第41話 中間テスト

 私の注目が少し収まってきた頃、商学科の授業が終わったカトレアちゃんがミーヤとチコを連れてきた。


「お邪魔するでー」

「サクラちゃん! お勉強教えて!」


 もうすぐ中間テストがあるためその勉強を教えて欲しいとのこと。商学科の勉強はカトレアちゃんが魔道具科の勉強は私が教えることになった。

 日本の記憶がある私はもちろん、カトレアちゃんも私の英才教育のおかげでテスト勉強しなくても問題ない。


 まずは私がミーヤにカトレアちゃんがチコに教える。


「サクラ先生よろしゅう!」

「私はやる気がない人には教えないからね」


 ミーヤみたいなタイプは先に釘を刺してふざけ始めたら本当に放置した方が速い。やらずに泣きをみるかもしれないけどそこまでは責任が持てないよね? 


「分かった。ちゃんとやるで」


 私の思いが伝わったのかミーヤがシャキッとして集中し始める。


「これはどないするん?」

「ここはどうなん?」

「ここは?」


 こやつ……一から十まで聞くつもりだな? 


「ミーヤ。自分で考えないと身に付かないよ?」


 ニッコリと笑いかけると本当に分からないこと以外は聞かないようになった。それでも多いけどね。このまま続ければ赤点は回避できそうかな? 


 しばらくミーヤに勉強を教え、区切りのいいところでチコとミーヤを交換した。


「よろしくおねがいします!」

「最初はどれくらいできるかチェックするよ」


 なんとなくチコはある程度できる気がしたから最初にテストで学力を調べてみた。

 うん? この子天才じゃない? 知らないと分からない暗記系はそこそこだけど応用問題や捻った問題はすべて解けている。この感じだと暗記系は話を聞いてなかっただけみたいだね。


「ちょっと待っててね」

「うん!」


 ちょこんと座って待つチコ。素直なええ子や。……素直に言うこと聞きすぎる気もするけどね。

 テスト結果からチコが聞いてなかったであろう場所をピックアップして簡単にまとめる。


 チコとおしゃべりをしつつ資料をまとめ、ある程度のまとまった資料から渡していく。


「チコ。これ順番に読んでいって。チコならこれで大丈夫でしょう?」

「……サクラちゃんはすごいね。羨ましいや」


 何か闇抱えてない?  なんだろうな? 


「チコはあれか。天才過ぎて煙たがられちゃったことがあるんだね?」

「ひゅっ」


 思い当たった可能性を口にするとすこしチコの顔色が悪くなってしまった。

 可能性としてはあってもミーヤがいるなら仲間外れとかされないと思ってたんだけど……。順番が逆か。チコが孤立してミーヤが声をかけたのかな? 


「私もカトレアも誰かが天才だからって嫉妬したりしないからね?」

「うん」


 うーん。まだまだ心の壁があるな? 深く踏み込まない方がいいかな。私が相手だと計算してると勘繰られちゃうし……。カトレアちゃんならどうするかな? 


 とりあえずチコの頭を撫でる。

 おそらくチコは頭が良いだけでなく見たらできる。やればできるタイプの天才なのだろう。努力をしてできるようになったことを一目見ただけでできるようになるチコ。小さい頃の周りの子供達には辛かっただろう。そうして周りに距離を置かれて孤立したチコのトラウマが天才であること。私の想像も入ってるけどそこまで遠く無いと思う。


「私もカトレアも味方だからね」

「うん」


 日本にいたときに目をかけていた後輩にチコが少し被る。彼はすぐに何かをできたり一を聞いて百を知ったりすることはできなかったけどすごく努力する人だった。他の人が手を抜く所で踏ん張る力を持っていた後輩だったけど、その熱量に周りの人が付いていけずに離れていった。あの時も私は目をかけてあげることしかできなかったな……。彼は今も元気にしてるだろうか? 


 日本の時の後輩に思いをはせているとカトレアちゃんが終わりの時間だと告げてきた。


「サクラ。チコ。そろそろ時間よ」

「分かった。チコ、その資料を見ればあとは大丈夫だと思うからこれからのこの時間はおしゃべりしようか」

「うん!」


 チコに少し元気が戻ってきたみたいで良かった。これからの勉強会で少しずつ寄り添っていければいいかな? 


