第54話 セレシアとの契約

 レオンの説教が終わり、泣きつかれたセレスが私の膝の上で寝てしまった後、私はレオンに何が起きたのか説明をする。


「水蒸気爆発?」

「そ、水に高熱の炎をぶつけると爆発するって考えてもらえばいいかな」

「そんなことがあるのか。火に水をかけると消えると思ってた」


 魔法が発達してる世界では化学現象や理論は解明されてないのか。


「水かけて火が消えるのは酸素……火が燃えるための燃料を水が通らなくするからだよ」

「たしか油を火にかけるとより燃えるよな? なんで水だと火が消えるのに油だと消えないんだ?」

「それは……、確か油はそれ自体が燃料になるから燃えるけど、水は燃料にならないからだったかな?」


 うろ覚えだがたぶんあってるだろう。セレスはまだ寝ているけど説明が一段落したためこれからどうするかを話し合う。


「変異体はこのまま放置しても消えていくんだろう? うまくいけばアービシアの強化も解除されるかもしれんな」

「そうだね。結界の魔道具も壊れて中に入れるようになってたりして」


 希望的観測を言い合う。……何の時間だこれ? もっと建設的な話をしようか。


「遺跡の位置は分かってるんだからパッと遺跡見てすぐ王都に戻ろうか。さっきの爆音が王都に聞こえてたらみんなに心配かけちゃうし……。あ、先にセレスと契約しようか」

「そういや契約もまだだったな。やたらと懐いてるけど……。大丈夫か? ずっと寝てるぞ?」


 セレスを起こして契約を頼む。


「セレス。おはよう。契約ってどうするの?」

「サクラ。おはよう! サクラは何もしなくて大丈夫だよ!」

「なるほど。セレスに身を任せればいいんだね?」

「うん。僕に任せて!」


 おぉ。SDSでは見れなかった契約の瞬間だ。ワクワクする。


「サクラ。もう契約は終わったよ?」

「え?」


 なにかこう、光るとか力が沸き上がるとかないのだろうか? 魔力を流された感覚もなければ気が付かずに終わってたんだけど!? プチパニックになってるとしょんぼりした顔のセレスが見上げてくる。


「僕との契約は嫌だった?」

「そんなことないよ! ただ、契約できた実感がなかっただけ……」

「んふふ~。ステータスを確認してみて?」

「え? 契約者とかは表示されなかったはずじゃ?」

「いいからいいから」


 せっついてくるセレスに別に手間でもないから良いか。とステータスを開く。


「ステータス」


 *****

 名前:サクラ・トレイル(桜庭龍馬)

 種族:エンシェントエルフ


 生命力:2500→6000

 魔力:200000→2500000〈適正:天〉

 体力:A→S

 物理攻撃力:B→A

 魔法攻撃力:S→S+

 物理防御力:A

 魔法防御力:A→S

 器用さ:C→B

 素早さ:A→S

 運の良さ:D→B


 特殊スキル:ステータス、アイテムボックス、鑑定

 種族スキル:植物の友

 *****


「……なにこれ!?」

「僕と契約した恩恵だよ!」


 褒めて褒めてと頭を押し付けてくるセレスの頭を撫でつつ改めてステータスを確認していく。

 名前は良いとして、種族……。種族制限が消えたと思ったら種族変わってるし……。エンシェントエルフってなんだ……。


「無事にエンシェントエルフになったねー」

「は? エンシェントエルフじゃなかったのか!?」


 レオンが驚いた声を出す。いやいや。私はもともと種族制限がかかったハーフエルフでしたよ?


「エンシェントエルフってなに?」

「僕が最初に作ったエルフの祖みたいなものだよ。僕が直接作った存在はもういないはずだから今いるエンシェントエルフはサクラだけかな?」


 そういえば、神霊は神の子供で各種族の祖だったな……。もしや……?


「ライアスも先祖返りの一種?」

「そうだぞ。わかりやすくていいだろう?」


 SDSでは言及されていなかったけど神霊と契約する主人公たちは全員先祖返りなのだろうか?


「待て待て。契約者は全員が種族返りとして生まれるはずだぞ。サクラはなんで違ったんだ?」

「私に聞かれても……。種族制限がかかってたんだけど……」

「うーん。……親が何か特殊だったのか?」


 レオンがぶつぶつ言っているがよく聞こえないな。それは置いておいてひょんなことからSDSの豆知識を得られてラッキーだ。


 次にステータスを見て……。見て……。何度見ても魔力が桁一つ分増えてるんだけど……。


「僕の魔力の一部を使えることになるからね! 最初のほうは魔法を使ってもサクラの魔力は減らないよ」


 えぇ、魔力が減らないって……。こんなに魔力があるのも無駄にしか思えないんだけど……。


「微妙に勘違いしてるな? そうだな……。サクラは今、自分の魔力タンクとセレスの魔力タンクを別々に持ってると思ってくれ。そこに表記されてるのは二つのタンクを合わせた量だ。んで、魔法を使うとセレスの魔力を優先的に消費するからサクラの魔力は減らないってことだ。ま、セレスの魔力が尽きることはないからサクラ自身の魔力はほぼ無駄だがな」


 がーん。レオンに私の魔力が無駄って断言された。


「そんなことないよ? 僕の魔力をどれくらい使えるかは本人の資質に左右されるからね。サクラのもともとの魔力が多いからそれだけ使えるものだと思って?」


 なるほど、魔法を使うと表記上は減っていくけど基本セレスの魔力だから私には影響がないってことだね。


 続いて他のステータス……。S+ってなんだ? SDSでは上限がSじゃなかったっけ?


「さすがサクラ! S+なんてすごいじゃん!」

「ステータスってSまでじゃなかったの?」

「それは一般人のことだな。神霊の契約者は鍛えるとSの壁を破ってS+になることがあるんだ」

「僕たち神霊にダメージを与えられるのはS+を超えてからなんだよ?」


 えぇ、一般人というか冒険者ギルドで超人扱いされてるS評価でも神霊にダメージを与えられないのか……。神霊を攻撃する機会なんて来ないだろうけど。後でS+評価のことをライラさんに教えてあげよう。


 最後に、種族スキルが増えてる。植物の友?エルフらしいスキルだけどどんな効果があるのだろう?


「植物の友は植物がみんなお友達になってくれるよ!」

「友達に?」

「そう、例えばさっきの水蒸気爆発? に巻き込まれそうになったら壁になるように植物が生えてきたり吹き飛ばされた先で柔らかくキャッチしてくれたりするんだよ!」


 めちゃくちゃ便利そうなスキルだ。ただ、それを聞くと余計に思う。先に契約しておけば良かった……。

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