第28話 学園長室での一幕<ライアス視点>
<???視点>
僕はいつものように出社した。いつものように挨拶をする。……。いつもの挨拶が返ってこない。
「**先輩は今日お休みですか?」
「**? そんな奴うちにいたか?」
疑問に思って上司に質問をする。上司はそんなやつ知らないと答える。
「え? 先週の金曜日にもあの席にいたでしょう?」
「**大丈夫か? あの席はずっと空席だぞ? 月曜だからっていつまでも休日気分を引きづってたらダメだぞ。しっかり目を覚ませ」
上司は笑いながら僕の背中を叩く。僕は笑うこともできずにただただ呆然としていた。
僕は**先輩の家にいた。終業後によく連れていかれた家。……。空き家になっていた。
部屋の中に入った。タンスやいす。ベッドに机。見えたのは一瞬。……。残っていたのは一つのゲーム。僕も良く遊んだゲーム。
僕の家にいた。ゲームを起動した。
『あなたには記憶がありますか? Yes or No』
「最初はただただ嫌だった。ひどい先輩だと思った」
……YES。
『あなたの記憶はなくなる可能性があります。それでもこのゲームを開始しますか? Yes or No』
「でもやっぱり先輩はカッコよかった。僕が何度ミスをしてもすぐにフォローをしてくれた」
……。
「なんど。助けてもらったか分からない。先輩は覚えていないと思う。僕が学生の頃にいじめられた時も先輩が助けてくれた。それでも僕は覚えている」
……Yes。
「先輩にとって僕の助けなんかいらないかもしれない。僕がいなくてもなんとかすると思う。でも……でももし、先輩が助けを呼んでいたら? 今度は僕が助ける番です!」
『適切な個体を確認しました。SDSの制限を一部解除し、***のアクセスを許可します』
「待っていてくださいね。桜庭先輩……!」
―――
<ライアス視点>
コンコンコンっ
「失礼します」
扉が開いて顔を出したのはサクラ・トレイル。俺以外に日本の記憶を持つ可能性がある存在だ。……俺のことを見て「ライアス……」って呟いてるし姿を隠してるレオンを探しているなから日本の記憶。それもSDSの記憶を持っているみたいだ。……レオン達神霊が契約者以外の前に姿を現さないのはSDSの知識を持ってるなら知ってるだろうが。そもそも、突然学園長室に呼び出されたはずなのにマイペース過ぎるだろう。普通もっとびくびくしないか? ……日本で学園長レベルの人に呼び出されるのに慣れるほどの問題児じゃないだろうな?
いろいろと突っ込みたいところはある。やばい奴かもしれないとも思う。それでもなぜか、
―――
俺の名前はライアス・アルパイン。今日七龍学園に入学する生徒の一人で神霊レオンの契約者だ。洗礼式の時に日本の記憶を断片的に思い出した俺は他にも日本の記憶を持つ物がいると思ってレオンに協力を仰ぎ、心当たりを探ってもらった。
結果としては、残念ながら全員日本の記憶を持っていないみたいだった。今後日本の記憶を思い出す可能性もあるが、生まれたとき、物心ついたとき、洗礼式といった記憶を思い出す可能性の高い瞬間はもう過ぎているため、死にかけるとかの大きなショックを受けない限りほぼないとみていいだろう。
今まで関りが無かったせいで今日まで調べられなかった日本の記憶を持つかもしれない最後の一人。サクラ・トレイルを今日の入学式で見かけた。
SDSのストーリー上でも疑問に思っていたが魔法の適正がないのにどうやって魔法科に入学したのだろうか。不正をしたとか? ……無理だな。そんなことをしたら絶対にばれるはずだ。なんてことを思いつつレオンにあれがサクラだと遠目に説明した。ちらっと聞こえた会話にレオンも引いていたが俺もここであのセリフのチョイスはないと思う。いや、気持ちは分かるが実際に言ったりしないだろう。
入学式が終わって寮に戻ろうとしたときにブルーム国の王太子であるシルビアが話しかけてきた。どうやら学園長が呼んでいるそうだ。シルビアについていき学園長室に行く。
中に入ると先ほど花火で形作られていた学園長がそこにいた。SDSでは生徒会にはいると小遣い稼ぎ用の依頼を出してくれる人で、報酬は安いが簡単に稼げるような依頼をメインで提示してくれていた。
「やっと来たな。後一人来るからそれまで適当に座って待つのじゃ」
まさかのじゃロリだとは……。入学式の威厳は何処に行った……。衝撃的な事実に驚いている俺をよそに学園長はニコニコしながら俺たちを、正確にはレオンとジークがいる方を見た。
「お二方ともお久しぶりでございます。今回の契約者は気に入っておりますかな?」
「おう、面白いやつで気に入ってる」
「うん、頭がいいし欲しいものをくれるからお気に入りなんだよ」
レオンとジークが猫型に顕現して答える。人前ではなかなか顕現しないのに珍しい。というか学園長は普通のしゃべり方できるんだな……。いや、入学式でも普通のしゃべり方をしていたか。
「今回の呼び出しは俺たちに用があったんだろう? なんの用だ?」
「
例の候補ってなんだ? エルフで魔力が豊富だと言われるとサクラが当てはまりそうだな? 天の適正は聞いたこともないが……。
「うん、見極めろということなんだね? 分かったんだよ」
「あぁ、あいつか……。気乗りしないがちゃんと見てやる」
「あら、レオン様はすでに面識がありましたか。お手数おかけしますがよろしくお願いしますね」
SDSとこの世界でサクラが魔法科に入ることができた理由がこれなのか。サクラじゃなくて学園長側の事情ね……。もしかしたらサクラに日本の記憶が入ることでなにかしらの化学反応が起きてチートがあるのかと期待していたが望み薄かな?
