第38話 文化祭出店編
「人来るかな?」
「来なかったらのんびりしましょう」
「サクラ殿は有名だからいっぱい来るでござるよ! これで忍者の認知度も上がって後輩がいっぱいできそうでござる」
「刀使いも多くなってほしいでござるな」
今日は文化祭当日だ。今は料理の仕込みなどの準備を終えてまったりしている。正直カトレアちゃんがいないと準備が間に合わなかった。準備にやり切ったカトレアちゃんもモフり放題だ。うへへ。
文化祭の準備をしながら私は念写機の発明に尽力していた。ハカセからもアドバイスをもらいつつルアード商会で試作品の完成までこぎつけたのだ! 今は私が一つ。カトレアちゃんが一つ持っている。これでカトレアちゃんのコスプレ姿を撮り放題だ。ぐへへ。
結局、私が執事服、カトレアちゃんが巫女服、楓さんが忍び装束でルノアさんが和装メイド服を着ている。
最初はルノアさんが忍装束を着たがっていたが普段着でしかないので却下した。楓さんは動きやすいといって気に入っているみたいだ。
提供する品は団子やあんみつ等の和風菓子を中心にしている。服装が和寄りのため合わせたのだ。ルアードさんに頼んで和菓子を調達してもらったため準備も簡単だった。
いや、最初は材料を用意して自作しようとしたんだけど……。正直和菓子作りをなめていた。私とカトレアちゃんはなんとか見れるレベルまで作れたけどルアードさんから販売許可が出るレベルまでは到達できなかった。楓さんは……、ルアードさんが一目見て投げ出したとだけ言っておこう。そしてルノアさんはできた和菓子の見た目だけは完璧なのに食べると激マズだった。なぜか薬味が入っていたり漢方が入っていたり……。何度言っても忍飯のアピールに必須だからと止めてくれなかった。
そんなこんなでルアードさんがさじを投げて既製品を送ってもらうことになったのだ。
ついでに当日の和菓子の管理や受付をしてくれる人員など、裏方の人も何人か借りている。
―――
チャイムが鳴り文化祭が始まる。不本意だが桜姫とか恥ずかし名で知れ渡った私と三龍生の二人が喫茶店を出すという噂はあっという間に広がっており、広告活動を全くしなかったのにも関わらず、開始してすぐに人が来始めた。
途中途中。客の話に耳を傾けつつ給仕をしていく。すると気になる会話が耳に入ってきた。
「あの狐の嬢ちゃん可愛くないか?」
どうやら分かってる人が来てるみたいだ。こっそり和菓子の分量を増やしてあげようかな?
「そうだな。俺踏まれたい」
「だよな。俺は罵られたい!」
……危険な人達だったようだ。冷めたコーヒーにワサビでも入れてやろう。
昼が過ぎ、段々と人が減ってきた。
「ミーヤちゃんが来たでー! さあさあもてなしたまえカトレア君!」
「カトレアちゃん、遊びに来たよー!」
ミーヤとチコが来た。最近は順調にカトレアちゃんと仲良くなっているらしい。カトレアちゃんが親離れしても寂しくなんてないんだからね!
強がりでツンデレが出てしまったけど困った顔をしているカトレアちゃんに助け船を出す。
「今なら空いてるしカトレアも休憩に入っていいよ」
「ありがとう。忙しくなったら直ぐに戻るからね」
カトレアちゃんは笑顔で休憩に入っていき三人でおしゃべりを始めた。途中で給仕に行くついでに私も話に混ぜてもらっていると次の客が来た。
「いらっしゃいませ。旦那様、奥様。本日は……」
「サクラちゃ~ん、久しぶり~。カッコいいわよ~」
「よっ、似合ってるじゃねえか」
遊びに来たのは母とウィードさんだった。
「ちょっと、なんで来てるの?」
「面白そうだからに決まってるだろう?」
いや、決まってるだろう? ではないが?
「少し見ない間にサクラが反抗期になっちゃったみたいね~」
笑顔で言われても反応に困る……。せめて悲しむふりをして欲しいかな?
