第30話 予選

 全員がブロックごとに分かれ、模擬戦の予選が始まった。

 まずはAブロックからだ。


 殿下が会場に入ると貴族の令嬢達から黄色い声援があがる。他の人たちがやりにくそうだ。


 SDSの情報通りだと殿下は早くて攻撃力が高いけど防御が紙なので一騎打ちならともかくバトルロワイアルで一斉に狙われれば殿下はそうそうに離脱するかな? 何か対策はあるんだろうか。


「サクラは誰が勝つと思うの?」

「うーん。やっぱり殿下かな?」


 カトレアちゃんの問いにそう答える。いや、殿下には不利なことが多いと思うけど神霊の契約者の一人だし。それに殿下の一番の武器は素早さでも火力でもないからね。


 Aブロックの戦いが始まる。


 一斉に飛び交う魔法。直ぐに人が減り始める。うーん。私なら真っ先に誰かと共闘して殿下を叩くんだけど……。どうやら貴族もそれ以外の人も気後れして殿下に仕掛ける人がいないみたいだね。

 たまに殿下を攻撃する人もいるみたいだけど良い感じに他の人が射線上にいたり照準を絞っている間に他の人に攻撃されたりしている。もしやこれは? ……まさかね。さすがに無理だよね? 殿下のやってることを思いついた私が驚愕しているとライアスが不思議そうな声をあげる。


「シルビアのやつ一度も攻撃してないな。存在感消して人が減るまで待つつもりか?」

「ライアスさんの目は節穴なのかな?」

「あ?」


 しまった。軽く煽る言い方になってしまった。


「ごめんごめん。殿下の動きに衝撃を受けてたところだったから頓珍漢なことを言い出したライアスさんについ本音がこぼれちゃったの」

「やっぱ喧嘩打ってるだろう」

「ライアスさん。サクラはわざとじゃないから流してくれると嬉しいわ」


 カトレアちゃん? それだと私が余計酷い人にならない? 私が膨れてるとライアスが説明を促してきた。


「はぁ。それで? シルビアは何してるんだ?」

「全員の魔法の適正と性格を把握したうえで攻撃されないように移動しているの。途中途中で自分に不利な相手にちょっかいを出して気を逸らして他の人に止めを刺させてるみたいだよ」

「んなバカな。これだけの人数全員の能力を把握してるってことか? そんなもの人間業じゃないだろ」


 そのうえで正確にシミュレートしているのが恐ろしいところだけどね。戦略も何も圧倒的な力でねじ伏せるタイプじゃないと勝てないんじゃないかな? 


「さすがブレイン役の主人公だよね。そう考えるとあり得る話でしょう?」

「そうだな。シルビアの本領は一騎打ちだと思っていたけど乱戦が真骨頂だったか」


 そこらへんはSDSではわからない場所だからファンとすると知れて嬉しいね。


 私とライアスが話をしている間に人の数が減っていき、最後は火力でごり押しをした殿下が決勝戦に進出した。


 ―――


 Aブロックの戦いが終わり、次は私の番だ。


「カトレア。行ってくるね」

「サクラ、やりすぎてはダメよ。ほどほどに抑えなさい」


 カトレアちゃんはなんの心配をしているのだろうか。私はちゃんとわかってるのに。


「分かってないから心配なのよ……」


 頭を抱えてるカトレアちゃんに疑問を抱きつつ会場に入る。すると金髪ドリルのお嬢様が声をかけてきた。


「サクラさんでしたね。わたくしガーベラ。殿下に色目を使う女には負けませんからね!」


 こちらが返事をする前に踵を返して離れていった……。殿下に色目を使った記憶ないんですけど!? 


