第31話 決勝戦<第三者視点>

 各ブロックの決勝進出者が会場に入ると歓声が沸く。

 Aブロックの勝者はシルビア。神業の頭脳プレーで会場全体を支配し、最後には圧倒的な火力を見せつけたブルーム王国の王太子だ。

 Bブロックの勝者はサクラ。この少女の実力は未だに分からない。ただし、この少女向かって放たれた魔法はすべて不自然な軌道を描いてそれていったことだけが分かっている。ダークホースのハーフエルフだ。

 Cブロックの勝者はライアス。圧倒的な実力で他を寄せ付けずに周りを下し、最後の一騎打ちで格の違いを見せつけた神霊様の愛し子だ。


 三人は中央に集まると話を始める。


「やはりこの三人が残りましたね」

「殿下は集団戦が苦手だと思っていたので意外でした」

「最初から殿下が決勝に来るって予想してたくせに何言ってるんだよ」


 これから戦うはずの三人の間にあるのは緩い空気。穏やかな会話が広がる。


「なるほど。お二人は私の弱点を把握しているようですね」

「なっ」


 驚くライアスと表情の変わらないサクラ。緩い空気の裏で頭脳戦が始まっていたことに気付いていないのはライアスだけだったようだ。


「ふむ」

「は?」


 サクラの態度を見たシルビアはサクラがわざとシルビアの弱点を知っていることをほのめかしたことに気付く。ライアスは話についていけてない。


 その様子を確認したサクラは会場の端に移動し。戦闘の準備を始める。シルビアがそれに続き準備を始め、ライアスがワンテンポ遅れて準備を始めた。


 シルビアは考える。遠距離の魔法を放つのは悪手。なら魔法で身体能力を底上げするのが定石だと。しかし、サクラの能力は未知数だ。サクラは光をいろんな形状にしていたから多くの手札を明かしたように見せていたけど実際には一つの魔法しか使っていない。

 しかし、サクラはそこまで把握している状況で弱点を知っているという情報を与えてきた。つまりサクラはシルビアが総攻撃を警戒して守りに入ってほしいと考えている。初対面の連携だと穴を突くのが簡単だし、逆に利用することができる。しかし、二人は教室でも話をしていたし最初から知り合いだった可能性が高い。そうなると崩すべきは……。


 サクラは考える。シルビアなら今与えた情報だけでサクラとライアスが連携をすると考えると。その時にシルビアが取る手段は一つ。速攻でサクラかライアスのどちらかを倒すこと。それならば未知の魔法を持つサクラを相手取ってもたついている間にライアスに挟み撃ちをされると危険だからライアスを先に叩こうとする可能性が高い。そうなると初手は……。


 ライアスは考える。サクラもシルビアも頭良すぎだろと。別に力押しして勝てばいいだけだと。それなら手段としては……。


 決勝戦開始の合図がなる。


 シルビアがサクラに攻撃を仕掛け、サクラが周辺を凍結させる。シルビアはサクラとライアスが攻撃してこないことに驚き警戒をして一度引いた。


「同時に攻撃してこないんですね」

「殿下なら私に突っ込んでくると思いましたから」


 あくまでも言質は取らせない。ほとんどないと分かっていても完全な否定だけはさせないよう言葉選びに気を付ける二人。そんななか、サクラとシルビアを同時に攻撃しようとライアスが広範囲に炎魔法を使った。


 シルビアはサクラの氷の裏に隠れてやり過ごし、サクラは炎の一部を支配して制御権を奪う。同時に氷を針へと変形させてシルビアを追撃するがサクラが制御したことによって空いた炎の穴を通ってシルビアはライアスに向かっていく。

 シルビアが急転換し氷の針がライアスを襲う。しかし、ライアスの出した炎で氷が解けていく。


 この時にはシルビアの考えが修正される。サクラとライアスは共闘しているのではなく、サクラが一方的にライアスを利用して共闘しているように見せかけていると。

 そして一つの仮定を立てる。サクラが一度に制御を奪える魔法は限られていると。その根拠はさきほどのライアスの炎をすべてではなく一部だけしか制御しなかったから。もちろん罠の可能性も外さない。


「ライアス! ここは共闘しませんか?」


 ここで手を組めばサクラとライアスが共闘してる可能性がないと確信を持てる上にサクラに魔法の制御を奪われないで倒すことができる可能性が跳ね上がる。


「そうだな。そうしないとサクラには勝てないかもな」


 良い感触に心の中でガッツポーズをする。ライアスも強いけど一騎打ちならサクラよりもやりやすい。


「だが断る」

「なっ!?」


 ライアスもサクラと一騎打ちをするのが危険だとは分かっているはずなのにとシルビアが驚く。


「俺は誰とも組むつもりは無い! こういった戦いは楽しみたいからな」


 ライアスの言葉でサクラとライアスが連携していないと確信する。しかし厄介なことには変わりない。


 一度仕切り直しをしようとすると辺り一面に影ができた。ライアスとシルビアが上を向くとサクラが作り出した桜色の氷山が落ちてきている。


「まじかよ……」


 ライアスが呟く。サクラは涼しげな表情をしている時点で自分に当たらないようにできるのだろう。


「これでも共闘しませんか?」

「……ああ。一度行ったことは曲げない」


 少し迷った様子のライアスだったがシルビアの申し出を再度断る。ライアスからすると氷の時点で燃やし尽くせばいいだけなので脅威ではない。サクラがシルビアを倒した後にサクラを攻撃すればよいと思っていた。


「……しかたありませんね」


 一方のシルビアには氷山が落とされた時の対処法は無いため、氷山が落ちてくる前にサクラを倒すしか選択肢がない。


 シルビアは雷をまとってサクラに突貫する。しかし、サクラに近付くとサクラが雷の制御を奪う。そのまま手刀でシルビアを倒し、サクラとライアスの一騎打ちになる。違和感を察知したサクラが一歩横にずれるとシルビアが最後に仕掛けていた風魔法の追撃がサクラの立っていた位置を通過する。


「あ、危なかった」


 サクラがほっとしている横で観客の貴族令嬢からブーイングがあがる。


「うはっ。シルビアに手を出すと大変だな」

「変な言い方しないでくれる!?」


 氷山が落ちてきているのにも関わらずのんきな話をしているサクラとライアス。

 次の瞬間氷山が消える。


「目的は達成したしこれはいらないよね?」


 サクラが氷山を粉々にし、桜色の雪が会場に降り注ぐ。

 一瞬遅れてライアスが全身に炎をまとう。


「あぶねえな。氷の鱗粉で氷漬けにするつもりだったのかよ」

「君のような勘がいい人は嫌いだよ」

「こんな時にまでネタに走るな!」


 ふざけつつもシルビアから奪った雷で追撃してくるサクラに対して光魔法で回復しつつライアスが接敵する。


 炎が吹き、氷が舞い、雷が駆ける会場に観客が盛り上がる中、二人の攻撃は加速していく。


「さすがSDSの主人公たちのリーダーだね。強かったよ」


 サクラが戦いつつもライアスの炎の制御を奪う。


 遂に膝をついたライアスの前には桜色に変わった氷と雷と炎を纏ったサクラが一人立っていた。



 この戦いを見ていたものは畏敬の念を込めてサクラをこう呼ぶようになった。


 “桜姫はるひめ”と……。



 この模擬戦の後、サクラのどや顔を見て頭を抱える幼馴染の二人と、めちゃくちゃになった会場をみて頭を抱える学園長の姿を見た人がいたとかいなかったとか……。

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