第39話 文化祭遊び編

 喫茶点を出た私達一行はカトレアちゃんの要望でミーヤとチコのお店に行くことになった。


「そういえば二人はいつの間に帰ったの?」

「ウィードさんが楓さんを倒す前ね。だから事件現場は見ていないはずよ」


 事件現場って……。たしかにウィードさんが楓さんを殺害したようにも見えなくもなかったけど言い方が悪くない? 


 気を取り直して二人のお店に行く。どうやら面白い魔道具を中心に扱っているようだ。


 チコがウィードさんを強盗と勘違いしたりウィードさんが怖がらせたお詫びに魔道具を大人買いしたりカトレアちゃんがゴキ……黒い悪魔の形の魔道具を見せてきて悲鳴をあげたりハプニングも多かったけど楽しく物色することができた。


 二人の店をでた私たちは肉串の屋台や焼きそば、お稲荷さんを食べつつ色んな出展物を見て回る。アトラクション系は私と母が高得点をたたき出して簪やポーション、アクセサリー等をかっさらっていった。反感が出てくるかと思ったが母の人柄のおかげで特に文句を言われることも嫌な顔をされることもなく賞品を貰えた。桜姫って呼ばれて握手を求められたりするのは関係ないはずだ。数件同様の反応があったころにニヤニヤしながらウィードさんが聞いてきた。


「さっきから桜姫って誰のことだ?」


 これは絶対分かって聞いてる顔だ! 


「知らないかな」


 とりあえずとぼけてみる。


「いやー、薔薇の女王の娘が桜姫だと……」


 うん? 途中で言葉が途切れたのが気になってウィードさんを見たら般若……じゃなくて母の傍で崩れ落ちたウィードさんがいた。途中で気になる言葉が聞こえたけどもしや……。


「サクラ? サクラは何も聞かなかった。いいですね?」


 全力で頷く。ワタシ、ナニモキイテナイ。


「カトレアちゃん……。何か聞こえましたか?」

「な、何も聞こえてないです……」


 引き攣った顔のカトレアちゃんも全力で聞かなかったことにしたらしい。

 カトレアちゃんからのヘルプの視線を受けた私は全力で話題を逸らす。


「か、母さま、この学園にミスコンあるの知ってる?」

「もちろん知ってるわよ~。朝の時間帯はサクラちゃんの喫茶店が混んでて入れなかったから暇つぶしにサクラちゃんのことを申し込んできたもの~。言うの忘れてたわ~」

「え?」


 とんでもないことを言われた気がしたんだが? 


「えっと? 執事服が似合ってるからってミスターコンに申し込んでも私に参加資格はないよ?」

「何言ってるのよ~。ミスコンに決まってるでしょ~? サクラちゃんはカッコよくても女の子じゃない~」


 カトレアちゃんなら味方のはずだと思って見つめると母がカトレアちゃんになにか耳打ちをした。


「サクラ! あとから放送で呼び出されるのと自分から行くのどっちがいいの?」

「カトレアが買収された!」


 ……最後の希望が断たれた。いや、待てよ? 


「いや、決勝選ばれないから放送で呼び出されたりしないよ?」


 うん。空気的に決勝どころかミスコンに選ばれる雰囲気出てるがそこで流されると恥をかくだけだ。お貴族様とかやたら見目のいい人いっぱいいるんだし、私の中身は男なんだから選ばれるようなことはないだろう。


「サクラちゃんが選ばれないミスコンなんてある意味がないと思うの」

「サクラ。諦めなさい。あなたが決勝に選ばれないわけないでしょう?」


 トーンの下がった母と完全に敵に回ったカトレアちゃんに心が折れそうだけど悪あがきをする。


「う、カトレアも一緒に応募を……」

「もう申し込み期間は終わってるわよ。それにまだやってたとしても今から申し込んで決勝に残れるわけないでしょう?」

「カトレアなら可能性が……」

「ないわよ」


 カトレアちゃんなら今からでも可能性があると思うんだけどな。しかたない、ミスコンの会場に向かうか……。


 ―――


「おまえらーーー! 盛り上がってるかーーー!! 今日は運命の日。そう。ミス・コンクールだー! 今からミスコン決勝戦進出者を発表するぞーーー!」


 重い足をなんとか動かし、ミスコンの会場に着いたらちょうどいいタイミングだったらしい。会場の興奮具合が登りきっている。


「サクラは選ばれるかしら~?」


 すっかり機嫌のよくなった母がワクワクした顔をしている。もしやこれは私が選ばれなかったらまた母の機嫌が下がる可能性があるのでは? 娘が選ばれると信じ切った顔の母をみて思う。選ばれたら全員から辱めを受けて(壇上に上がるだけです)、選ばれなかったら母の般若が出てくる可能性があるってこと? ……ミスコンに申し込みされていた時点で私は詰んでいたらしい。


