第58話 王宮にて

「気軽に返事をしたあの時がうらめしい……」

「いや、どの道陛下からの呼び出しじゃ拒否権ないだろ」


 殿下の罠? に嵌り、王宮に行くことになった当日。テンションだだ下がりなのは私ことサクラ・トレイルである。

 ブルーム王国の王様は悪政をひいてる訳でもなく、殿下も良い人だって言っていたため理不尽な何かをされるとは思はないがそれはそれ、王様に会うことは緊張するのである。

 今朝、カトレアちゃんにサクラにも緊張することがあるなんて! って驚かれたけど私をなんだと思ってるのかな? と小一時間問い詰めたいところだ。


「セレスとレオンは全く緊張してないね」

「人族の中で一番偉くても俺らには関係ないからな」

「zzz」

「……、せめて起きた方が良いとは思うけどな」


 うん、今日もセレスはぐっすりだ。まあ、起こそうと思ったら直ぐに起きてくれるし問題は無いんだけどね。


 王宮に着くと門番さんからストップがかかる。とても丁寧に対応して貰いつつ案内の人を待つ。


「ちぇー、理不尽な対応されたら帰ろうと思ってたのに……」

「小説じゃあるまいし、王宮の精鋭達がそんな伝達ミスするわけ無いだろう」


 ライアスの言う通りだと思う。ただ単に帰る理由が欲しかっただけだ。ふてくされてると殿下がお迎えにやってきた。


「ふふふ、帰られなくて良かったですよ」

「殿下自らお出迎えとは光栄だね」

「知ってる顔の方が緊急しないと思いまして。特別ですよ?」

「殿下が出てきてビックリしたから帰っていい?」

「理由にもなってませんね。却下です」


 ニッコリと却下されてしまった……。腹を括るしか無いか。残念。


 ―――


「シルビア? なんでここに?」

「がちがちの謁見じゃなくて非公式の物なのでここでリラックスしながら報告してもらおうかなと。……それとも玉座の前で礼儀作法に注目されながら報告したかったですか?」

「こっちでお願いします! ありがたやー」


 殿下に案内された場所は玉座がある部屋ではなく綺麗な庭だった。メイドや警備の騎士もおらず、王様が来てもいいのか不安になる。


「ここは魔法で保護されているから警備の心配はありませんよ。王都内で最も安全な場所の一つです。ここは王族と神霊の契約者にしか入れないんですよ」


 あぁ、なるほど。私が本当に神霊と契約したのか調べるのが狙いか。殿下の入れ知恵か、陛下の発案か……。殿下を見ても顔に出てないな。


「それって下手したらアービシアも入れるんじゃないか?」

「なんでさ? 契約してないよね?」

「力を借りるのと契約は別判定なのか気になってな」


 んー。言われてみれば確かにそこらへん曖昧だね。神霊達にしか分からない差だろうし。


「どの道ここに来るためには王族しか知らない道を通る必要があるから大丈夫ですよ。」


 確かにここに来るまでかなり入り組んでいたけど頑張れば来れそうな気がするんだけど?


「王族の血筋じゃないと迷子になる魔法がかかってるんだよ? 王族の案内がないと気づいた時には外にでちゃうんだよ」

「あ、ジーク。そうなんだね。ありがとう」


 ジークが姿を見せて教えてくれた。それなら平気そうかな。神霊様のお墨付きだし。せっかくジークが来てくれたからセレスを起こしてみる。


「セレス起きて、ジークが来たよ」

「うん。そうだね」

「え? それだけ? 何か久しぶりーみたいなのないの?」

「ないよ? 数十年数百年会わないのだってざらにあるからね」


 そこは人と神霊の感覚の差なのだろうか。挨拶くらいしていいと思うんだけど。

 それでもセレスもレオンも姿を現すくらいはするらしい。


 ―――


 しばらく三人で談笑しつつ庭を眺める。三人の神霊達の戯れを見ていると知らない気配が近づいてきた。多くの植物が近くにあるからか周りの動きがよく分かる。振り向いてカーテシーをする。


