第53話 特殊個体と変異体の対処

 セレスにアービシアへの魔力供給を断つお願いをしたら無理と言われたのは私ことサクラ・トレイルである。


 どういうことかと聞いたら元々魔力の供給をしていたのではなく、進化させる木の実を食べさせたかららしい。セレスが魔力を供給するのではなくその木の実が増幅させているということだ。なんで木の実を渡したのか聞いたら予想通り私の親族だったかららしい。


「んじゃ、アービシア本体を叩かないとダメなのかな?」

「んにゃ、“くっつきちゃん”も“がんばりくん”もどうとでもできるよ!」


 くっつきちゃんは特殊個体、がんばりくんは変異種のことらしい。わかりやすい名前だ。


「ネーミングセンス皆無だろ……」

「え?もしやサクラの感性ってセレスと同じ……?」


 ライアスとレオンの二人が何か戦慄しているけどどうしたのだろう。


「んで、そのくっつくくん? とがんばろちゃん? はどう対処するんだ?」

「くっつきちゃんとがんばりくんだよ?」

「おう、くっつきちゃんとがんばりくんだな……」

「うんうん。くっつきちゃんはね、一つにまとめちゃえばいいんだよ!」


 一つにまとめる? 本体が植物だからセレスが操れるのかな?


「そんな簡単に言ってもな……」

「くっつきちゃんは植物の魔物だからね。私が操っちゃえば一発だよ。でも、とどめは誰かにお願いしなきゃいけないね……。ふんふん。ライアスが適任かな。合図を出したらあっちの方向におっきな火の玉を投げちゃって。」


 尻尾で方向を指すセレス。


「どれくらいの大きさで作ればいい?」

「ライアスの主観で大きいと思う大きさでだいじょーぶ」


 ざっくりした指示だけど平気だろうか? それともライアスがどれくらいの大きさで火の玉を作るのか分かってるのかな?


「がんばりくんは?」

「そっちは僕がなんとかするよ。んー、えい!」


 セレスの魔力が魔の森中に拡散するのを感じた。何をしたんだろう?


「なにしたんだ?」

「森中の植物に魔力増幅効果を打ち消す効力を持たせたよ! 後は待つだけで大丈夫!」


 ……。簡単に言ってるけどかなりえげつないことをサラッとやってるよね? というかこの一瞬で森中の植物に干渉するって……。


「言ったろ?セレスは俺らの中でも特殊だって」


 他の神霊はここまでぶっ飛んだことはできないみたいだ。神霊と戦うことはないと思うけどなんとなく安心する。


「セレスはすごいんだね」

「んふふ~」


 セレスを撫でつつ褒めてあげるとご機嫌な声が出た。可愛いなと撫で繰り回していると突如地響きが聞こえた。


「セ、セレス? くっつきちゃんが集まりすぎて超くっついたちゃんになってるよ……?」


 遠くから蔦だらけになった巨大な塊がこちらに向かってきている。十中八九くっつくちゃんをひとまとめにして巨大化したものだろう。こちらに近づくにつれて地響きが大きくなってくる。


「んじゃー、ライアス、よろしく!」


 セレスの合図にライアスがあわてて火の玉を作り始める。


「でかすぎだ! サクラ手伝え。俺が良いって言うまで火の玉を大きくしろ。いいか、威力はいじるなよ?」

「もう、注文が多いな」


 火の玉一つであれば魔境になるわけないのに……。そう思いつつも協力する。ある程度の大きさになった頃、ライアスにストップがかけられた。


「よし、サンキュ。その大きさで止めていい。セレス。合図を頼む」


 ライアスの準備ができてセレスの合図を待つ。


「さーん、にー、いーち、今!」

「はぁっ!」


 のんびりとしたセレスの掛け声に合わせてライアスが火の玉を放ると超くっついたちゃんに直撃した。


「おぉ、いい感じに燃えてるな」


 弱点部分である花が集まった頭頂部に火が広がり、一気に燃え上がる。超くっついたちゃんが徐々に崩れていく。


「……これ、超くっついたちゃんが倒れたら森が燃えない?」


 全員が一斉にセレスを見る。ただセレスは気にした様子はない。


「大丈夫だよ?あの場所は下に湖があるから」


 それなら森が燃えることはな……い? 下にあるのは大量の水ってこと?


「ねえライアス、嫌な予感がするんだけど……」

「奇遇だな。俺もだ」


 言い終わるや否や超くっついたちゃんが更に燃え上がり湖に落下する。それを見た私は慌てて結界を張ろうとする。……間に合わなくない?


 バシャッ。


 ーっ!!カッ!!!


 突然の爆発が起きて二人して吹き飛ばされる。数十本の木をなぎ倒し、数百メートル飛ばされたところで岩にあたって止まる。


「うぅ……」


 ザー。と降る湖の水に当てられつつ自身の体を確認する。体中打ち身が酷いし、かばった腕の骨が折れてる。岩にあたったショックでうまく呼吸もできない。もしや母との修行以来の命の危機では? あ、でも無事に服は守れてよかった。


「サクラ~~~!!」


 走馬灯のように母との稽古で死にかけた記憶を思い出してると半泣きのセレスが飛び込んでくる。


「ぐすっ。これ飲んで……。ひぐっ。ごめんね。ごめんね」


 セレスが謝りつつ渡してくれた飲み物を飲んだ私はそのまま意識を失った。


 ―――


「いやーこんなくだらないことで死にかけるとは」

「川の向こうで母さまが手を振ってるのが見えたよ」

「お前の母親生きてんだろうが」

「いや、母さまとの修行で両手両足縛られて川に放り投げられた後、川岸で母さまががんばってーって手を振ってた記憶を思い出しちゃったの」

「え? 虐待?」


 いや、ちゃんとした修行だった……はずだ……。私のことが大好きな母が虐待なんてするわけがない。うん。愛の鞭とかいって無意味なことはしないはずだ。……うん。きっと……。


「遠い目をしてるな……」

「母さま、加減を知らないうえに自由な人だったから……。修行もね……。ふふふふふ」

「こわっ、突然笑い出した。そうとうなトラウマになってみたいだな……」


 ライアスもドン引きしてないで母の修行を受けたらいいよ? 確実にレベルアップできると思うから。


「遠慮しとく。強くはなりたいけどトラウマはいらん」


 ライアスは根性が足りないな。

 私がライアスに呆れてる横でレオンがセレスを怒っている。


「セレス! 二人が死んだらどうするつもりだったんだ! この大バカ者が!!」

「ひぐっ。だってぇ、爆発するなんて知らなかったんだもん……。えぐっ」

「まあ、俺も知らなかったが……。お前は知ることが出来ただろうが!」


 知らなくても知ることが出来た? なにか特殊なスキルがあるのかな?


「ライアスとサクラが話を聞いて咄嗟に防御態勢を取らなかったら死んでた可能性が高かったんだぞ? 二人になにをするか話しておけば対策をとれたかもしれないだろうが」

「ごべんなさーい」


 知らなかったんだから仕方ないって言ってあげたいけど実際に死にかけたからあまり擁護できない。

 結局湖のあった場所は水がすべて蒸発してクレーターができているな。……魔境じゃないから緊急クエストとしては無事達成でいいのかな?

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