第56話 緊急クエスト完了
「さて、続きを聞くとしようか」
美味しいお菓子で糖分を補給して再度報告に入る。魔の森に着いてからのことだったね。
「魔の森に入ったらセレシアの居場所が分かったのでそちらに向かいました」
「なんで場所が分かったんだ?」
「そこは“サクラだから”で納得しておけ。理不尽なことや異常事態がおきたら“サクラだから”で済ませないと精神が持たないぞ」
私は精神破壊の兵器かなにかですか? ジト目を向けたらお菓子を口に突っ込まれた。もぐもぐ。
「サクラには悪いけど精神衛生上そうすることにするよ。本当は周りが納得できるように報告書をまとめたいけど少しくらい大丈夫だろう」
「みんなの前に私が納得できないけどまあいいです。続きを報告しますね。セレシアのところに向かいつつも襲ってくる特殊個体と変異体を処理していきました。この二種類の敵性体については聞いていた話の通りだったので割愛しますね」
「そうか。で、二人から見て強かったかい?」
「いえ? 全く」
「右に同じ」
日本の話で盛り上がっても平気なくらいには弱かったかな。
「そ、そうか……。Aランク冒険者数人で組んだパーティーでやっと情報を得て帰れるレベルだったんだけど……」
「?」
「いや、気にしなくていいさ」
良く聞こえなかったけどライラさんも気にしなくていいって言ってるし平気かな。
「えっと、セレシアはすぐに見つかったので、特殊個体と変異体、アービシアについて尋ねました。そしたら特殊個体については良い手があるって言って……。先に変異体について話しましょう」
「何かあったんだな! その良い手が問題だらけだったんだな!?」
「ええ、まあ、そうですけど先に変異体について言っちゃいますね。セレシアが魔の森の性質を変えて変異体を通常種に戻しました。特殊個体と変異体に対処した後、遺跡に向かっている間と、王都への帰り道で変異体に遭遇する回数が減っていったので変異体への対処は大丈夫です」
完全に消えるのは時間の問題だろう。
「…。サラッととんでもないこと言ったな……。神霊はやっぱり規格外か……。んで、特殊個体の殲滅方法は?」
「特殊個体をすべてひとまとめにしてライアスの炎魔法で焼き殺しました」
「ひとまとめ……。もしかして森ででた巨大な魔物の目撃情報って……」
「おそらくその超くっついたちゃんのことでしょう」
「は? 超くっついたちゃん?」
何を疑問に思うのだろう? と首をかしげるとライラさんも首をかしげている。
「……。こいつらのネーミングセンスは皆無だ。巨大特殊個体でいいだろう」
「名前なのか……。何事かと思った……」
ライラさん今までで一番衝撃受けてない? と心の中で膨れてるとお菓子を突っ込まれた。もぐもぐ。
「んで、焼き殺したところまでは良かったんですけど、そのまま火の塊が湖に落ちて水蒸気爆発が起きた結果私達二人は死にかけた上に湖が消えてクレーターになりました」
「……」
あれ? ライラさん放心状態になってる?
―――
コンコンコンッ
ライラさんが復活するまでお菓子を食べながら待っているとドアがノックされてから開く。入ってきたのはレイラさんだ。
「報告は終わったかしら? ……終わってなさそうね。お姉ちゃんがぐったりしてる……」
「やっと来たか……。一緒に聞いてくれないかい? あたしの胃がもたないよ」
「おおう、相当強烈だったのね。どこまで話を聞いたの?」
「爆音と巨大生物の原因まで聞いたよ。そこで二人が死にかけ……。たようには見えないね」
私達が今着ている服は全く汚れていない。そう、爆発前にかけた魔法は私たちの服を守るための魔法だ。その分自分がダメージを食らったけど……。いくら元男でも人前で裸になるのは嫌だからね。
「壮絶な場面? で終わってたのね。サクラさん。私のお姉ちゃんをいじめないでくださいね?」
「いじめてないですよ?」
もう! レイラさんはなんて人聞きの悪いことを! 報告止めちゃうぞ? んむ。もぐもぐ。
「冗談ですよ。続きを聞かせてくれますか?」
「はい。ま、爆発に巻き込まれて死にかけたんですけど、セレシアが助けてくれたので全快しました」
「セレシアって神霊様のこと? さすがですね!」
「疑問に思えよ」
あっさりと話を受け入れたレイラさんと頭を抱えているライラさん。双子なのに対称的だ。
「これで特殊個体も変異体も対処が終わりです。次に遺跡の結界についてです。こちらは学園に張られていた結界と同様のものが遺跡をドーム状で覆っていました。これで報告は以上です」
「報告ご苦労様でした。おかげでちゃんとした報告書が書けそうです。お姉ちゃんが」
「待て待て、前半聞いてなかったでしょう? なんでレイラが断言するんだい?」
何度聞かれてもこれ以上の報告は……あ、忘れてた。
「そうだ。私、セレスと契約しましたよ」
あ、ライラさんがまた机に突っ伏した。
―――
報告が終わり、ギルマスの部屋をでて受付に行く。担当はレイラさんだ。さっき詰め寄ってきていた冒険者たちも頭が冷えたようで、横を通ったりすれ違ったりするときにさっきのことを謝罪された。
「さて、長くなってしまったけどこれで緊急クエストは達成です。こちらが今回の報酬です! いっぱい色付けてますよ! それから、後ほど補足事項を聞くかもしれませんが大丈夫ですか?」
「ありがとうございます。今日のこと以上に答えられるかは分かりませんが了解しました」
「それでかまいませんよ。直接話を聞きたい方に心当たりがあるだけなので……」
すごい。スタンピードの時と同じくらいの報酬を貰えた。
それにしても後半が聞き取れなかったけどどうかしたのだろうか?
―――
<???視点>
遺跡の内部ではシルクハットの魔族が外の様子をうかがっていた。
「困りましたね。ふふふ。どうやら準備していた魔物達が全てやられてしまったようですね」
シルクハットの魔族が遺跡の一室に入るとそこには鏡が佇んでいた。
「私はあの御方の御意思に従うだけです」
鏡を見てシルクハットの魔族は笑う。
「早く覚醒していただかないと……。お待ちしておりますよ。魔王様」
魔族の言葉を聞いていたのは一枚の鏡だけだった。
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