 その後も数日に渡って勉強会を開き、最終的には三人がかりでミーヤに勉強を教える会になった頃、中間テストの日になった。


 七龍学園では複数の科を受講している人がいるため一日に一つの科がテストを行い、他の科は勉強をするか遊ぶか一日自由にできる。

 私とカトレアちゃんが受ける魔法科のテストは初日、カトレアちゃんとミーヤとチコの三人が受ける商学科のテストは二日目、そして私とミーヤとチコが受ける魔道具科のテストは五日目だった。


 魔法科のテストは五百点満点で、魔法の適正は何かといった基本的な問題から各適正を極めると何ができるようになるのか、ゴブリンやコボルトの絵があり、各魔物に対して何の魔法が有効か答えるものまで幅広くあった。最後の問題の難易度がおかしいな? 魔法についての起源から魔法の適正の遺伝特性について説明し、今の適正以外の魔法を使うためにはどうすればいいか。……しかも五十点も配分があるし。とりあえず自分の考えを書くしかないかな。満点狙ってたのにこの問題の所為で無理そうだな。


 魔道具科のテストは三百点満点で、魔道具の作り方から原理まで出題された。途中のひっかけ問題だけ気を付ければ平気そうな難易度だったな。


 テストが終わった次の日、テストの結果が発表された。え? 早すぎるって? テストの用紙が魔道具だから採点も集計も自動でやってくれるんだよね。魔法の力ってすごい! 

 ということで結果が張り出される掲示板の前にカトレアちゃんと一緒に向かう。


「魔法科の最後の問いは何点もらえたかな?」

「あの問題で満点とれる人なんているのかしら。そもそもあの問題を解けたら国中の人達が好きな魔法を使えるようになるってことでしょ? 答えなんてないじゃない」


 答えがないのは同感だけどおそらくあの問題は……。


「あの問題は加点方式じゃなくて減点方式の問いだと思うよ。自分の考えがしっかりと書いてあって結論がかけていれば大幅な減点はないはず」


 最後の問題は減点方式だと思う。ちゃんと考えられた答えが書いてあることが大前提ではあるが、矛盾がないか、理論が飛躍していないかを中心にみていく問題だと思う。かなりの難易度だけど殿下とかならSDSのブレインだったし満点をとってきそうだ。


「何位に入っているかな?」


 カトレアちゃんと話をしつつ待っていると順位が発表された。


 *****

 魔法科

 一位 シルビア殿下(500/500)

 二位 ガーベラ(488/500)

 三位 サクラ(480/500)

 四位 カトレア(476/500)

 五位 ……

 ……


 *****

 魔道具科

 一位 サクラ(300/300)

 二位 チコ(298/300)

 三位 ……

 ……


 *****

 商学科

 一位 カトレア(278/300)

 二位 チコ(276/300)

 三位 ……

 ……


 おおう。魔法科のテストを殿下が満点で一位を取っている。他の科の一位は誰かな? 


「あ、魔道具科は一位だった。カトレアも商学科一位おめでとう」

「そうみたいね。ありがとう。サクラも魔道具科一位おめでとう」


 魔法科の順位を見てみると私はガーベラにも負けて三位か……。最後の問題以外は普通に解けたから半分くらいしかもらえなかったか……

 四位にはカトレアちゃんの名前があるね。


「魔法科の順位はカトレアと前後だね」

「そ、そうね」


 満更でもないカトレアちゃんの表情を見るに最終問題以外は満点だったのかな? 最終問題も半分もらえればいい方だよね。


 ハカセは順位に乗ってないな。……まあ、魔道具の実技全振りの感覚派の天才タイプだから筆記はダメダメなのかも。


 そしてどうやらチコは手を抜いたみたいだね……。むしろ私とカトレアちゃんの点数を予測してそこから一問だけ多く間違えるって凄すぎるでしょう。

 チコがどうやって点数を予測してるのか考えていたらガーベラがやってきた。


「サクラさん。見ましたか? これがわたくしの実力ですよ!」

「さすが生徒会の副会長様ですね! おめでとうございます!」

「もう、張り合いがありませんわね。まあいいでしょう。今度の実技でもわたくしが勝ちますからね」


 言うだけ言って去って行ってしまった。うーん。毎度毎度敵対視されてるな。

 特に意地悪されるわけじゃないからいいけどね。

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