第60話 パレードのお誘い

 話が終わり、解散になる直前に陛下が爆弾を投下した。


「次回のパレード、サクラ君も主催者側で参加しないか?」


 パレードと言えば王族が主催する行事だ。年に四回ほど陛下の気分次第で行われるけれど、今まで王族以外の人が主催者側で参加したことはない。つまり私が主催者側でパレードを参加することは私が将来王族の一員になりますよ。と言っているのと同義だ。ここで既成事実作って私を取り込もうとしてる? いくらなんでもしつこくない?

 私が陛下を見る目がジト目に変わってたのに気が付いた陛下が補足してきた。


「サクラ君が契約した神霊様のお披露目をしようと思ったんだよ。王族側の立ち位置に居るって民に誤解させて逃げられなくしようだなんて考えてないよ。……ちょっとしか」


 ちょっと考えているのかい! 危ない、これは私が気付かなかったら外堀埋めてたな。うーん。どう返すのが正解かな?


「陛下、ちょっと待ってください」


 返答に悩んでたらライアスが横から口を出てきた。


「なんだい? ライアス君もサクラ君を狙っているのかい?」


 陛下の脳みそ恋愛脳になってる? 噂のいい人ともさっきの腹黒さからもイメージが離れすぎていて頭が混乱しそうだ。


「いえ、そうじゃなくてですね……。サクラのバックに王族が付いてるってなったら噂を使って評判下げた意味が無くなりませんか?」

「ライアス……。王族が後ろにいる存在にちょっかいを出せる貴族が本当に居ると思っていますか?」

「あ……」


 うん、少数のおバカさんは出てくるかも知れないけどそれは今までも同じことだから変わらない。心配があるとすれば学園生活だけど、一度思いっきり距離を取った前科がある以上、露骨に近寄ってくる人は少ないはずだ。……少ないよね?


「パレードの参加、前向きに検討したいと思い……」

「うんうん。承諾してくれて良かった」

「ただし、いくつか条件があります!」


 食い気味に言葉を言ってこちらの返答を強制的に終わらせようとたな? ……ちゃんと聞くつもりはあると思うけど人をおちょくるのが好きなのかな?


「呑めるか分からないけど聞くだけ聞くよ」

「呑めなかったら参加しないだけなので構いません。それに、検討するとは言ったけど参加するとはまだ言ってませんからね」

「屁理屈こねるね」


 屁理屈とは心外だ。日本人の秘技、曖昧にする。を使っただけだ。


「一つ目は、セレスが嫌がったら無理強いはしません。パレードの目的は神霊のお披露目なのでその時は私も不参加でお願いします」

「うーん。こちらとしても神霊様に無理なお願いは出来ないから仕方ないね」

「二つ目は、何人か一緒に参加して欲しい人がいます」

「それは人によるかな?」

「まずは同じ神霊の契約者としてライアスを、それから……」


 ―――


 無事に条件を呑んでもらい王宮を後にする。連れてく相手の承諾を得ないといけないから参加の可否は後日シルビアを通して答えることになった。王宮からの帰り道にライアスから質問がくる。


