第48話 アービシアの行方

 レオンとジークが姿を消したのを確認してから学園長が入室の許可を出す。入ってきたのはレイラさんだ。


「失礼します。おや、サクラさんもここにいましたか。丁度よかったです」


 学園長だけでなく私にも用があるみたいだ。


「学園長から依頼されていた結界の魔道具の起動が確認されました。サクラさんとライアスさんには偵察に行っていただきたいです。また、魔の森に異変が起きています。原因は分かりませんが高ランク冒険者以外の人達が大怪我をしています。こちらの対処のために緊急クエストを発令しています。詳しい話はギルドでお話しするので来ていただけますか?」


 私と殿下が予想した通り父の狙いは結界の魔道具だったらしい。学園長に確認したら体育祭の後見ていないと言っていた。


「思っていたよりも早かったのじゃ。起動するのは大変なはずなのじゃが……」


 どうやら強力な結界を張れる代わりに決まった手順が必要で、一度起動したら維持は簡単だけど必要な魔力量も膨大だという。私の感覚では一か月も十分かかったと思うけどそれでも早かったらしい。場所についてはギルドでってことかな。


「サクラ。もしかしたら実父との戦闘になるかもしれませんが大丈夫ですか?」

「うーん。大丈夫だと思うよ。父娘として過ごした期間もないし」


 それに今回の依頼は聞いた感じあくまで偵察だからね。あ、そうだ。


「カトレアはどうする? だいぶ予定が変わりそうだけど……」

「もちろん行くわ! ……と、言いたいところだけど私は足でまといだもの。本当は近くまで行って補助してあげたいけど最近のサクラは過保護だからね」


 うっ。体育祭の一件以降カトレアちゃんを危険から遠ざけるために過保護にしていた自覚はある。


「カトレアちゃん……。ごめんね?」

「気にしなくていいわ。ただ、無事に帰ってきなさいよ?」


 カトレアちゃん……。なんていい子なんだ! 感極まって抱きつこうとしたら躱された……。ぐすん。


「うーん。本当はダメですがここで簡単に説明をしちゃいますね」


 カトレアちゃんを気遣ってくれたのかレイラさんが簡単にさわりを教えてくれた。


「結界が起動された場所は太古の遺跡です。魔の森にある遺跡なんですが皆様は知っていますか?」

「ええ、知ってます」


 SDSでも意味深に置かれていたけど何もイベントが発生しなかった場所だ。ざっくりとした位置は把握できている。

 そこで結界が起動されたということは、太古の遺跡に父がいる。ということか。


「分かりました。今回の依頼では中に入る必要はありません。結界の様子だけ見てきてください。結界の状態を確認し次第対応を考えていきます」


 それで偵察ということだね。確かに情報は大切だ。


「しかし、先ほども言いましたが魔の森で異変が起きています。実は遺跡の偵察よりもこちらの対応を優先してお願いしたいです。……ここで話せるのは以上です」

「ありがとうございます」


 大体の事情はカトレアちゃんも把握できたかな。実際には守秘義務があるため話してはいけないはずなのに、限界まで情報を開示してくれたレイラさんに感謝だ。


「学園長。今回の緊急クエストは数日では終わらない依頼になると思います。そこでサクラさんとライアスさんに特別休暇の許可を出してください」


 元々これが本題だったか。確かにセレシアを探すだけの場合と違って異変の解決となると数日、下手したら数か月かかってもおかしくないよね。その時のために許可が必要だったのか。


「分かったのじゃ。サクラとライアスの二人には特別休暇を与えるのじゃ。日数は分からないから復帰時期は未定として処理しておくのじゃ」

「それから、現在魔の森は立ち入り禁止にしています。学園の生徒たちにも情報の共有をお願いしますね」

「分かったのじゃ。注意喚起しておくのじゃ」


 学園長の許可も貰い私とライアスの二人はレイラさんと共に冒険者ギルドへと向かった。


 ―――

<アービシア視点>


「おい、どこに行った」

「人使い。いや、魔族使いがあらいですねぇ。魔道具の起動も大変だったのですよ? ふふふ」


 太古の遺跡のある部屋でアービシアはいらだちつつ魔族の男を呼びつける。声に合わせてシルクハットを被った紳士のような姿の魔族が姿を現した。


「嘘くさい奴だな。それで、あれの対処はどうだ? うまくいきそうか?」

「ええ、時間はかかるけどなんとかなるでしょう」


 アービシアの問いに胡散臭い笑みを浮かべつつシルクハットをかぶった魔族が答える。


「ならいい。さっさと攻め落とせばいいものを」


 アービシアはそう言って部屋を出ていく。部屋に残されたシルクハットの魔族は一人ほくそ笑む。


「まったく、前回は一括で投入して痛い目を見たでしょうに……。まあいいでしょう。そろそろいい時期です。あの御方のためにも彼には実験台になって貰いましょう。……そういえば、結界の魔道具に場所を特定するための仕掛けがついていましたが伝え忘れていましたね。ふふふ」


 笑い声を残し、シルクハットの魔族は消えていった。


 ―――


 数日後、太古の遺跡でアービシアとシルクハットの魔族が対峙していた。アービシアは口から血を吐き地面に膝をついている。


「貴様! 裏切るのか!」


 アービシアが恨めしくシルクハットの魔族を睨みつけるが、シルクハットの魔族はどこ吹く風だ。


「いえいえ、そんなことありませんよ。あなたのお願いを聞いてあげただけですから」


 シルクハットの魔族が答えるもアービシアは既に地に伏していた。


「そもそもあなたにはたくさん投資してきたのです。こんなに早く死なれたら投資分を回収できないでしょう?」


 シルクハットの魔族が注射器のようなものをどこからともなく取り出す。そしてそのままアービシアの腕に注射を刺す。


「ぐああああああ」


 アービシアに注射針が刺さるとともにアービシアの悲鳴が響き渡った。

 アービシアが暴れ苦しむ姿を見つつシルクハットの魔族は愉快そうに笑う。


「さあ、しばらくはおやすみなさい。次に起きた時、あなたのことを同胞として向かい入れてあげましょう」


 いつの間にかその部屋には誰の姿も残っていなかった。

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