第50話 ライアスの推察

「ま、その事は置いておいて、特殊個体と変異体は討伐できそうなんですか?魔境を作らずに」


 なんで最後ニヤニヤしながら私を見たんですかね? レイラさん?


「そんな不貞腐れた顔しないの。可愛い顔が台無しよ?」

「不貞腐れていません」

「しかたないな、このお菓子あげるから機嫌直してちょうだい」

「わーい! って子供じゃないんですから!」


 あ、でも良い所のお菓子だ。ありがたく貰っておこう。もぐもぐ。


「そう言いつつも食べるのかよ……」

「出されたものは食べないと失礼なんだよ?」


 ライアスは常識を知らないようだね。


「ふふふ、サクラさんの機嫌も直ったみたいですね」

「へっ? 直ってない…、じゃなくてそもそも不貞腐れていませんから!」

「そうでしたね」


 同意するならその生暖かい目を止めてくれませんかね? もぐもぐ。


 ―――


 お菓子を一通り食べ終え、ギルドから出た私達は魔の森に向かう。


「ライアス、何に気が付いたのか教えてくれる?」

「あぁ、腑に落ちないところも有るけどほぼ確定の話だ。まず、スタンピードと今回の件の黒幕はアービシアで確定だ。そこまではいいな?」


 父が姿を見せたタイミング的にもそれしか無いだろう。


「で、俺たちは魔王がこの時期に復活するのをSDSの知識として知ってたから魔王と契約したと考えた」


 時期的にそれが一番考えられたし、魔物を操るのができるのも魔王くらいだからそう考えた。でも……


「確定出来なかったのはそもそも本当に魔王がいるのか周りが確証を持てなかったこと。たとえ確証があったとしてもなんで魔王の居場所を知っているのか、どうして魔王が契約に同意したのかが分からなかったからだ。そこで魔族が手を貸している可能性が浮上した」


 そう、いるかも分からない魔王よりも敵対している魔族の可能性が高いと殿下が言い、反論する材料を出せなかったのだ。


「実はもう一つ可能性があったがありえないと排除していた。さっきの話を聞くまではな」


 もう一つ? そんなものなかったと思うけど……。レオンから私の知らない情報を聞いてるのかな? もしもそうだとすると……。


「セレシアが関係してるんだね?」

「……よく分かったな。レオンから聞いた話なんだがセレシアは神霊の中でも特殊らしくてな。この世にない物でも植物であれば創り出せるらしいんだ。その代わりか契約者が居ない期間は基本寝てるらしいが……」

「エリクサー的な木の実とか、きびだんご的な果物とか?」

「何を例えに挙げてんだよ……。まあ、そう言うのも作れるだろうな。それを踏まえて考えた俺とレオンの見解はこうだ……」


 ライアスの話が長かったので纏めるとこんな感じらしい。


 1、ウィードさんとディアードさんに追い詰められたアービシアが魔の森へ逃げる。

 2、セレシアが森に入ったアービシアに気が付く。

 3、セレシアがサクラと血縁関係のあるアービシアに何かを感じ、力を貸す。

 4、セレシアの力を借りたアービシアが諸々の事件を起こす。


 いや、突っ込みどころ多いんだけど……。私の血縁関係ってだけで力を貸すってどういうこと? 私、まだ会ったことすら無いんだけど……。何かを感じって何? 力を貸すってどうやって?


「……。サクラの言いたいことは分かるぞ? でもな? レオン曰く、セレシアだからな。だそうだ……」

「えー、そこは雑なんだね」

「いや、俺は何か起きた時に思う、サクラだからな。に置き換えて考えろと言われて非常に納得がいったぞ」


 どういう意味なのかな?


「なんでセレシアが原因だと思ったの? 特殊個体と変異体の話を聞いた時だよね?」

「セレシアの力の影響を受けると植物色が強くなるか、魔力が桜色、目が水色に近付くらしいぞ」


 え?目の色が水色に近付く……? 思わず自分の目の近くを触る。契約前なのに種族の制限が解放されるにつれてセレシアの影響を受けているのだろうか……それとも何か別の理由が?


「どうした?」

「ううん、なんでもないよ」


 普通に聞けばいい事なのに何故か質問する気が起きなかった……。


「でだ、長くなったが今の仮定があっていた場合、今回の緊急クエストはサクラがセレシアに頼むだけで終わるはずだ。要はセレシアがアービシアに力を貸さなければ良いだけだからな。流石に独立して動いている特殊個体は倒さなきゃいけないかもしれんが、単に強化されただけの変異体は普通の個体に戻るだろう」

「じゃあ魔の森に行って最初にやることは猫ちゃんセレシア探しだね」

「いや、単なる憶測だからな?」


 どのみちセレシアと契約することもレオンやジークに頼まれてるから先に探しても問題ないだろう。


「納得がいったようだな。セレシアさえ説得すればアービシアのことも解決するだろうよ。さっさと捕まえて一発ぶん殴ってやろうぜ」

「私の場合は捨てたことと、逆恨みしてることと、学園長の分で三発かな?」

「ま、どの道直ぐに帰れそうだな」


 この時の私達は思ってもみなかった。魔の森で死にそうになることを……。


 ―――

<セレシア視点>


「zzz」


 森の中で眠るエルフの少女の姿をした神霊、セレシアの周りに花の咲いたウルフが集団で近付いてくる。


「もう眠れないよ~」


 そう寝言を言いつつも魔物に気付かずに眠るセレシア。ウルフのリーダーがそのまま近付きセレシアの真横にくる。前足をあげ、爪を振り下ろそうとするが途中で動きが止まる。


 そのまま倒れこんだウルフは次の瞬間には消滅していた。


「うへへ。かかってこ~い」


 セレシアの寝言を挑発と受け取ったのか、リーダーを殺された恨みか、残りのウルフが一斉にセレシアに襲い掛かる。しかし周りの木から蔦が出てきてすべてのウルフを捕縛する。


「zzz」


 後に残ったのは気持ちよさそうに眠るセレシアただ一人であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る