第44話 スタンピード
魔弾合戦も終わり、会場の熱気が収まらない中、カトレアちゃんが戻ってきた。
「カトレア! ベストフォーおめでとう!」
「ありがとう。サクラのおかげでチコが一矢報いることができたわ。負けちゃったけどね」
それでも唯一一年生チームでベストフォーに残ったのは大健闘でしょう。カトレアちゃんとお話をしていると突然ハカセの魔道具からアラームが鳴る。
「サクラ君。やはりこの魔道具は壊れてしまったようだ。見てくれたまえ」
「なになに? っ!?」
魔物を感知する魔道具に大量の魔物の反応が示されている。突如湧き出した? それとも故障?
「ちょっと確認してくるね!」
魔物の確認をするために移動しようとするとウィードさんから連絡が入る。
「サクラ、
カトレアちゃんとハカセに一言断ってから学園長室に向かった。
―――
学園長室に行くとすでに他の人は揃っていた。すぐに情報が共有される。
「どこのダンジョンが溢れたの?」
SDSでもダンジョンのスタンピードが起こるイベントはいくつかあった。ゲーム内では魔物を大量に討伐することで得られる経験値や莫大な防衛報酬を目当てにわざとスタンピードを起こす様な人も居たらしい。
しかし、SDSのスタンピードは難易度が高めに設定されており、沈静化に失敗すると街が滅びて、次の周に移るまで使えなくなる等リスクもとても高い。かくいう私もゲーム内で主要な街が一つ消えて詰みかけたこともある。要はハイリスクハイリターンのイベントだった。
そこら辺の話は置いといて今は現実の対処が大事だ。森にいなかった魔物が突然現れたということはどこかのダンジョンからやってきた可能性がある。
「ダンジョンじゃねえ、森から大量に出てきてるみたいなんだ」
「え?」
確かに昼頃までは魔物が一匹もいなかったはずだ。それにSDSではダンジョンのスタンピードは発生したが森の
「外部から集まってきたわけではなく?」
「あぁ、森の中に突然姿を現し始めたらしい。どこかに集団で隠れていて突然姿を見せたって感じがしっくりくると言ってたな」
隠れていた? 私の魔力感知を掻い潜るほどの使い手が黒幕にいそうだね……。
「なるほど、であれば魔族か何か黒幕が居ると考えるのが妥当でしょうか?」
「そうかもしれぬな。じゃがまずはスタンピードの対処が先なのじゃ。冒険者ギルドからも応援が来るが殲滅力のあるサクラとライアス、シルビアがスタンピードの対処にメインに行ってくれ。エニシャ、ソアラ、メルの三人ははぐれて迷い込んだ魔物の位置を探して楓とルノアに連絡、二人は連絡が来たら討伐にむかうのじゃ。ウィードとクリストフは会場内の警戒を、黒幕が居るとしたら戦力を分散させるのが目的かもしれぬ、決して油断せぬようにするのじゃ」
学園長の指示を元にそれぞれが動き出す。
幸い森に面してるのは街の三方向だ。私とライアス、殿下の三人で一面ずつ担当すれば平気だろう。三人とも有名人だから応援の冒険者たちも指示には従ってくれるはずだ。
担当場所に移動するとすでに冒険者達が対応していた。私はすぐに攻撃の準備を始める。
「氷華、よろしくね!」
無意識の内に笑顔を浮かべつつ氷華に魔力を流し込む。周辺の気温が下がり、私の周りには霜ができ始める。
「そろそろ十分かな。冒険者のみなさーん! 大技を使うので退避してくださーい!」
ある程度は冒険者の居場所を把握しているけど巻き込んだら危ないから声掛けをする。氷華に冷気が貯まったのを確認した私は冒険者たちが退避するのを確認してから一気に魔力を解放する。
「
その名に相応しく氷が世界を支配する。
サクラの前に居た憐れな数十万の魔物達は何が起きたのかも気がつかずに凍結するのだった。
―――
<ライアス視点>
「やっぱあいつヤベーな」
サクラが担当している方面の森が一瞬で白銀の世界へと変わるのが見えて独り言ちる。SDSでは最弱の主人公であるはずなのに現実ではチートだろうと文句を言いたくなるような強さを持っているサクラがなんでここまで違うのかが気になって仕方ない。サクラ本人は種族の制限がどうたら言っていたがそれだけとは思えない。だったらなんだと聞かれても分からないが……。
「と、このままだと俺も凍え死ぬしこっちも始めるか」
SDS万能の主人公として負けてられないな! と気合いを入れて魔物の殲滅に向かうのだった。
―――
<サクラ視点>
一度しか魔法を使っていないけど担当部分の大部分を殲滅したし、魔物達の王都への経路は氷の壁で断った。後は冒険者たちに任せていいだろう。……冒険者たちは自力でどうにか帰宅すると思う。氷を迂回して帰ってくれ。
もし黒幕が居たとしてもこれから滅びるかもしれない街中に居るとは思えないからこれで防衛が上手くいくはずだ。
はやくスタンピードを収束させてカトレアちゃんの近くに行きたいから二人の手伝いでもするかな。
―――
「お前ら帰ってくるの早すぎなのじゃ!」
無事にライアスとシルビアが担当する分の魔物も殲滅し、三人揃って学園長室に戻ると何故か文句を言われた。
「早い分には問題無いだろうが!」
ライアスが吠えてるが全くもってその通りである。
「限度というものを知らんのかこの馬鹿共! 大技連発するせいで森周辺の環境がボロボロになったのじゃ! どうすればいいんじゃ? あの魔境……」
「いやー、あはは」
王都から森までの通り道は今、ところどころ凍結し、一部炎が吹き荒れ、雷が荒れ狂う魔境になっている。
「もっと時間かけてゆっくりやれば魔境に成らずにすんだじゃろうが……」
「それはサクラに言えよ」
「あはは……」
「そんなところまでローズに似なくてもよいじゃろうに……」
今朝の悪夢が正夢にならないように早くカトレアちゃんの元に戻りたかった私はちょっとだけ手を貸したのだ。……本当にちょっとだけだよ?
「えっと、こっちの状況はどんな感じでしたか?」
私が悪いことをした流れになってきたので話題を変える。
「街中は途中までは平和だったぞ……。途中ま・で・は・な」
「痛い痛い」
話の途中で戻ってきて状況を把握したらしいウィードさんにアイアンクローをされた。せっかく話題を変えたのに戻されたし……。
「ま、今回のはリリーの配置ミスだし「のじゃっ!?」サクラに言っても仕方ないな」
「ならしばかないでよ!」
「それとこれとは別だ阿呆」
再度しばかれる前に退避する。
「カトレアの嬢ちゃん連れてかないとストッパーが居なくてどこまでも突き抜けるからな、二人セットで配置しなかったリリーが悪い」
そうだ、そうだと同意しようとしたけどウィードさんに睨まれて心の中で留める。二回目のアイアンクローは回避出来たみたいだ。私、賢い!
「話を戻すぞ。今はどこかのサクラが作った魔境でざわついているがスタンピードについては気付いてないみたいだ。三龍生が説明したこともあって今では落ち着いてきてる。シルビア殿下も向かったし大丈夫だろう」
騒ぎを起こしたのはどこのサクラさんだろう。はた迷惑な奴だ。
―――
<??? 視点>
「ちっ、失敗か……。バケモノ共め」
スタンピードを起こし、混乱する街中で裏切り者を消すつもりだったがあっさりと阻まれてしまった。
「まあいい、次の計画に移るか……」
第一の計画は失敗したけど復讐のための計画はまだある。
その男は街並みの中に消えていった……
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