第42話 体育祭の準備

 チコがカトレアちゃんをお姉様呼びし始める等々変化があったテストも終わり、体育祭の準備が行われている中、一人暇そうにカトレアちゃんを眺めているのは私ことサクラ・トレイルである。


 カトレアちゃんと一緒に体育祭に出たかったのに……


 私が準備に参加していないのは殿下と学園長にストップをかけられたからだ。何故かって?  もちろん私がスゴすぎるから!  ……ではなく魔王に対する警戒の為だ。確たる証拠集めには失敗していたライアスと殿下だったけど、ウィードさんや学園長など私達の事をよく知る人達の説得はできたのだ。

 おかげで体育祭には出場せずに警備員として学園を守る側に配置されてしまった。


 カトレアちゃんは障害物競走と魔弾合戦なる物の二つの競技に出場するためその練習をしている。


 障害物競走は日本で行っていたほのぼのした物とは違い、魔法での妨害あり、敵性のゴーレムありのだいぶ危険度の高い競技になっている。


 魔弾合戦は魔法の世界特有の競技で魔力を込めて魔弾を出射する魔道具を使って参加者の体に装着した三つの的を狙う競技だ。装着する的は魔法を行使する為の引換券にもなっていて、二回魔法を使うと一つの的を魔弾で打たれた時と同じ扱いになってしまう。


「サクラ、ありがとう」

「これくらいおやすい御用だよ!」


 カトレアちゃんが一度休憩に入り、私は障害物競走を模した魔道具を解除する。この魔道具はハカセが作ったもので魔力を込めるだけでランダムに障害物競走の障害物を作ってくれるといった変わり物の魔道具だ。……ハカセはルアードさんに製品化してくれなかったと文句を言っていたけど、普通の魔道具よりも魔力を使う上に用途が限られてるから当然だと思う。


「ゴーレムも早く倒せるようになったね」

「そうね。ただ一番でゴーレムの所に辿り着くのは時間のロスになりそう」

「滑り込み二番手くらいがちょうどいいかもね」


 障害物の一つである敵性ゴーレムが出てくるのは最終局面なのだが、到着した順番によって強さが変動するのだ。早く到達するほど強いゴーレムとなるため最後まで勝負が分からず見ていて面白いと楓さんから聞いている。楓さんがやった時は一位通過でゴーレムも瞬殺したらしいけどね……


 カトレアちゃんに障害物競走のアドバイスをしたら休憩を終える。ミーヤとチコも合流し、魔弾合戦の練習を始める。


「いつでもかかっておいで!」

「どこの魔王よ……」


 魔弾合戦の練習は二対二ではなくカトレアちゃん、ミーヤ、チコ対私の三対一でやっている。そもそも三対三の競技だから私を除いた三人で出場する事もあり、この方が都合がいいのだ。


 ―――


「サクラはん。強すぎやでー」

「チコもう動けない」

「せめて一発だけでも当てたかったわね」


 カトレアちゃんが言ってる通り、三対一でも私の方が圧倒的に強い。ただしそれはチコがカトレアちゃんをたてようとしてるからだ。チコが前面に出てくるといい勝負になると思う。負ける気は無いけどね。


「ここまで上手くいかないと自信が無くなってくるわね……」

「いやいや、相性の問題だから仕方ないよ。いい作戦だと思うな」


 三人の作戦は一人がド派手に魔法を使って目眩しをし、他の二人がその間に隠れて隠密行動をすると言ったもの。魔弾合戦に慣れてない一年生は魔法を使うのに躊躇しがちだからかなり良い作戦だと思う。


 上級生にも通用させる為にはもう一工夫必要かな? 


「三人ともいい? 私も少し考えたんだけど……」


 その後、私の考えた作戦を含めて練習を続け、だんだんと形になっていった。


 ―――


「待ってたのじゃ、対魔王警戒網の打ち合わせをするのじゃ!」


 場所は変わって学園長室。今日は体育祭の警備に関する話し合いを行う。今集まっているのは私とライアス、殿下に三龍生の三人。それからウィードさんにエニシャさん、ソアラさん、メルさんに学園長を含めた計十一人だ。


「あたしら場違いじゃないっすか?」

「そんなこと無いよ。自信持って!」


 エニシャさんがウィードさんと学園長がガーデンのメンバーだと知り気後れしている。

 かくいう私も学園長が母やウィードさんと同じパーティーを組んでいたとは知らなかった。母と連絡をとることがあるみたいだから知りあいだとは知っていたけどね。


「Sランク冒険者には言われたくないっす」


 エニシャさんが拗ねてしまった。


「そうか。サクラが推薦してくれた冒険者じゃったから期待しておったのに残念じゃな。エニシャ殿は帰ってよいぞ」

「ほんとっすか?」

「僕は残る。索敵しかできないけどガーデンのメンバーとの共闘は楽しみ」

「ん……」


 学園長の言葉にエニシャさんは帰ろうとしたけどメルさんとソアラさんの二人はやる気のようだ。二人の反応を見たエニシャさんも顔付きが変わる。


「二人がやるならあたしもやるっす」


 どうやらエニシャさんも腹を括ったようだ。

 本題に入る前に魔王の復活について説明をする。


「それで魔物が活性化してたのか……」

「前言撤回していいっすか?」

「……僕も魔王は想定外」

「…………」


 ウィードさんは驚いているだけだが他の三人は腰が引けてしまったようだ。


「三人とも斥候としての腕がたつとサクラから聞いたから招集したのじゃ。戦わなくてもいいけど周りを警戒して欲しいのじゃ」

「なんてことに巻き込むんすかー!」


 エニシャさんに肩をつかまれて揺さぶられる。酔いそうだから止めて欲しい。仕方ないでしょう?  他に冒険者の知り合いが少ないんだから。あれ?  なんだか私、寂しい子? 


「エニシャさんならできる。いや、エニシャさんにしかできないと思ったから推薦したんです!  でも、どうやら違ったみたいですね……」


 最後の方は少し目を伏せて言う。カトレアちゃんには演技だとバレるけどエニシャさんには効果が抜群だろう。


「サクラさんの期待に応えてみせるっす!」


 チョロい。リーダーそれでいいのかな?  メルさんとソアラさんを見てみると処置なしといった具合に首を横に振りつつも笑っていた。仲が良くていいね。


「全員参加という事で役割分担をするのじゃ」


 学園長が中心となり警備体制を決めていく。学園長が全体の指揮をとると共に学園全体を覆う結界を張るための魔道具を管理し、エニシャさん、ソアラさん、メルさんの三人は外側の警戒を行う。ウィードさんは大きな事件があった場合にいつでも出れるように準備をする。私達学生組は私が午前中、ライアスと殿下が午後に見回りをすることになった。


「リリーの負担が大きいけど大丈夫か?」

「もちろん平気なのじゃ。わしに任せるといいのじゃ。ローズを抑えることに比べたら屁でもないのじゃ」


 母よ、かなり魔力を消費するはずの魔道具を使いつつ全体の把握と指示をしなければいけない立場がなんとも思わないほど迷惑をかけるって何をしたんだ……

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