第33話 情報共有

 ライアスにも日本の記憶があることが判明し、記憶のすり合わせをすることになった。


「まずはSDSについてからか? ここが何周目の世界なのか。魔王の居場所を知っているか。の二点は知りたいな」


 その前に日本にいたときの最後の記憶とか聞くことがあると思うんだけど……。後でもいいか。


「私は七周目の世界だと思ってるよ」

「俺も同意見だな。日本の記憶を持ってるのも俺達二人だけみたいだし」


 シルビア以外の契約者も記憶を持ってないのを確認済みなんだね。


「そうなるとやっぱり二人でクリアしてみろって言われてる気がするね。もちろんするよね? 魔王退治」

「そうだな。俺も直感でそう思ってる。なぜかサクラを助けないとって気持ちがあるんだ」


 カトレアちゃんが私の前に立ちライアスを警戒し始めた。今日のカトレアちゃんは警戒しっぱなしだね? カトレアちゃんの様子に首を傾げるとカトレアちゃんがため息を吐いた。


「サクラはもっと自分を大切にして欲しいわ」


 どういうことだろう? 私とライアスが首を傾げるのを見たカトレアちゃんはまたため息を吐いて私の後ろに戻った。

 少し脱線したけど結論としてSDSの七周目の世界線だと思って良さそうかな。次は魔王に関してか。


「魔王は復活してると思うか?」

「そこは間違いないと思う。魔物の活性化もしているし……。問題は今どこで何をしているのか」


 残念ながら魔王の居場所についての情報はなにもない。SDSでも後の周になるにつれて伝承は増えても決定的な情報は出てこなかった。


「怪しいのはどこだと思う?」

「候補としては……。魔族が暮らしている魔国。敵が弱いのになぜか魔の名前が付く魔の森。SDSにあったのにも関わらずなんの意味もなかった遺跡。この辺りかな?」


 魔族は魔王を信仰しているし、魔の森は王都近くにある森の奥にある森だ。


「そうだな。後は裏をかいて王都とか?」


 王都……。魔物の活性化が王都周辺だと考えると可笑しくないのか。


「そしたら今魔王は何をしてると思う?」

「そうだな……。力を蓄えてるか。怪我をしていて癒し中か……」


 ライアスの話を聞いていてふと一つの可能性を思いつく。……いや、無いな。私は思いついた可能性をありえないと直ぐに切り捨てる。ライアスに話す必要もないだろう。


 その後もしばらく魔王について話し合ったけど有用な情報はどちらからも出なかった。


「それ以上話しても分からなそうだし、いったん区切った方がいいと思うわ」


 カトレアちゃんからストップが入った。進展のない魔王の話を打ち切る。するとライアスが真剣な顔つきになった。


「サクラは前世の記憶がどのくらい残ってる?」

「? 基本的なことは全部憶えてるよ? 久々にSDSの七周目をやろうと思ってSDSやってたらんだけど、気が付いたらサクラとして生まれ変わってた感じ」


 なんでそんなことを聞くなんてどうしたんだろうか。ライアスも日本の記憶があるんでしょう? 


「名前は憶えてるか?」

「? もちろん覚えてるよ。……もしかしてライアスは憶えてないの?」

「ああ、名前も向こうでの最後の瞬間もな……。エピソード記憶だったか? がほとんどないんだ。覚えているのは二つだけ。SDSの知識と誰かを助けたいという思い……。相手が誰かも覚えてないけどな」


 日本で過ごしてきた記憶がほぼ無いってことか。どんな気持ちなのか想像もつかないな……。


「あぁ、そんな泣きそうな顔するな。覚えてないことがどうでもいいんだ。俺はこっちで生きていくことに決めたからな。レオンもいるし村のみんなも大切だ。サクラはどうなんだ? 向こうの記憶があれば帰りたいとか思わないのか?」

「たまに……思うかな。でもこっちも楽しいし、母さまやカトレアがいるからね。帰るかどうかはその時にならないと決められないかな……」


 帰りたいと思ったことはある。両親には恵まれなかったけど友達には恵まれた。日本で気にかけていた後輩のことも気になる時がある。でも……今の私には母がいる。カトレアちゃんがいる。どちらを選ぶかなんて私にはできない。