「……。四人目はちらりと見える八重歯がチャーミングなこのお方!! そんな八重歯で噛まれたい人続出中! 私も噛まれたーーい! 学生ならざる色気でミスを狙います! レオナさんです!!」


 そんなことを考えている間にも順に名前が呼ばれていく。選ばれたら行けるところまで行ってやる。と、なかばやけくそになりながら覚悟を決めたときに運命の瞬間が来た。


「……ということで六人目はドワーフのマティナさんでした! そして最後の七人目は…………親善試合で華麗で衝撃的なデビューを果たしたこのお方!! 今や学園内に知らない人はいないでしょう! なんと! そんな彼女がお母さまの推薦により参上しました!! 桜姫ことサクラさんです! ……では今呼ばれた七人の美少女達は壇上までお願いします!」


 とうとう呼ばれてしまった。母の機嫌が保たれたことに安堵しつつも行きたくないとごねる。カトレアちゃんが私の背中を押すけど止めて欲しい。壇上に上がるのに覚悟が必要なんだ……。


 カトレアちゃんと格闘していると司会の人が続きを口にした。


「おっとーーー! どうやら集計に一部漏れがあったようだぞー? 皆様、大変失礼いたしました。私共の不手際で華麗な美女の一人をお見せすることが出来ない所でした。お詫びも王仕上げます」


 もしや。これは? 


「なんとなんと! 七人目の美女は得票数が同数だったようだぞー! まさに奇跡! 集計ミスもあったけど、既に呼ばれている人はそのままでよし! 観客達はサプライズでもう一人の美女を拝める! 良いことずくめだー!」


 会場内に歓声が上がる。私と交代で良かったのに。と一人ごちるも耳を傾ける。


「伝説の八人目はこの人! 狐のお耳がチャーミング! 凛とした姿も良いけれど、相棒といる時の可愛い表情とのギャップで落ちた人は数知れず! 参加表明が遅かったのにも関わらず圧倒的速度で追い上げたぞー! 商学科の友達の推薦により参上しました!! 立派な尻尾が目印のカトレアさんだーーーー!!」


 商学科の友達……。ミーヤかな? よくやった! カトレアちゃんと一緒なら頑張れる! 

 立場が逆転した私は嫌がるカトレアちゃんを逃がさないようにして一緒に壇上に上がっていった。


 壇上に向かうと見知った顔が目に入った。見たことがあるのはSDSでだが……。


「なによ。私の顔に何か付いてる? ん? あなたよく見たら可愛いわね。これ終わったらお姉さんといいことしに行かない?」


 じっと見ていたら気付かれて危険なお誘いをされてしまった。まだ距離があったのに気が付くとはさすがSDSの主人公の一人・・・・・・だ。


「いえ、遠慮しておきます」

「そう、残念ね、いいことしたくなったらいつでも言うのよ? あなたならいつでも大歓迎だから」


 今は正体を隠してるらしい吸血鬼の姫、レオナ・・・は思ったよりもすぐに引いてくれた。


「あはは、ありがとうございます……。ん?」

「おなかがすいたの。何か食べるもの持ってないの?」


 危険な誘いを断ってると袖を引っ張られた。振り向くとドワーフの少女にご飯を強請られた。この子もSDSで見覚えがある。


「い、今は何も持ってないかな……」

「残念なの……」


 こちらもあっさりと引いて……。引いて……。なんかこっちをガン見してる……。もしや? 


「こ、これでも良ければあげるよ……」

「やっぱり持ってたの。ありがとうなの。感謝するの」


 アイテムボックス内の食べ物に気が付いていたらしい。そういえばマティナは食べ物に関してだけやたらと良い勘してるんだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る