 ワンテンポ遅れてさっきの女の子の名前はガーベラというのかとか、髪の毛引っ張る許可を貰い忘れたとか考えているとBブロックの予選が始まった。

 開始直後、遠くから光の玉が飛んできた。体を逸らして躱しつつ制御を奪う。光の色が白に近いものから桜色に色付く。近くの男が魔法を打とうとしていたため光の玉を男に当てると吹っ飛んでいった。


「……割と威力高くない?」


 思った以上の威力に驚く。誰の放った魔法かと魔力を辿るとガーベラの物だった。魔法の制御が奪われて驚いているようだ。


 完全に制御権を奪った光の玉は桜色へと変わり私の思い通りに動くようになる。魔力を追加して光の玉の量を増やすと分裂させたり形状を変えたりする。私はいくつかの光の玉を中空の円状へと変化させつつ会場の中心に移動した。途中攻撃してきた人たちは玉の形を保ったものを使って吹き飛ばす。


 会場の中心についた私は中空の円状の光の中心が私になるように移動させたら連続で光の大きさを拡張した。

 私を中心として会場全体へと広がる光の円が波のように他の生徒たちを押し出していく。ガーベラだけは何度か相殺したけど最終的には連続してくる光の波に巻き込まれて吹き飛んでいった。


 私以外誰も立ってないのに予選通過の合図が来ないため疑問に思って審判役の教員をみると口を開けて呆然としていた。声をかけると気を取り直したように勝利宣言をしてくれた。やったね。決勝進出だ。


 カトレアちゃんの元に戻ってピースマークをするとやりすぎだって怒られた。頑張って氷華使うの我慢したのにまだやりすぎだったらしい。そうじゃないと言いたそうな顔をしてるけど勝つためには仕方なかったと思うよ? 


 ―――


 続いてCブロックの予選が始まる。


「カトレア頑張って!」

「私はそこそこでいいわ。決勝の子ってサクラと戦うのも嫌だし。ライアスさんに勝てるとも思えないわ」


 私もカトレアちゃんとは戦いたくないけど……。カトレアちゃんには頑張ってほしいのだ。私の不満が伝わったのか仕方ないわねと言いたげな顔をしつつカトレアちゃんが言う。


「私なりに全力は尽くすわよ。応援してね?」

「任せて! いっぱい応援してあげる! !」


 魔力で身体強化……はカトレアちゃんに怒られるから止めて純粋に応援だけしよう! 


 Bグループの戦いが始まると直ぐライアスが暴れ始める。

 圧倒的実力でどんどん人を倒していっているようだ。


 カトレアちゃんは魔法で位置を誤認させて身を守り隠密状態からの奇襲で少しずつ人数を減らしている。


 途中でライアスを集団で狙う人達も出てきたけど初めてあった人同士ではうまく連携できずに全員散っていった。


 最後に残ったのはカトレアちゃんとライアスの二人。さすがカトレアちゃんだね! 


「そういえば自己紹介はまだだったな。俺はライアス。唯の獣人だ」

「サクラの所為で自己紹介し終わった気分だったわね。私はカトレア。サクラの幼馴染よ」


 今更ながらの自己紹介をしてから二人がぶつかる。

 影魔法で姿を隠し、火魔法で攻撃するカトレアちゃんだったけど光魔法でカトレアちゃんの場所をあぶり出し、炎魔法を叩きこんだライアスがあっさりと勝利してしまった。


 戻ってきたカトレアちゃんをねぎらう。


「カトレアの仇は私が打つからね!」

「死んでないわよ!」


 おかしい。ねぎらったはずなのに怒られた! 


 ―――

<???視点>


 ある部屋から四人の男女が魔法科のオリエンテーションを見ていた。


「どうじゃ? あの三人と戦ってもらいたいのじゃが」

「拙者は戦っていいでござる。相手にとって不足なし」

「本当に一年なのか? 化け物の巣窟じゃねえか」

「それでもやりたいのでござろう? 某も楽しみになってきたでござる」


「それじゃあ俺たちは行くかな」

「決勝は見なくてもいいのじゃ?」

「三人はこちらを知らないのにこちらだけ向こうを知ってるのはフェアじゃないだろ?」


 そういうと三人は部屋から出ていった。


「見とかないと悲惨な目にあうと思うのじゃが……」


 残された一人の呟きはすでに部屋を出ている三人に届くことは無かった。

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