「そうか……。思いっきり悩めばいい。どちらを選んでも俺は応援する。ま、帰ってほしくなさそうな顔してるやつもいるけどな」


 笑いつつカトレアちゃんの方を見るライアス。つられてカトレアちゃんの方を向くと不安そうな顔をしている。そんなカトレアちゃんに笑いかける。


「カトレア。大丈夫だよ。どちらにしろ日本に戻る方法なんて無いからね」

「そこは戻る気がないと言って欲しかったわ」


 拗ねた表情をするカトレアちゃんをモフる。


「悪いな。でも、一度話し合った方がいい」

「うん。そうだね」


 もしかしたらSDSのシナリオをクリアすることで帰ることができるかもしれない。それまでには結論を出しておかないとね。


「そういや。さっきの模擬戦、魔道具を使ったっていうの嘘だろう? なにやったんだ?」

「ばれてたか。SDSのネタバレを含むけどいい?」

「ああ、どうせ日本に戻るつもりはないしな。どんとこいだ」

「SDSの都市伝説として超級適正が存在するって言われてたの覚えてる?」


 誰が言い出したのか分からないけど日本にいるときに流れていた噂の一つだ。運営が明かしている適正以外にも適正が隠されているのではないか。隠されているのは他の適正と一線を画した性能をするからではないか。だとすると名前は超級適正だとか固有適正だとか神霊にあやかって神適正なる物があってもおかしくないといった噂で支持する人も多かった。


「実は超級適正は存在しているけど鑑定で見ることができないんだって」

「は……。ってことはSDSのサクラもお前も超級適正ってことか? ん? なんでシルビアにはそう言わなかったんだ?」


 そんなものは自衛のために決まってるよね? 過ぎた力なんて知られていいものじゃないし。


「そういうこと。私が持つ適正は超級適正だよ。魔道具といって誤魔化したのは自衛のためだよ」

「自衛? ばれても問題ないと思うけどな」


 殿下で話が止まるならまだしも陛下や貴族社会に伝わったら面倒なことになる気しかしないでしょう。


「いやいや。今まで無能だと思って迫害してきた無適正の人が自分達よりも上の才能を持ってたってことになるんだよ? 知った貴族たちはどうすると思う?」

「そっか。迫害された恨みを晴らそうと攻撃してくる可能性が出てくるのを嫌がるのか。そうなるとサクラが吹聴しないように消す可能性が出てくるな」

「そうでしょう? だから隠す必要があったの」


 今の私なら逃げることに専念すれば生き延びれるかもしれないけど、カトレアちゃんとか母に迷惑をかけるわけにはいかないからね。それに魔王を倒す前に味方に背後から刺されるとか笑えないし。


「そうだな。なら俺も黙っておくよ」

「ありがとう。ちなみに超級適正はあっても膨大な魔力と繊細な魔力操作の技術がないと使えないから魔法専門のエルフ以外では適正無だと思われるようになったんだってさ」

「はー、そんなことがあったのか。じゃあSDSではサクラを魔力制御全振りとかで育てればクリアできそうだな」

「いや、たぶん無理かな。六歳の魔力発現時から訓練し続けても一年経って超級適正のさわりができるようになるくらいの感じだし、SDSは一年も経たないから」

「やっぱ無理ゲーじゃねえか。難易度調整がひどいな」


 ―――


「そろそろ時間よ。退室しましょう」


 この世界と日本の差や、SDSであったイベントなどいろんな話題に花を咲かせた達だったけどカトレアの合図で時間を思い出す。


「もうこんな時間か。また情報交換しような」

「うん、いつでもいいよ。会議室取ってもらう必要ありそうだけどね」

「そうだな。いやー、それにしても初めて見たときはなんてやべーやつがいるのかと思ってたからこんなに話が合うとは思わなかった。なんだか男友達と話してる気分だった」


 その言葉を聞いて我に返る。日本色の強いライアスと話していたことで私の人格が前世……、いや赤ん坊の頃のものに戻っていたみたいだ。


「そう? 向こうで知り合いだったりして」

「じゃ、親善試合でもよろしくね」


 挨拶をしてから別れる。


「私はこれからもずっとサクラと一緒にいたいわ」


 寮までの帰り道、カトレアちゃんはそう一言だけ話した後、ずっと無言のままだった。

 そんなカトレアちゃんを見て思う。きっと私は……。

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