第43話 体育祭
ここは? 気が付くと私は一人で辺り一面が真っ暗な世界に立っていた。
ここにいても何も起きないのでとりあえず歩いてみる。
しばらく進むと一つの鏡が現れる。
これは……?
鏡を覗くとカトレアちゃんが植物に手足をグルグル巻きにされて捕まっているのが見えた。
植物……もしかして魔王?
カトレア!
叫ぶも声が届かない。
男のような人影がカトレアちゃんに近付いていく。
カトレア。逃げて!
魔法を使って助けようとするも魔法が発動しない。
どうしようどうしようどうしよう……
私が鏡を叩いたり裏側を確認したり魔法を使おうとしたりする間にも人影はカトレアちゃんに近付いていく。
人影は遂にカトレアちゃんの目の前に立つと剣をカトレアちゃんに突き刺した。
―――
「ーーーっ!!」
思わず飛び起きる。バクバクとなる心臓の音がうるさい。
「カトレアは!?」
隣のベッドを見るとカトレアちゃんが気持ち良さそうに寝ている。
「良かった。夢か……」
ホッとしたらパジャマとシーツが私の汗でビシャビシャになっているのに気付く。
「それにしてもリアルな夢だったな」
魔法で水気を取りつつ先程の夢について考えてみる。
ただの夢だと忘れるのは簡単だけど妙なリアルさ……実感を伴う夢を無視してはいけないと心が警鐘を鳴らしている。
魔王がカトレアちゃんを狙っている? いや、狙う理由は無いから違う。鏡が出てきたのは……。いや、そこじゃないな。根拠はないけど大切なのは私が干渉できなかったことと、カトレアちゃんが刺されたことの二点だと思う。
今日カトレアちゃんが命の危険にさらされる? しかも私が助けられない状況で?
そういえばカトレアちゃんには前にサンディアを渡したけどどうしていたかな?
カトレアちゃんの鞄を見ると持ち手にサンディアが入ったケースがチェーンを通してくっ付いている。これならカトレアちゃんが危険な目に合ってもサンディアが肩代わりをしてくれるはず。……あ。今日は体育祭だ。つまり鞄は教室に置いておくからカトレアちゃんの近くにないのか。
「サクラおはよう」
「カトレアおはよう」
カトレアちゃんが起きた。悪夢は話すと正夢にならないって言うし話した方が良いかな? でもカトレアちゃんが不安になるかもしれないし……
「サクラ。何かあった?」
「え?」
「何年幼馴染をしてきたと思ってるのよ。サクラが今思い詰めてることくらい分かるわ」
「カトレア……」
カトレアちゃんを見つめる。うん。本人を不安にさせる必要は無いよね? ミーヤとチコに話せば正夢じゃ無くなると思うし……
「カトレア。前にあげたお守り、今日は鞄じゃなくて直接身に付けて」
しばらく見つめ合う。それでも最終的には何も聞かずに身に付けてくれた。
「これでいい?」
「うん。ありがとう」
一先ずは安心かな? 後でミーヤとチコにも話しておかないと。
―――
波乱の体育祭が幕を上げる。
朝ごはんを食べた後、ミーヤとチコには悪夢について簡単に話をして注意してカトレアちゃんを見て欲しいと頼むことができた。
私は午前中ずっと見回りの為、魔力感知で索敵しつつ会場の近くを歩く。……平和だ。良いことだけどこれといった事件も起きずに時間が経過していく。
学園の中だけでなく王都や王都周辺まで索敵範囲を変えても平和なのが実感できる。
……? むしろ平和過ぎる? 王都近くの森を索敵して気が付く。魔物が一体も居ない。王都の近くとはいえゴブリンやコボルト、ウルフなどの魔物が一体も居ないのは異常に感じる。
魔王が魔物を集めている? それとも何か天災に怯えて逃げ出してる? 少し考えてから学園長に連絡する。嵐の前の静けさじゃないと良いけど……
その後、カトレアちゃんが障害物競走をする時間になりエニシャさんに言ってから少し抜けて観戦をした。途中、網に尻尾が引っかかったカトレアちゃんは残念ながら最下位だったけど終盤の追い上げが凄かった。ハカセが魔道具を改善しようと思っていそうだね。
障害物競走が終わり、最後にもう一度王都周辺を索敵していたら午前の競技が終了した。
お昼の時間だ。今日の昼も私が作ったのだけど、夢について考えてボーッとしていたらいつもより豪華な仕上がりになっていた。……作り過ぎたけど体育祭だし良いよね?
