ゲームシナリオ編
第46話 暗雲
次の日カトレアちゃんが寮に帰ってきた。私ことサクラ・トレイルは土下座でカトレアちゃんを迎え入れる。
「ごめん。私のせいでカトレアが死ぬ程の怪我をさせちゃった」
「ぷっ」
「カトレア?」
恨み言の一つや二つを覚悟していたのに返って来たのはカトレアちゃんの笑い声だった。
「どうせもっと上手く槍の制御が出来ていれば。とか制御しないでおけば。とかそんなこと考えていたのでしょう?」
「な、なんでそれを」
心を読まれるのはいつものことだけどそんなピンポイントで当ててこなくても……。
「私から突っ込むことなんて想定してなかったんでしょう? むしろサクラの想定を越えられたなんて光栄なことじゃない!」
「そっか」
誇らしげに言うカトレアちゃんに少しだけ心が軽くなる。私の中の罪悪感は消せないけれど、カトレアちゃんを見ているといつまでも引きずるのもダメな気がしてくる。うん。反省もするし後悔もする。それでもカトレアちゃんは生きていてくれた。まだ贖罪のチャンスはあるのだ。前を向こう。
「それに次はもっと上手く守ってくれるんでしょう?」
「もちろんだよ!」
固く......固く決意を固める。次は絶対に失敗をしない!!
―――
「今日は襲撃者について話をするために集まってもらった」
学園長は療養中のため部屋主は不在だが、私たちはいつものごとく学園長室に集まっていた。集まっているのは私とウィードさん、ライアスに殿下の四人だ。
「まずは体育祭の時の確認だな。各々把握していると思うが改めて説明するぞ」
ウィードさんが説明を始める。生徒の状況。森の状況。王都の状況についてだ。そして襲撃者……つまり私の父の話題へと移る。
「襲撃者のことだが……名前はアービシア・エルネス。サクラの父親だ」
「なっ!」
襲撃者が私の父だと情報が開示され、ライアスと殿下が私を見る。
「サクラは関係ないぞ。赤ん坊の頃にアービシアがサクラを殺そうとしてローズさんがサクラを連れて逃げだしたからな」
「な……」
再度驚いて私を見るライアスと手を口に当てて考え込みだした殿下。殿下は何を考えてるんだろうか。
「エルネス家……。たしか詐欺師まがいの悪事をずっと行っていた伯爵家ですね。少し前にグロウズ公爵家の怒りを買ったとかで攻撃されてましたね。最近では行方不明になっていたとか。令嬢がいたとは聞いたことがありませんが」
「サクラが生まれた時にステータスを確認して魔法の適正が無だった時に
恥か……。日本にいたときの両親も私がもっと優秀なら目をかけてくれたのだろうか……。いや、今は母がいる。過去のことは忘れよう。
「私が捨てられた後の父さまの行動を知らないんだけど……」
「あー、そうだな。簡単に言うとサクラの洗礼式後、ディアードさんに協力して貰いつつ攻撃していたんだ。サクラが有名になった後に手を出せないようにな。だが、止めを刺す前に雲隠れをされちまってな。ずっと探してたんだが、まさかこんなところで出てくるとは……。すまない」
「いや、ウィードさんが謝ることじゃないよ。悪いのは私の父さまだし……」
ウィードさんが手を回していたおかげで父から私への接触が無かったのか。私が有名になったら家に戻そうとする可能性もあったけど接触が無かったのは雲隠れしていたからだったんだね。
「それにしても見事な逆恨みだったな。自分で捨てておいて裏切り者だとよ」
「結局狙いはなんだったんでしょうか。学園長を刺した後、ライアスとサクラの治療の邪魔もせず退散しましたし。いろいろと不可解ですね」
狙いは分からないけど、治療の邪魔をしなかったのは闇の槍を使えば十分だと思ったからでは?
「いえ、どこまで把握していたかは分かりませんがあの程度の攻撃がライアスやサクラの邪魔をできるとは考えないでしょう。邪魔するつもりならもっと強力な攻撃をしかけるはずです。刺した時点で治療が間に合わないと踏んでいた可能性もありますが……」
なるほど……。となると。
「学園長を刺した時点ですでに目的を達成していた?」
「どういうことですか?」
「例えば、学園長から何かを盗んだとか、学園長が死にかけることで解除される何かがあるとか……」
なにかあったかな?