コンコンコンッ
ノックの音が聞こえて学園長が許可を出すと予想通りサクラが来た。扉を開けた彼女はこちらを見て「ライアス?」と呟いた後辺りをきょろきょろ見渡した。
「こほん。初めましてじゃな。とりあえず座るのじゃ」
「へ……? あ、はい。失礼するのじゃ……」
学園長にすすめられてサクラが空いている椅子に座る。一瞬ポカーンとしていたな……。いや、語尾移ってるぞ。笑いかけただろうが。
「さて、全員そろったことだし簡単な自己紹介をしようかの。わしはリリー・シナリー。エルフとドワーフのハーフなのじゃ。こんななりだけど結構な年寄りだから労るのじゃよ?」
もちろん知っている。SDSでもかなりお世話に……ならなかったがゲームが苦手な人はお世話になった人も多いだろう。ちなみに年寄りと言っても現役時代からほぼ衰えていないため、労わる必要がないことも知っている。
「ふむ? 微妙そうな顔をしてる人が二人もいて失礼じゃな。とりあえず王子様から自己紹介するのじゃ」
「先の答辞でも述べたましたがシルビア・フォン・コモン・ブルーム。この国の王太子です。よろしくお願いしますね」
「次は俺だな。ライアス・アルパイン。しがない獣人だ。よろしく頼む」
「最後は私が、サクラ・トレイルです。ハーフエルフです。よろしくお願いします」
自己紹介が終わり俺たちを呼び出した表向きの目的が説明される。
「今日の入学式のときにも言ったのじゃが、君たち三人が特に優秀な生徒たちなのじゃ。そこで授業が開始して一週間後に上級生との親善試合を行うのじゃ!」
「なぜ、この三人なのでしょうか。シルビア様は王子ですしライアス君は神霊との契約者なので分かりますが、私は適正が無ですし選ばれる理由はありませんよね?」
その質問はもっともだよな。あくまで表向きというか真の目的を隠すための目的だから多少の違和感があってもしかたないけどな。……ん?
「なんでライアスちゃんが神霊と契約してるのを知ってるのじゃ……」
「あ! いや、それは……」
「はぁ、俺から入学式で少し話しました。レオンの気配に感づいていたみたいなので
「はい! そうなんです!」
こいつ、うっかり発言が多いタイプか? 一応言葉に含ませた意味は感じ取る程度の頭の良さはあるみたいだけど……。早めに話をして致命的なうっかり発言をする前に釘を刺さないと。学園長はいぶかしんでるが突っ込みはしてこなさそうだ。
「まあいいのじゃ。サクラちゃんを選んだ理由はローズがよく自慢してきていたからじゃな。おかげである程度の実力も知っておるのじゃ。それと冒険者ギルド登録時のランク付け試験でSランクを叩き出したとライラから聞いているのじゃ。それだけでも資格は十分あるのじゃ」
は……? Sランク冒険者ってSDSでも突き詰めないとなれないランクだが? 最序盤でなっていいランクじゃないんだが? 隣を見るとシルビアも驚いているみたいだ。
「あー、ばれてたんですね。分かりました。お二人が良ければ私もお受けしましょう」
そんな空気に気付くことなく話を進めるサクラ。マイペースな奴だ。
「良かったのじゃ。話はそれだけだからサクラちゃんは戻っていいのじゃ。帰り道は気を付けるのじゃ」
「はい。では失礼いたします」
サクラは挨拶を済ませてさっさと出ていった。
「ローズから聞いていたけど変な子なのじゃ。それで二人はどうするのじゃ?」
「ええ、もちろんかまいませんよ」
「俺も問題ない。でもいいのか? このメンツだと上級生相手でも圧勝することになりそうだが」
最初はサクラが足を引っ張っていい感じになると思ってたけど序盤でSランクとれるほどチート性能になってるならサクラ一人でも圧勝しそうだ。
「問題ないのじゃ。上級生も優秀だからなめてると痛い目をみるのじゃ。それで彼女はいかがでしたでしょうか?」
「そうだな。見込みはある。あいつも気に入りそうだ。……二人揃うと周りの人間が大変だろうが……」
「問題ないと思うんだよ? とりあえず二人を合わせてみればいいと思うんだよ」
「そうですか。では準備ができ次第彼女にお願いをしてみます」
それにしても例の候補か……。いったい何なんだろうな。後でレオンに聞いてみるか。
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