障害物競走のことや見回りのことを話つつまったりとした時間を過ごす。午後一の競技はなんと私、ライアス、殿下、三龍生の計六人で行う殺陣だ。
私達は警備組としての仕事も有るけれど、学生なんだから楽しみなさいといった大人組の配慮で短い時間では有るけど急遽殺陣の
今のところ楓さんとルノアさんも暴走せずに殺陣を行っているため平和だ。……一番サクラが暴走しそうだなんて声が聞こえる気がするけど無視だ。私はちゃんとやる時はちゃんとしてますよ?
私達の殺陣が終わり、カトレアちゃんとミーヤとチコの魔弾合戦を見ようと思い待機する。
「やっ、サクラ君。隣に座ってもいいかい?」
「ハカセ! いいよいいよ。いらっしゃい」
ハカセがやって来て隣に座る。
「サクラ君は学園長が持ってるって噂の魔道具について何か聞いてるかい?」
「結界を張る魔道具の事?」
体育祭の最中なのに最初から話題が魔道具なのはハカセだけだと思うよ……。嫌いじゃないけどね。
「そう、それのこと。詳しい性能について聞いてるかい?」
「うーん。学園全体を覆う事ができるとしか聞いてないかな。それがどうかしたの?」
何か聞いたのかな?
「これを見てくれ! 僕が作った魔道具なんだ! 効果は魔物の反応を探す魔道具さ」
さすがハカセ。魔物の位置を特定する魔道具は遺跡から稀に見つかるアーティファクトにしか無く、現在動いてるのは二つか三つくらいしか残ってなかったのに作っちゃったのか……
「ただ一つ問題があってね。朝から魔物の反応がないんだよ。壊れたのかも知れないけど学園の結界が何か阻害してるんじゃないかと思って聞いてみたのさ」
「うーん。恐らく壊れてないし結界も何も阻害してないと思うよ。午前中森まで見回りをしたけど何もいなかったから」
「そうだったのか。なら良かった。ありがとう!」
「どういたしまして」
ハカセと色んな魔道具について話をしているとカトレアちゃんチームの出番がやって来た。
「カトレア頑張って!」
さあ、特訓の成果を見せてやりなさい!
―――
カトレアちゃんチームらミーヤの作戦が上手くハマり、無事に準決勝まで進出した。他のチームは全部三年生のチームだったためこの時点で大健闘だ。
「ミーヤ君とチコ君も健闘しているね。もう一人は良くサクラ君といる子だね? 彼女はどんな魔道具を作るんだい?」
「……カトレアは魔道具を作らないよ」
ハカセは基本良い人なんだけど全員が魔道具好きだと思ってる節があるんだよな。一緒に魔道具を作った事のある人しか名前も顔も覚えない変人でもあるけど。
「な、なんだと!? 今度彼女を紹介してくれないか? 彼女が作れる魔道具を考えておくよ」
「ダメです。ハカセの趣味に巻き込まないであげて」
ハカセの悪い癖がでた。ハカセは百パーセントの善意で魔道具作りを押し付けたがるのだ。
「そ、そうか。しかたないな。腕でも怪我してるのだろう。怪我が治ったら声をかけるよう言っておいてくれるかい?」
「りょーかい。気が向いたらね」
カトレアちゃんが魔道具を作ろうとしないから声はかけないけどね。……じつはハカセとのこのやり取りはもう何度も行っている。最初の一二回はカトレアちゃんに聞いてみたけど断られて、その後は伝えてすらいない。それでもハカセがカトレアちゃんのことを覚えてないせいでその事に気付かず、何度も繰り返されるのだ。
ハカセと話してる間にカトレアちゃんチームの準決勝が始まった。
今まではド派手な魔法の後に隠れていたけど、今回は上手くいかなかったようだ。すぐさま作戦を切り替えて魔弾で乱戦を始めた。途中で接戦になり最後は残念ながら負けてしまった。しかし最後に一矢報いることができたと嬉しそうでよかった。会場も唯一準決勝に鋸田一年生が健闘したことに盛り上がっていた。
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