「それにしてもなんであいつなんだ? お前、あいつに敵対視されてるし断られるだろう?」

「ま、断られても構わないよ。ライアスとカトレアちゃんが一緒なら誤解も減りそうだし。ただ、念には念をいれておこうと思ってね」


 さて、早速生徒会室へ……行く前にカトレアちゃんに確認を取るかな。


 ―――


 寮に帰って、カトレアちゃんに会う。不敬なことをしなかったかやたら心配されたけど大丈夫だったと何とか納得してもらいパレードの話をする。


「え、私には荷が重いんだけど?」

「そこを何とか……」

「なに? 王太子妃の外堀埋められるのが嫌だからって私に押し付けるの?」


 はっ、しまった説明不足でカトレアちゃんを勘違いさせてしまった。不機嫌な顔をしたカトレアちゃんに頬を引っ張られる。


ひひゃうひひゃう違う違う、そこは対策にあの子を誘うつもりだよ。」

「冗談よ。それにしても大丈夫? サクラの施しは受けないだとか敵に塩を送るつもりかだとか言って断られない?」

「一応シルビアと一緒に誘うつもりなんだけど……」

「余計に心配になるわね。私もついてくわ」


 ―――


 次の日、授業が終わってからカトレアちゃんとシルビアと三人で生徒会室へ向かう。


 コンコンコンッ


「殿下、今日もご機嫌麗しゅう。サクラさんも御機嫌よう。ここは生徒会室なので部外者は立入禁止ですわ。それとも迷子にでもなりましたか?」


 生徒会室に入るとガーベラが挨拶をする。途中で私に気付いて嫌味を言うのを忘れない。うん。目的の人物に会えたようだ。


「おはよう、今日は話があるんですか良いですか?」

「殿下からのお話であればいつでも大歓迎ですわ。サクラさんの道案内を用意するのでお待ちくださいませ」


 おおう、早速帰らせようとしてきたぞ。


「いや、サクラも今日の話に関係があるので帰らせなくて大丈夫ですよ」

「それは残念ですわ。せっかく殿下から逢瀬のお誘いだと思いましたのに」


「ガーベラ。私のことも無視しないでよね」


 ここでカトレアちゃんが話に入ってきた。確かカトレアちゃんとガーベラは仲良しだったね。……いつ仲良くなったんだろう?


「カトレアいらっしゃい。歓迎するわ」

「あなた殿下と同じくらいサクラのこと好きよね……」


 え? ガーベラってツンデレだったの?


「カトレア? 言って良い冗談と悪い冗談があるのよ?」

「ごめんなさいね。殿下とサクラには気付いたのに私には気付いてくれなかったから意地悪を言ってみただけよ」


 ガーベラは苦虫を噛み潰したような顔をしつつも生徒会室の中へと入れてくれた。私の椅子も渋々だが準備してくれたみたいだ。


「ではサクラ。説明をお願いしますね」

「シルビアから話した方がいいと思うんだけど……」

「まあ、殿下にお手を煩わせるおつもりで?」

「ではガーベラさんにお願いがあります」

「お断りしますわ」


 うーん。返答が速い。これにはシルビアも苦笑いだ。


「せめて話を聞いてくれませんか?」

「殿下のお願いならいいですわ。サクラさん。貸一つですよ?」


 待て待て、なんでお願い聞くだけて借りを作らにゃならないんだ。


「ガーベラ。素直にサクラの話を聞いてあげてちょうだい」


 カトレアちゃんがため息を吐きつつ。援護してくれる。


「殿下とカトレア二人からのお願いでしたら無下にはできませんね。サクラさんカトレアに感謝するんですよ?」


 何か納得がいかない! そう思いつつもしぶしぶパレードの説明をした。


 ―――


「分かりましたわ。そういう事でしたらご協力しましょう。敵に塩を送られるのは良い気がしませんが背に腹は変えられません」

「敵じゃないってば……」

「女という生き物の強かさは女であるわたくしが一番良く知ってるつもりですわ。そんな言葉で騙せると思わないことね」


 この人めちゃくちゃ頭良くて有能なのに……なんでこう少し残念なんだろう。

 なにはともあれ、無事にガーベラもパレードに参加してくれることになったのだった。


 ―――

<アービシア視点>


「俺は……?」


 とある部屋の中でアービシアが起き上がり周りを見る。すると繭の抜け殻と鏡が目に入る。


「これが俺か?」


 鏡に映る自分をみて驚くアービシアの後ろからシルクハットの魔族が近付く。


「さすがに魔族になると驚きますか? おめでとうございます。これであなたも同胞ですよ」

「そうだな……。魔族になったことよりもこの姿がしっくりくる……いや、正確にはまだ物足りない気もするが違和感がないことに驚いている」


 浅黒い肌に額の角が生え、よく見ると見える黒い靄を纏った姿は魔族というよりも魔王といった方が相応しく思える。


「そういえばこの鏡はなんだ?」

「ふふふ。それはただの骨とう品です。そんなことよりも魔族の応援を呼んできました。挨拶をしておいてくださいね」


 シルクハットの魔族が消える。


「そういえば強化した魔物達はどうなった? いや、後で聞けばいいか」


 そう言ってアービシアは部屋の外に出ていった。

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