「もう、びっくりしただけだよ。反抗期にもなってないから……。そうだ、ウィードさんもあれ参加する?」
二人を席に案内した後、楓さんの方を見る。
「俺がやってもいいのか? 俺が勝っちゃうぞ?」
「いいよいいよ、楓さんも対戦相手に歯応え無くてつまらなそうにしてるし」
「お母さまは参加しちゃダメなのかしら~?」
「母さまがやると会場が壊れそうだから止めてほしいかな……」
「残念ね~」
刀要素をどう入れるか悩んだ結果、楓さんが演武を見せることになったのだ。演武だったり居合切りだったり、何をするかは完全に楓さんに一任している。
他にも対戦型の企画もしていて、食事に来た客が希望をすれば楓さんと模擬戦をできる。もし楓さんに勝つことができたら食費が無料になる報酬付きだ。
楓さんの動きが綺麗なおかげで食事中に楽しめると評判も良く、Sランクに届きそうな実力を感じてみたいって客や記念にといった客が模擬戦に参加して給仕中に盛り上がったりしている。
「おう、忍の嬢ちゃん。俺も一戦いれてくれや」
一瞬ルノアさんが忍の単語に反応していたがカトレアちゃんが止めている。楓さんは一目でウィードさんの実力に気付くと臨戦態勢に入った。
「サクラ殿の知り合いでござるか……。とてもお強い方とお見受けする。是非に一戦お頼み申す」
このままだと観客が怪我をするかな? そう思った私は念のためウィードさん以外の参加者を一度退避させる。
楓さんの殺気に当てられたためか特に不満も出ず退避してくれた。
「暴れると会場が壊れるからな、この銅貨が落ちた瞬間を合図に居合切り勝負でいいか?」
「承知したでござる。第七十期、三龍生が一人、楓。いざ参らん!」
「口上か、じゃあ俺も、ガーデンが一人、ウィード。参る!」
楓さんとルノアさんがガーデンの名前を聞いて驚いている。ガーデンとはなんのパーティーだろうか? 母に聞こうと思って母を向くとニッコリとしているのに目が笑っていない。それに冷気が漏れてる……。絶対に聞いちゃいけないやつだ……。
母を見なかったことにして二人の勝負を見守る。
ウィードさんが銅貨を弾き姿勢を整える。楓さんも雷と風を同時に纏い緊張が高まる。
銅貨が地面に落ちるとともに二人が駆け刀を振るった。観客からは二人の場所が入れ替わったように見えただろう刹那の瞬間だったため、一部始終を見えたのは私と母、ルノアさんくらいだろうか。
「くっ、この短期間で二回も居合で負けるとは……。修行のやり直しでござるな……」
「嬢ちゃんは速いな。ちと焦った」
二人の会話から分かるように結論から言うとウィードさんの勝ちだ。というかウィードさん、私の修行を付けてた時より速くなってる?
「嬢ちゃんには負けられねえからな。まだまだ鍛えてるんだよ。あっちの嬢ちゃんに勝ったのってどうせサクラだろう? 随分速く動けるようになったみたいだな」
私の疑問に気付いたのか頭に手を乗せつつ説明してくれる。ついでに褒められたがそちらはずるしている手前複雑な思いがある。
「私が勝ったのはずるみたいなものだから……。躱した時も切った時もね……」
「ずるとは何をしたのでござるか? いや、それでもサクラ殿の実力に負けたのは事実。今回みたいな居合勝負ではなく普通の試合でござったから攻めるつもりはないでござる。ただ、回避した方法は気になるでござる」
私の話を聞いていた楓さんが聞いてくる。でも一目がある場所ではネタ晴らししたくないかな。
「今はお客様いるから後ででもいいですか? 今は文化祭に集中しましょう。あ、ウィードさんと母さまはお代無料だね。おめでとう」
「ありがとう。後でウィードをしばこうと思ってたけどやめておくわね~」
「いやなんで?」
お、ウィードさんの命は救われたようだ。良かった良かった。
「あら、ちょうど用意してた分の和菓子が終わったわね、みんな休憩に入りましょう。掃除とかもする必要があるだろうからルアードさんが貸してくれた人員次第だけど」
どうやら母とウィードさんに出した和菓子が最後だったようだ。カトレアちゃんが確認すると商会の人たちだけで片づけをしてくれるから休憩に入って良いと言ってくれた。ご厚意に甘えて、せっかくだから母とウィードさん、カトレアちゃんと私の四人で文化祭を回ることになった。
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