第32話 作戦会議

 無事に模擬戦が終わった。無事じゃないわよ! って言葉がかけられる気がするけど無事だったことにする。


 思っていたよりもやりづらかったな。というか殿下の頭が良すぎで読みあい大変だった。

 もっと力を付けないと。と思いつつ制御している炎と雷の魔法をよく見る。……? 炎の魔法が変……ではないか。カトレアちゃんの火魔法と少し違うな? いや、炎魔法の方が火魔法よりも上位なのは知ってるけどこの差はそこじゃない気がする。


 うむむと唸っているとカトレアちゃんに叩かれた。


「いたい! 何するのさ」

「やりすぎないように言わなかったかしら?」


 とっても怒ってる……。で、でも。


「それは予選の時であって決勝戦で……いえ、すみませんでした」


 途中で怒りが増したカトレアちゃんに非を認める。言い訳すると余計に怒られるからね! 私賢い! 


「賢い子はこんな会場をめちゃくちゃにしないわよ!」


 結局余計に怒られてしまった。ぐすん。


 ―――


 オリエンテーションが一通り終わり、今日は解散になった。ちなみに会場の後始末はちゃんとしたよ? スティムから土魔法の制御を奪って土を均しただけだけどね。細かいところは学園長がやってくれた。


 教室を出ようとするとライアスと殿下がやってきた。


「おいサクラ。魔法の制御を奪うってなんだ。意味が分からんぞ」

「私も気になりますね。興味深いですし、サクラさんさえ良ければ教えてくれませんか?」


 日本の記憶のあるライアスはともかくシルビアに天の適正について話すつもりは無いんだよな……。


「ごめんなさい。そこは秘密事項なので」

「そうですか。そうなると危険人物として警戒しないといけませんね?」


 シルビアの言葉に少しうんざりする。何がサクラさんさえ良ければなの!? 普通に脅してきてるし……。まだ頭脳戦が続くの? 疲れたんだけど……。


 カトレアを含めた四人でシルビアが確保した会議室に入る。


「私の場違い感凄いわね」

「大丈夫大丈夫。居てくれるだけでいいから」


 私を置いて逃げないで! ライアスはともかくシルビア相手に天の適正を誤魔化すの大変だから癒しが欲しいの! 


「カトレアさんは初めましてですね。知ってるかもしれませんがシルビアです。よろしくお願いしますね」

「カトレアです。サクラのお目付け役やってます。よろしくお願いします」

「カトレアっ!?」


 なんかほっとした顔のライアスに腹が立つ。シルビアは良く分かってないみたいだ。そのまま純粋に育って欲しい。と頷いたが、


「うんうん。じゃないでしょ。殿下も直ぐに気が付くと思うわ」

「どういうことっ?」

「そういうことよ」


 続けて抗議しようとしたが黙殺された。

 早く本題に入って終わらせよう。


「殿下は何を知りたいのですか?」


 自分から余計な情報を話いわれは無いよね? 


「そうですね。どうやって魔法の制御を奪っているんですか?」

「率直ですね。実は魔道具を使っていたんですよ。あらかじめ魔力を込めておくと、その百分の一までの魔力量で発動した魔法の制御を奪う魔道具です」


 百分の一だと普通の人にとっては大した効果を出せないから欲しいとも言わないでしょう。


「百分の一ですか。サクラさんの魔力はどれくらいですか?」

「そうですね。今日の測定で五回測り直しをさせられたあげく、化け物を見る目で見られるくらいでしょうか」


 嘘は極力控えないとぼろが出そうだし。正確な値は教えたくないよね。


「そうですか。その教員には後で警告しておきますね。生徒を化け物扱いするのはあまり良くありませんし」


 飛び火しちゃったか。可哀そうだけど殿下の言いたいことも分かるし仕方ないよね。


「事実でしたか」

「?」


 あ、もしや私が嘘を吐いていて人に迷惑がかかると慌てて撤回すると思ったな? 


「殿下。私が嘘を吐くと疑うなら私から話を聞くのは時間の無駄でしょう」


 正直、思っていた以上に尋問みたいなこの雰囲気が嫌だ。少し殿下を睨む。


「ぷっ。あはははは。そうですね。失礼しました。悪い人じゃないとは思うのですが強い力を持つ人が敵だと危険ですから。頭もとてもいいようですしね」


 突然笑い出した殿下からは尋問するような雰囲気が消える。


「シルビア殿下。サクラはわざわざ答える必要のない情報まで開示したのですよ? それに悪いことをしていないのに人を悪人扱いして。人としてどうかと思います」


 カトレアちゃんが私の前に立って殿下を威嚇する。


「シルビア。悪いが俺もカトレアよりの意見だな。そもそも悪人だったとしたら実力を隠すか事故に見せかけてシルビアを殺すくらいできる実力があるのは分かってただろう?」


 ライアスも私を擁護してくれる。けどこの雰囲気はよろしくないな。


「二人とも落ち着いて。当事者にされて不快だったから反論したけど、殿下がしてることは為政者として正しいよ」

「でも……」


 未だ不満そうな顔をするカトレアちゃんを抱きしめる。


「ありがとう。気持ちだけ受け取っておくよ」

「そ、そう。サクラがいいならいいのよ」


 少し顔を赤くしたカトレアちゃんがそっぽ向いた。可愛すぎか? 


