第49話 緊急クエスト

 ちりんちりーん


 ドアを開けると聞き覚えのある鈴の音がなる。だが中の冒険者達はこちらに気が付かない。


「人が多すぎだろう。だいぶ騒がしいな」

「みんな情報を得ようとしてるのかな? 魔の森が立ち入り禁止とか低ランク冒険者からすると稼ぎ場所が減るってことだからね」

「そうですね。緊急クエストの告知は既にしているので報酬目当ての人も多いでしょう」


 いつまで立ち入り禁止なのか、どうして立ち入り禁止なのか、知りたい人は多いだろう。私達にとっては楽過ぎて行く必要のない場所だったが、駆け出し達の遠征訓練にちょうど良い場所だったし。


「ではサクラさん、ライアスさん、奥の部屋に行きましょうか」


 一緒にいるレイラさんが声をかけてくる。一部の見知った冒険者はこちらを見て道をあけ、サクラの名前に反応した人達が慌てて追従する。

 道ができたのを幸いとレイラさんと共にギルマスの部屋に行こうとする。すると新人っぽい服装の少年が声をかけてきた。一緒にいる女の子がやめようよと止めているのに少年は無視しているみたいだ。


「ちょっと待て、なんでそいつらには案内があるんだ。俺達が先に来てたんだぞ」


 おっと……、これはもしや……?


「あんたはなにニヤけてるんだ!」

「おい、煽るな」


 はて? 煽ったつもりは毛頭無いが?


「顔がニヤけてんだよ。あらかた絡まれるテンプレだー! って、喜んでいるんだろ?」

「うっ……」


 カッコよく撃退して一目置かれるまでがテンプレの……テンプレの……、いや、既に色んな意味で注目されてる今の私だと余計に恐れられるだけか……。


「急に目が死んだな……。まあいい、小僧、今回の緊急クエストは高ランク冒険者対象。つまりAランク以上じゃないと参加しても死ぬから参加禁止だ。そして、俺はAランクでこいつはSランク冒険者だから逆に参加義務が生じる。なら、参加禁止のお前と参加必須の俺らどっちに優先して緊急クエストの概要を説明するのか分かるな?」


 ライアスが丁寧に説明しているけど。少年は納得していないようだ。


「お前らがAランク冒険者? 嘘ついてんじゃねえよ!」

「私が保証するわ。時間の無駄だからどっかに行きなさい」


 ヒートアップした少年をレイラさんが追い払おうとする。しかし頭に血が上った少年は止まらない。


「信じられるか! 金でも積んだんだろう!」

「今の発言は聞き捨てならないわね。二人ともギルマスの部屋に行っててちょうだい。この馬鹿は私が対処するから。」


 興奮して余計なことを言ったみたいだ。完全実力主義で貴族の圧力さえ弾いているギルドからすると一番言われたくないあてつけだ。ご愁傷さまだが自業自得だろう。というかレイラさん……。対応じゃなくて対処って……。


 見ていた冒険者たちがざわついているけど私達は気にしない事にしてギルマスの元に向かう。


「外が騒がしいが大丈夫だったかい?」


 ギルマスの部屋の中に入るとライラさんに心配された。


「ライラさん、私達は大丈夫だよ。……絡んできた子は分かんないけどね」


 苦笑しつつ答える。


「ま、ギルドの面子にも関わることだから、うっかりだとしてもしっかりと処罰をしないといけないね」


 聞こえてたのか。だいぶ大声で言ってたから仕方ないね。

 ライラさんが飲み物とお菓子を出してから本題に入る。


「さて、緊急クエストについてだが概要は聞いてるか?」

「魔の森に異変が起きていることだけだな。魔の森が立ち入り禁止になってるのも聞いた」

「後は結界が起動された場所が分かったから偵察をして欲しいとも聞いてるよ」


 詳しい話はここで説明を受ける予定だったから知ってる情報は少ないね。


「そこまで知っていれば十分さ。魔の森の異変について詳しい説明をしないとだね。そうだね……。今、特殊個体の魔物と変異体の魔物が暴れまわっている。どちらも普通の魔物じゃなくてね。どれくらいいるかも分かっていないが殲滅もしくは発生原因の究明をしてほしいのさ」

「スタンピードの時にどっかのサクラが魔境を作り出したせいで大技が禁止されたからな。数がどれだけいるか分からない以上消耗をできるだけ避けたい。弱点が分かってると嬉しいんだが……」


 どっかのサクラとは誰のことだろうね。迷惑なサクラさんがいるようだ。


「そうだね。じゃあ特殊個体から言うよ。簡単に言うと寄生型の魔物だ。と言っても魔物以外には寄生しないからそこは安心しろ。ただ、寄生された魔物はやたら力が上がってるし、異なる魔物であってと寄生された魔物同士で連携を組むようになるから相当厄介になってるぞ。信じられるか? ウルフがゴブリンを乗せてたりするんだぞ?」


 力はどうとでもなると思うけど連携はかなり厄介だな。魔物は基本、ゴブリン同士のように同じ魔物間では連携を取ることがあっても別種族だと連携を取らないはずなのに……。寄生主に種族が統一されるイメージを持つしかないか。


「普通の魔物との見分け方は?」

「一目見れば分かる。身体中から花が生えててオシャレだぞ」


 オシャレって言い方よ。


「弱点もシンプルなもんでその花をむしり取ればいい。花さえ壊せば寄生先の魔物はすでに死んでるみたいだから再び動くことはない。逆に言うと花以外を壊してもすぐに再生するらしい。アンデッド化してるようなもんだな」


 花が本体ってことか。それなら燃やすのが速そうかな。


「次は変異体についてだが……、こちらはあまり言うことがない」

「どういうこと?」

「見た目はほとんど同じなんだ。ただ、怒ると目が青くなるらしい」


 そこは赤じゃないのか。強くなさそうな色だ。


「……」

「ライアス?」

「後で言う」


 何か心当たりがあるのかな?


「ん? なら弱点とかの情報は要らないのかい?」

「ああ、普通の魔物と同じだろう? 単純に強化されてるだけのはずだ」

「その通りだ。ゴブリンがオーク。オークがオーガレベルの強さを持ってるだけで他は変わらん」

「特殊個体はともかく変異体はすぐにけりが着きそうだ」

「お、自信ありかい? 頼もしいねえ」


 話に区切りがつき、お茶を啜っているとドアが開いた。


「話はもう終わった?」


 レイラさんが中に入ってきた。さっきの少年はどうなったのかな?


「終わったぞ」


 ライラさんが答えつつお茶を出す。今更だけどギルマスが準備するってどうなの? こういうのは秘書がやる仕事だと思うんだけど……。


「お疲れ様。サクラさんとライアスさん、さっきの子は絞めておいたから安心してくださいね?除籍処分にしようとも思ったんだけど二人は反対しそうだと思ったから罰として一ヶ月間の雑用を言い渡しておきましたよ」


 正直きつい罰なのかそうでもないのかは分からないけどギルドとしての体裁が保てるのならいいのかな?

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