第51話 魔の森へ

「森よ、私は帰ってきた!」

「何言ってんだ?」


 魔境と化した状態から森へと戻った景色を見て喜んでいるのは私ことサクラ・トレイルである。

 なにやらライアスがアホの子を見る目でこちらを見ているが気のせいだろう。アホの子と思う方がアホの子なのだ!


「馬鹿なこと考えてないで進むぞ」

「誰が馬鹿だ!」

「お前のことだ。そんなことよりさっさと進むぞ」


 騒ぎつつも進むこと数十分、どうやらこの森には特殊個体も変異体もいないみたいだ。魔の森からは出てないのかな? 普通の魔物を対処してると王都近くの森と魔の森の境界が見えてきた。


「なんで同じような森なのに境界が分かるんだ?」


 魔の森に近付いたから一度休もうと提案したらそんなことを聞かれた。


「え? 同じ森でも木が全く違うでしょう?」


 木の太さも高さも違うし、水や魔力を含む量が違うからかなり分かりやすいと思うんだけど……。


「そんなこと分かるか! エルフの特性かもな」


 なるほど、盲点だった。母も分かってたしみんなが分かるものかと思っていたけどエルフの特性だったとは。


 ―――


 魔の森手前で一息入れた私達はセレシアの居場所について話し合う。


「レオン。セレシアの居場所に心当たりはないの?」

「いや、ないな。起きてたらまだしも寝てるみたいだから連絡もできないしな」


 手がかりは無しか。どうやって探すかな? 少しの間話し合うけど良い案はでなかった。


「ま、のんびり探せばいいだろ。焦っても良いこと無いしな」

「そうだね」


 一先ず遺跡を先に確認し、その間に良い案がでたら目的地を変更することにした。


「次は役割分担だな。一緒に行動するとして、俺が特殊個体、サクラが変異体を対処するって分け方でいいか?」

「んー。確かに特殊個体は花を燃やせるライアスの方が戦いやすいかもしれないけど私はライアスの炎魔法の一部を勝手に制御奪って使うから手あたり次第殲滅の方が良くない?」


 わざわざ居場所を入れ替わるよりも楽だと思う。


「そうだな。絶対にやりすぎるなよ? 森は炎で燃えるんだからな?」

「知ってるよ!?」


 私は森暮らし……森の近くに住み、森で特訓してきたエルフぞ。必要以上の被害を出すわけなかろう! いや、ジト目で見ないで。魔境はちょっとした手違いだから。掘り返さないで!


 休憩を終え、魔の森に入る。すると直感でセレシアの居場所が分かった。自然とセレシアのいる方に足を向ける。


「どこに行くんだ?そっちに遺跡はないぞ?」

「なんとなくセレシアの居場所が分かるの」

「は?」


 そんなこと言われても分かったのだから仕方ない。まるでセレシアの居場所に私がいるような。私がセレシアとそこであったことがあるような。なんと言えばいいのか……。


「デジャビュみたいな感じ?」

「いや、余計分からん」

「うーん。私にも良く分かんないかな。そうとしか言いようが無いだけだし……」


 向こうもこちらに気付いているだろうになんですぐに来ないんだろう? もしや神霊間でいじめやいびりが? レオンを怖がってこっちに来れないとか?


「レオン、セレシアに何かしたの?」


 とりあえずレオンに聞いてみる。


「俺はセレスになんもしてねえぞ。どうせ寝てるだけだろ」


 寝てるのか……。会ったこともないのにしっくりくるのが不思議だ。

 猫の姿をしたセレシアが寝ている想像して頬が緩む。絶対可愛い。


「イメージとは違うと思うんだがな……」


 セレシアの姿を想像していた私にレオンの呟きは届かなかった。


 ―――


 襲ってくる特殊個体や変異体を処理しつつセレシアのいる方向に向かって進む。

 普通の個体よりは強いけど誤差かな? 目測見誤っても大怪我するほどじゃないと思うんだけど。


「それは実力の違いだろう」

「そっか。怪我したのは高ランク冒険者じゃなくて中堅以下の冒険者だもんね」


 一対一でギリギリ倒せる魔物が強くなるのと考え事をしながらでも倒せる魔物が強くなるのでは意味が違うよね。


「ゴブリンとウルフの組み合わせってゴブリンライダーとかで出てきそうだね」

「別ゲーではありがちだな。でもSDSではいなかったろ?」

「そうだね」


 魔物と戦いつつも日本の話に花が咲く。あれ? 今更だけど……


「そういや私も襲われるんだね」

「どうした?」

「セレシアの力なら私を襲わないのかなって思って」


 根拠はないけどそんなイメージがあった。


「そういうことか、セレシアの力だったとしても使ってるのがアービシアだからな。セレシアの意思は関係ないぞ」

「じゃあ、アービシアに貸した力を消してもらってもこいつらは残るってこと?」


 ライアスと言ってたことと違うんだけど?


「いや、扱ってるのがアービシアってだけだ。魔力の供給源が無くなれば変異体は通常種に戻る。運が良ければ特殊個体はアービシアを襲ったりするかもな」


 なるほど……。魔力供給者と使用者が分かれてると思えばいいのか。最後の意見は希望的観測みたいだけどね。


「セレシアに止めてもらう前にサクラを囮にした方が効率よく特殊個体を一網打尽にできるかもな」

「か弱い女の子を囮にするなんてろくでなしだな?」

「どこにか弱い女の子がいるんだよ」


 こいつ……、わざわざキョロキョロしやがって……。氷華片手に変異体を対処しつつ睨んでみる。


「おお怖。俺はそんな物騒なもん振り回すやつを普通の女とは認めないぞ」


 ……。そこはある意味で正解である。中身がおっさ……おにいさんの時点で普通の女ではないだろう。ただ、この世界では普通の女の子でも物騒なもん振り回すからね?


「はいはい、どうせ普通じゃないですよ」

「すねんなって。」


 まったく、人のことを何だと思ってるのか。私はすねてなんかいないからね!? だからここで飴ちゃん出しても意味ないんだからね? もぐもぐ。

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