「こほん。二人だけの世界に入らないでくれますか?」


 殿下の咳払いに慌ててカトレアちゃんから離れる。


「サクラさんについては全面的に信用することにします。サクラさん。疑うような物言い、申し訳ございませんでした」


 殿下の突然の謝罪に慌てる。殿下が平民に頭を下げたら駄目でしょうが! 


「顔をあげてください。平民が殿下に頭を下げさせたなんて噂が流れたらどうするんですか……」

「ふふ。時期最高権力者がサクラさんになりそうですね」


 なりませんよ? 殿下私を取り込もうとしてません? 


「冗談はさておき、せっかく親善試合に出場するメンツがそろったので親善試合の作戦でも立てましょうか?」


 カトレアちゃんが再度私の前に立って殿下を威嚇する。カトレアちゃんを落ち着かせている間も話は進んでいく。


「そうだな。今日の模擬戦を見ていなければ上級生たちは俺ら二人を警戒するだろう? となるとサクラを切り札にすればいいよな」


 私が切り札……。いい響きだ。神霊の愛し子として有名なライアスや切れ者王太子として有名なシルビアと名も知れない私なら確かに私への警戒が薄いだろう。


「そうですね。上級生がどんな魔法を使うかが分からないから細かい対策は立てられませんし、決めるのは攻守の分担と連携方法くらいでしょうか。サクラさんをメインアタッカーとして起用するのであればライアスさんが防御で私が二人のサポートが良さそうですね」


 ライアスがタンクってこと? 光魔法で回復しつつだと可能性はあるけど……いや消去法か。殿下に防御は無理だもんね。うーむ。消去法はあまりよろしくない気がするかな? 


「王子様の雷魔法と俺の炎魔法でサクラの火力を増強して攻撃してもらうのが手っ取り早そうだな。……サクラもそれでいいか?」

「ちょっと待って。一つ確認だけどライアスは防御が得意ってわけではないよね?」

「あ? 得意ではないけどそこそこできるぞ? 本職ほどではないけどな」


 ライアスはSDSでもオールラウンダーだったからできることは分かるんだけど……。


「いや、ライアスをタンクにするのはもったいない気がするよ」

「ではサクラさん。どうしますか?」


 殿下の問いにほくそ笑む。うん。こういう時は意表を突くのが良いよね? 


「うっわ。邪悪な顔してるよ」

「なっ。失礼なっ! こんな可憐な乙女に向かって「乙女……?」邪悪だなんて! カトレア? 首を傾げるところじゃないよね?」


 中身はともかく外側は可愛い女の子なんだよ? 


「そ、そうね……。うん、サクラは乙女よ……。……中身以外はね」


 ふっふーん。カトレアちゃんも同意してくれたみたいだし、ライアスも邪悪だなんて言えまい! 中身? 知らない子ですよ? 


「はいはい。おとめなおとめ。で、サクラの作戦は?」

「そうだね。……」


 ライアスに促されて作戦を話した。作戦を聞き終えたライアスと殿下の二人もにやりと笑う。


「なるほど。悪くないですね。サクラさんが肝ですが今日の実力を見る限り大丈夫でしょう」

「おう。俺も守るより攻める方が性に合うしな。それで行こうか」


 無事に二人の同意を得られたようだ。私も今から楽しみになってきた。


「ふふふ。今日はお二人について知ることができて良かったです。私相手に緊張しないで発言してくれるのも嬉しいですし……。親善試合が終わっても仲良くしましょう。もっとフランクに接していいですよ」

「? 了解。魔法科でもよろしくね」

「おう、よろしく」


「お邪魔してすみませんでした。どうしても気になったものでして。では私は退室しますので後はごゆっくり。一度でも会議室の中が無人となると自動で施錠されるのでお気をつけください」


 模擬戦の振り返りと親善試合の簡単な打ち合わせが終わり、シルビアが外に出ていった。

 これで本題に入れる。


「日本についてだよね?」

「ああ。魔王についても話がしたいな」


 やはり彼にも日本の記憶があるみたいだった。

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