

 私が頭にハテナを浮かべていると猫の形態に戻ったセレスが満面の笑みで宣言した。


「おめでとう! 試練は合格だよ!」

「……へ? 負けちゃったのに?」

「勝負に勝てなんて一言も言ってなかったろ?」

「あ……」


 確かに試練として戦えとは言われたけど勝てとは言われてないや。


「ま、善戦しなかったら祝福に値するとは認めなかったけどな」

「な、なるほど。じゃあ私は善戦できてたんだね」


 そうなのか。負けちゃったとは言え善戦できたと認められた事がかなり嬉しい。


「サクラ強すぎなの。戦闘向きじゃないリヴィやルディには勝てると思うの」

「そうなの?」


 リヴィはSDS五周目のルディは六周目の主人公のパートナーだ。二人はサポートが得意で戦闘は苦手だったね。例えサポート専門が相手だったとしても各種族の頂点で始祖の神霊に勝てるレベルまで強くなっていたとは……。しかも今回の戦闘で思い付いた魔法二つはまだまだ未完成だし成長の余地も多いだろう。


「うんうん。さすがサクラだね! このまま強くなっていければ魔王にも勝てるかも」

「それでも“かも”なんだね……」


 はてさて、魔王の力はどれくらいなのだろうか……。


「試練も合格だしこれから祝福を授けるよ! ついてきて!」


 セレスに案内されて庭を進む。三人とも猫の形態を取っているため猫の散歩をしてるみたいで癒される。


 しばらく歩くと一際大きな木の前に出た。木は湖の中心に位置している。湖には半透明の金属が浮かんでおり、金属の内側には炎が幻想的に燃えている。湖には円状の光が点在し、その光の上に乗れるみたいだ。しばらく湖を眺めていたが、顔をあげて息を飲む。


「桜……」


 私と同じ名前の木。そういえばこの世界に来てからは見たことなかったな。


「日本の知識か? この世界にはここ含めて三本しか生えてない特別な木だ。場所によっては神樹とも言われている」


 レオンが説明をしてくれた。桜が神樹か……日本でも桜には神が宿ると言うしあながち間違ってないのかも。それにしてもこちらの人が日本に行ったら大騒ぎしそうだね。いや、そもそも実物を見る機会が無いと気付けないか。

 私が幻想的な姿に見惚れていると神霊の三人が人の形態に変化した。


「サクラ。おめでとう。レオンハルト・R・シャオローナが試練の合格を見届けた」

「さすがだったの。ジークハルト・A・シャオローナが試練の合格を見届けたんだよ」


 二人が見届け人として口上を述べると辺り一体の草花が仄かに光る。


「サクラ。この庭はね? 私達神霊が契約者に祝福を授ける為に創ったんだ。桜の木を通して自慢の契約者を私達のお母様に認めて貰えるように。でも、実は今日が初めてなんだ」

「初めて?」

「俺達のお母様が契約者に祝福を与えることを認めることだ。今までも何人か祝福を授けようとしたんだけどな、全員認められなかったんだ」

「そうだったんだ」


 神霊の気持ちだけじゃ祝福は貰えないのか……。あれ? いつ私が認められたって分かったんだろう? まだ祝福受けてないよね?


「セレス。自分で説明しろよ?」

「う、うん。えへへ、実は認められなかった場合、契約者は死んじゃうんだ」

「そう…………。えっ?」


 待て待て。せめて先に言って欲しかったかな?


「サクラは大丈夫だから言わなかったの」

「な、なるほど。でもせめて言って欲しかったな」

「怒ったりしないのか……」


 レオンが驚いてるけどどうしたのだろうか。セレスが大丈夫だと知っていたのは怠惰の大罪ベルフェゴールの効果だと思うし絶対に平気だと分かっていたのなら怒る必要はないでしょう。……もし危険だったら怒ったけどね。


「じゃあ改めて祝福を授けるよ」


 桜の木のすぐ隣でセレスと向き合う。神秘的な雰囲気に自然と背筋が伸びた。

 セレスが桜の木に魔力を流すと桜の花が輝きだす。光が伝播していき湖に光が広がっていく。一瞬、光が強くなり眩しくなる。光が人型を形取り、私の体を通過した。


 不思議な感じがする。なんだかセレスとの結びつきが強くなったような?

 気が付くと辺りが元の幻想的な景色に戻っていた。


「これで祝福はお終いだよ! ステータスを確認してみて!」


 猫の形態に戻ったセレスに急かされてステータスを確認することにする。


「ステータス」


 *****

 名前:サクラ・トレイル(桜庭龍馬)

 種族:エンシェントエルフ


 生命力:6000→10000

 魔力:2500000→5000000〈適正:天〉

 体力:S→S+

 物理攻撃力:A→S

 魔法攻撃力:S+

 物理防御力:A→S

 魔法防御力:S

 器用さ:B→S

 素早さ:S→S+

 運の良さ:B→A


 特殊スキル:ステータス、アイテムボックス、鑑定

 種族スキル:植物の友

 祝福スキル:セレシアの祝福

 *****


 とうとう運の良さ以外のステータスが全てSを超えちゃったね。……一応一つでもSに到達すれば超人扱いなのに私は何扱いされるのかな? ……気を取り直して、セレシアの祝福は祝福スキルなんだね。


「そこまでは大きく変わってないかな?」

「祝福を付けるだけだからな。むしろ大きく変わってたら異常だぞ」

「ステータスが上がってるのは今までの経験が反映されただけだね」


 何度も死にかけたもんね。経験値もいっぱい得られただろう。


「一度死にかけると同じ状況で死なないようにってステータスが上がる人が多いんだよ?」

「ま、それだけ大変な実戦を経験するってことだからな」


 死にかけるほど大変な実戦……。一度目はアホな不意打ち食らっただけで、二回目は闇魔法に掛かって精神が参ってただけなんだけど……。今回のセレスとの戦闘だけじゃないかな?


「……。それは知らん。サクラだからだろう。いや、セレスがやりすぎただけの気もするが……」


 セレス……。いや、ありがたいけどね? おかげで強くなれたし。


「さて、私の祝福の効果なんだけど」

「なんだけど?」


 戦闘でも死にかけたし、認められなかったときは死ぬほどのリスクを乗り越えて得られたスキルだ。嫌でも期待が高まるよね! 少し前のめりになる。


「分かんない!」

「うぉい!」


 思わずずっこけてしまった。しかも変な声出た。ちょっと恥ずかしい。


「あ、でもね、私とサクラの繋がりは強くなったよ!」


 繋がり……私もそれは感じたけど……。なるほど、簡単な感情が伝わってくる感じがする。今は喜びと楽しさが大きいな。


「祝福の効果は持ち主に必要な効力を持つと言われている。その時になるまで効果は分からん」


 私に必要なスキル……。天の適正を延ばしてくれたり、弱点……今の私にはそこまで弱点は無いと思うけど、弱点を補ってくれたりするのかな?


 ―――


 ステータスの確認を終えた私達は解散し、私は寮へと戻った。


「サクラ、どんな結末になっても後悔しないようにしようね!」

「? そうだね。今できる全力を尽くすよ」


 どんな結末になっても。か、魔王に負けてしまった場合私は、この世界はどうなるのだろう? SDSの世界ではゲームオーバーになってもやり直しが出来た。七周目の世界でも再度六周すれば挑戦できた。けど今は? きっとセーブアンドロードなんてできない。死んだらそれでお終いなんだ。そんな事を思い、一人気を引き締めるのであった。

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