「「結界の魔道具!!」」
殿下と私が同時に気付く。一番可能性が高いのはこれだろう。七龍学園を覆うほどの大きさの結界を張れる魔動具は珍しいしあって損はないはずだ。
「となると何処かで籠城する可能性が出てきますね」
「王都の近場……。森のどこかかな?」
二人で推測を交わしているとライアスとウィードさんが引いた眼で私達を見ている。
「どうしたの?」
「いや……。お前ら怖いなと思っただけだ。そのまま議論を進めてくれ」
議論を進めろと言われてもこれ以上の推測は無理かな? もう少し情報が欲しいね。
「あ、そうだ。ウィードさん。父さまと切りあって気付くことはなかった?」
「あ? そうだな……。ヒントになるかは分からないけど思っていた以上に強かったな。言い訳するわけじゃないが取り逃がすほど強いとは思ってなかった」
「確かにおかしいね。……魔族と手を組んだか。……それとも魔王と契約したとか?」
「魔王ですか……。可能性は低そうですがゼロではありませんね」
「??」
ライアスが話についてきてないな。首をひねっている。簡単に説明するか。
「ライアス。ウィードさんはSランク冒険者だよ? ただの貴族が打ち合えると思う?」
「そうか。普通一撃で伸されるな。だから強者に力を与えられた可能性が出てくるのか。」
うんうん。理解できたようで何よりだね。
「魔王の場合は手の打ちようがありませんが魔族の場合は調べることができるかもしれません。少しこちらで手を回してみます」
「後で学園長に確認して結界の魔道具を盗まれていた場合は起動したときに場所が分からないか確認してみようか」
適宜魔力感知を使って結界の反応を見るのも良いかもしれないね。
「これ以上の手掛かりはありませんね。魔族と結界の魔道具の二方面から探ってみましょうか。この続きは情報が集まってからですね」
今回の話し合いは終わり、解散することになった。
―――
体育祭の後、学園はしばらく休校となり王都でも警戒態勢が引かれた。しかし嵐の前の静けさなのか、魔王にも父にも特に動きはなく一か月が過ぎた。
学園長も無事に全快し、学園も再開されたが今の私は居心地が悪い。仲の良い友達や冒険者たち、ルアード商会の人は別だけどそれ以外の人達から腫れもの扱いをされている。
実は今の王都と学園には私の悪い噂が蔓延しているのだ。一人で地形を変え、魔境にすらしてしまう。そんな力を躊躇なく使うような危険人物だという噂。魔境を作ったのは事実だけど悪い印象が残るような語られ方がされている。
父が言った言葉。“私の娘”と“裏切り者”が私のことだという噂も流れている。こちらも間違っていない所が質の悪いところだ。しかしそこから派生して私が内通者として父を王都に引き入れたとか、魔王と契約しているから魔境を作るような実力を持っているとか私を貶める噂が広がっている。
闇の槍が降り注いだのも私がやったことだという噂まで広がっている。こちらは私が槍を人から逸らすために操っていた姿をみた人達が曲解したと思われる。
私としては納得がいかずとも実害は無かったため放置しても良かったのだが、カトレアちゃんを筆頭に噂を消そうとしてくれた。それでもこういった噂が消えることはなかった。
私よりもカトレアちゃんが参ってる様子に苦笑しつつも今日も今日とて授業を受ける。今まで知らない人に声をかけられている状況から比べたらむしろ解放された気持ちの方が強い。
ある日、魔法科の授業の終わりにライアスに声をかけられた。
「サクラ。学園長が呼んでる。今から学園長室に来れるか?」
「分かった。大丈夫だよ。カトレア、また後で」
カトレアちゃんとお別れをして学園長室へと向かった。
―――
<???視点>
アービシアの襲撃があった数日後、王宮の一室で二人の男が話をしていた。
「打てる手は打ったかな」
「彼女の恨みを買うことになりませんか?」
片方の男が満足そうな顔をするともう一人の男が心配そうな顔をする。
「君から話を聞く限りだと大丈夫だと思うよ。そもそも君の発案じゃないか。そうだろ?
「私の予定ではここまでやるつもりはありませんでしたよ?
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