第29話 オリエンテーションの開始
入学式の次の日は各科のガイダンスがある。私は魔法科と魔道具科、カトレアちゃんは魔法科と商学科の授業を受ける。噂でシルビア殿下が三つの科に加えて生徒会に所属すると聞いた。さらに王族教育なるものもあるらしい。……王族って大変なんだね。転生先がシルビアじゃなくてよかった。
私もカトレアちゃんも二つの科に所属しているけど推薦組は推薦された学科が優先されるため初日のオリエンテーションは魔法科で受けることになる。
カトレアちゃんと一緒に教室に入るとライアスが近づいてきた。
「よう、サクラだったな。今日の授業が終わったら話せないか?」
日本の事とSDSについてかな? 昨日の学園長との話で私が失言した時にカバーしてくれたし、私が日本の記憶を持ってることも予想しているのだろう。私も日本の記憶を持ってる人が他にもいる可能性は考えていたし、その時はライアスとか殿下のような主人公組が記憶を持っている可能性が高いと思っていた。
「ライアスさん。もちろんいいですよ。どこでお話します?」
「あー、誰にも聞かれたくないからな。シルビアに頼んで空き教室を取ってもらうか。授業が終わったら一緒に移動しよう」
殿下忙しいのに雑用増やされて可哀そうだな。
「ライアスさん。私も同席していいかしら?」
「止めて欲しいな。サクラもそう思うだろう?」
ライアスは日本のことを隠しておきたいのかな? でも私は小さい頃すでに話をしてるしな。
「私はカトレアちゃんが一緒でいいよ。すでにいろいろと話してるし」
日本のことも魔王のこともね。
「そうか……。ま、いいだろう。結局サクラから話が伝わりそうだ」
「その通りよ」
カトレアちゃん? 私だって口止めされたらそう簡単には話さないよ?
「……言わないとモフモフ禁止令を出すわよ」
「ごめんなさい。なんでも話すよ! 何が聞きたい? どんとこい!」
カトレアちゃんがぼそりといった悪魔の宣言に手のひらを反す。カトレアちゃんのモフモフを禁止されないためならライアスの秘密なんて些細な問題だよね!
「前も思ったけど突然どうした」
前とはなんぞや? 疑問を浮かべて首を傾げるとライアスが教えてくれた。
「昨日の入学式だよ。唐突に人がゴミのようだとか言い始めていただろ?」
「いやー、つい言いたくなっちゃって」
誰でもネタに走りたくなる場面だよね! ……元ネタ知らないけど。
「言いたくなるのは分かるが普通は言わないだろう」
「分かるのね……。日本って場所が怖くなってきたわ」
引き気味のカトレアちゃんが逃げられないように捕まえておく。モフモフ。
「人前で止めなさい!」
「俺こいつと魔王退治する必要があるのか? 心配になってきたぞ?」
私達が教室にいるのも忘れてカオスな空間を作り始めた頃、授業が開始する鐘がなった。
「そこの三人。授業を始めるからさっさと席に着けー」
「「「はーい」」」
なんかぼさぼさ頭の教授が出てきた。白衣に眼鏡……。研究バカみたいなタイプかな?
「どうせ覚えきれないから自己紹介はなしでいいよね。自己紹介は自由時間にでも各自やっておいてくれ」
それでいいのかな? 私にはカトレアちゃんがいるから気にしなくていいか。
「フューズ先生。せめて教授の名前だけでも言ってくださらないと生徒たちが困ります」
「んー? シルビア君が言ってくれたからいらないんじゃないかな? まあいいや。フューズです。よろしく。今日はオリエンテーションということでみんなの実力を検査するよ。順位付けをするわけじゃないけど他の生徒へのアピールを頑張ってね。それじゃあ僕は帰るからシルビア君よろしくね」
……。本当に帰っていった。なんで教員なんてやってるんだろう。
「しかたない……。私が代わりに進行しましょう。立候補の方がいればお任せしますが?」
「殿下を差し置いて目立つことをする人なんていないと思いますわ」
金髪ドリルのお嬢様が意見を言っている。私も同感だね。女の子がこちらを向いたから手を振ってみたらなぜか睨まれた。私目を付けられることしたっけ? ……あのドリルを引っ張ろうとしていたことがばれたのだろうか。
「人の髪を引っ張るのはダメに決まってるでしょ」
「痛い痛い。耳も引っ張っちゃダメだよ」
不満顔のカトレアちゃんに耳を引っ張られてしまった。ひどい!