「おや、気配を隠してたはずなのに気付くとはやるね。さすがはローズの娘さんといったところかな? どうだい、シルビアの嫁に来ないか?」


 めっちゃフランクに話しかけてきた。気になることは他にもあるけどまずは、


「お初にお目にかかります。七龍学園の生徒、サクラが召喚に応じ参上しました。早速ですが、私に王太子妃は荷が勝ちすぎておりますので、聞かなかったことにさせて頂きます」

「おやおや、残念だったね? シルビア。振られてしまったようだよ」

「父上、冗談はやめてあげてください。サクラが困っているでしょう?」

「うなずいてくれたら直ぐに婚約させようと思っていたくらいには本気で思っていたよ。残念ながら脈無しみたいだけどね」


 あっはっはと笑いながら殿下をからかう王様。カーテシーといていいかな?


「ああ、すまないねサクラ君。カーテシーは解いていいよ。ライアス君も楽にしてくれ。今日は非公式で口うるさい執事も近衛兵もいないんだ。もっと緩くいこう」


 そういいつつ自分でお茶を入れる王様。……はっ。


「そういうことは私たちがやります」

「自分で入れるのが僕の趣味なんだ。やらせておくれ」


 にっこりと断られた。この断れない笑顔がなんだかシルビアに似てる。いや、シルビアが陛下に似てるんだろうけどね。ちらりとシルビアを見るとやや呆れた顔をしながら頷いているから陛下の言葉は本当なのだろう。


「さて、二人も好きに座っていいからね。んー、神霊様には僕からお願いできないからね。自由にしてもらおう。この庭園にサクラ君が入った時点で要件は済んでるしいいよね」


 やっぱり私が契約してるか確かめるためにここに案内させたのか。陛下の発案だったんだね。


「サクラ君は意図に気付いていたみたいだね。さっきも言ったがさすがローズの娘さんだ。僕が本気で隠れて気付いたのはローズ以来だよ。それに頭もいいようだね」


 ライアスが疑わしげな眼でこちらを見ているがそれよりも気になることがある。


「母のことを知っているのですか?」

「もっとフランクでいいんだけどね。気持ち話わかるからそのままでもいいよ。それとローズのことだったね。うん、僕は昔よく城を抜け出していてね。その時に仲良くなったんだよ。国王だとばれたときに態度が変わらないか心配で正体を隠してたんだけどね? ローズは最初から知ってたんだと。何で気が付いたのか聞いたら首をかしげてなんとなくよ~って言っててね。僕のいたずらにもすぐ気づいちゃうしいろいろと凄かったんだよ」


 妙に母の口調の真似が上手い……。お忍びでも何となく気付けちゃうあたりさすが私の母だね! それにしても母にいたずらを仕掛けるって怖いもの知らずだな? いや、王様だし母よりも権力は持ってるけどさ……母には権力とか関係なさそうだし。……ん? てことはつまり。


「母の態度って……」

「うんうん。最初から最後まで一貫して変わらなかったよ。修行を頼んだときなんて普通に殺されるかと思ったよね。」


 ですよね。相手が一国の王だとうとマイペースを貫くのが母だよね。そこに痺れず憧れずだよ……。


「母が失礼しました……」


 遠い目をした陛下と共に私の目も遠くなる。母よ。自重をしてくれ!


「でもね、他のメンバーが僕の正体が国王と知って今のサクラ君みたいに少し丁寧な言葉になったときに、寂しかったんだけどローズだけは普通に接してくれたんだ。それで他のメンバーが接し方変えないんだなってローズに突っ込んだらローズはなんて言ったと思う?」

「陛下は国王だろうと陛下だと。あ、この言い方だとわかりにくいかもしれませんね。えーっと。立場が違くとも人としては今までと変わらないとか。お忍びなのはその立場をしてたいのだから今まで通り接した方がいいとか。その辺でしょうか?」

「その通りだよ。さすがだね。ということで寂しいから友達に接するように僕にも接してほしいな?」


 ……陛下。まだフランクな接し方を諦めてなかったんですね……。

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