「お前ら心の中で会話でもしてるのか?」
「幼馴染だからね。何考えてるかくらい分かるのよ」
カトレアさん? 分かっても人の心は読んじゃダメなんですよ? プライバシーの侵害です!
「顔に全部出す方が悪いのよ」
「ぐぬぬ」
「そこの三人は聞いていますか?」
あ、おふざけをし過ぎて殿下に怒られてしまった。なんで俺までってライアスが文句を言っていたけど殿下に睨まれて黙った。ぷぷぷ。
フューズ先生が言っていた実力の検査では魔力量の測定を行った後、模擬戦をするらしい。三ブロックに分かれてバトルロワイヤルをした後、各ブロックの優勝者で三つ巴の決勝戦がある。ちなみに普通の授業は明日からみたいだ。
―――
魔力測定が始まる。三列に分かれて並び、鑑定用の水晶に魔力を込めていく。どうやら魔力以外のステータスを見ないように配慮してステータスがすべて見れる石板はやめているようだ。
私の魔力って生まれた頃も多かったけど今も増え続けてるんだよね。……壊したらどうしよう。弁償とか言われないよね?
「サクラ。あれってルアードさんのところにあった魔力を込めると光る水晶よね。鑑定なんてできたかしら?」
「ふっふっふ。カトレアくん。あれは私が考案したのだよ。褒めたまえ」
そう。実は学園が始まる前の暇な時期、冒険者としての活動だけでなく商品開発もしていたのだ。元々はカトレアちゃんの言った通り光るだけの魔道具だったけど、込めた魔力の量が多いほど光が強くなる性質があったため、明るさから込めた魔力量を解析できないかと考えたのだ。唯の光る魔道具と言われると無意識の内に魔道具を使用するのに適切な量しか魔力を込めないから光り方が一定で今まで気づかれていなかったらしい。思い込みって怖いね。
「そう。すごいすごい。さすがサクラね」
「心がこもってない」
凄く棒読みだった! 頑張ったのにひどい! ぶーぶー文句を言っていると私たちの番が近付いてきた。
水晶に触れて壊さないように調整して魔力を流す。……ルアードさんのところで魔力を込めすぎて一度壊したことがあるからね。
込めた魔力が少し多かったのか記帳している教員は結果を見て一度固まり、目をごしごししてからも一度見て再度固まり、壊れているみたいなので新しいのを用意するように指示を出した。それが三度繰り返されると今度は化け物を見る目で見られた。……なかなかに理不尽じゃないかな? 壊さないようにするの大変だったのに。
憤慨しつつ先に測定が終わっていたカトレアちゃんのところに戻る。
モフモフしつつ文句を言ったら苦笑いされた。
でも良く壊さなかったわね。ってカトレアちゃんに褒められたよ! やったね!
魔力測定が終わった学生達が訓練場に集まり始める。全員が集まったところで殿下が切り出した。
「さて、模擬戦のブロック分けですが、先程の魔力量を基準にこちらで振り分けをしました。では、名前を呼ぶので名前を呼ばれたらそれぞれの場所に集まってください。まずはAブロックから。壇上を見て右手に集まってください。……」
Aブロックには殿下とスティムがいる。スティムじゃ殿下には太刀打ちできなそうかな。
Bブロックは私とさっきの金髪ドリルの子だ。これは髪を引っ張るチャンスが来たかな? 勝ったら扇を持って高笑いしてもらおう!
Cブロックにはライアスとカトレアちゃんがいる。ライアスの実力は知らないけどカトレアちゃんが負けちゃいそう……。むむむ。身体強化の魔法をカトレアちゃんにこっそりと……。
「サクラ? 不正はダメよ?」
「おい。俺に何をしようとした!」
「いやいや。ライアスには何もするつもりは無かったよ?」
レオンに喧嘩を売りたいわけじゃないからね。
「どうだか……」
「大丈夫。サクラは私に補助魔法をかけるか悩んでいただけよ」
「お、おう。そこまで分かるんだな……」
ライアスが引いてるけどどうしたんだろうか?
「いや、サクラが良いなら別にいいんだ」
それなら気にしなくていいかな。さて、ワクワクする相手はいるかな?
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