第27話 入学式
ランク付け試験の結果。私はSランク冒険者に認定された。ちなみにスティムはBランク、カトレアはCランクだった。
私の試験は案の定二人のものと一線を画していた。込められた魔力の量も、壁の分厚さも……。どちらも十倍以上だったため、単純な計算でも百倍堅い壁を壊す必要があったのだ。しかもご丁寧に冷気に強い素材で作られていた。ルアードさんからオークを殲滅した時のことを聞いたのだろう。
気になっていた妨害は壁から壁と同じ材質の棘が四方から襲ってくるものだった。同時に数十本の棘が襲い掛かってきて、躱すのが大変だった。……カトレアちゃんに聞いたら多くても三本くらいしか同時には襲ってこなかったらしいけど……。
結局天の適正で魔法の制御を一部強奪して無理やり穴をあけた。というか四方すべての壁を無くしてやった。
ライラさんと黒フードの男は口と目を大きく開けて呆然としていて、カトレアちゃんとスティム、ウィードさんの三人は頭を抱えていたけどどうしたのだろうか?
史上初のSランク冒険者としての登録に冒険者ギルドがお祭り騒ぎになったりいろんなパーティーに誘われつつもすべて断ったり、ルアードさんに結果を報告して特殊な試験について文句を言ったら逆にやりすぎだと怒られたりしつつ数日を過ごした。
カトレアちゃんはCランク、スティムはBランクだったが私とウィードさんの関係者ということで入寮解禁日までギルドの宿舎を使わせてもらった。
そして入寮解禁日が来るとレイラさんにお礼をいい寮に拠点を移動した。解禁日初日なだけあって今日入寮するのは私達以外に二人しかいないらしい。人数も少なかったため歓迎会とかは無かったが、優しそうな寮母さんが迎え入れてくれた。
寮は二人部屋で、私はもちろんカトレアちゃんと同室になった。荷物の整理はアイテムボックスから出したい場所に出すだけなのでこれといった苦労もなく快適な寮生活が始まった。
その日、部屋でゆっくり休みたいと言っていたカトレアちゃんを部屋に残し、一人で寮の探検をしていると同級生らしき鹿の獣人と小さなドワーフに遭遇した。
「初めまして。今日入寮したサクラと言います。二人は新入生ですか?」
「せやで! うちはミーヤゆうんや。よろしゅうな」
「チコはチコだよ! よろしくね!」
関西弁の鹿の獣人がミーヤ。小さな元気っ子ドワーフがチコというのか。
「二人はどこの学科に入学するの? 私は魔法科と魔道具科なんだけど」
「おー魔法科はすごいやないか。国内一の子の学園の中でも特に入るのきついんやろ? 拝んとこ」
「チコ達は魔道具科と商学科だよ! えへへ。魔道具科は一緒だね!」
ミーヤちゃんが拝みつつちらちらとこっちを見る。よし。無視しよう。チコちゃんの方をみて尋ねる。
「二人は幼馴染とか? 一緒に受験したの?」
「そうだよ! 集落が近かったからよく一緒に遊んでたの! あと、チコのことはチコでいいよ!」
チコの動きを見てると小さい子が背伸びしてるようでほっこりするな。
「サクラはーん。うちのことを無視せんといてや。うちもミーヤでええからなー」
「まだいたんだね。鹿せんべいでもお食べ」
「おぉ。めっちゃうまそうやん。って鹿ちゃうわ。どついたろか?」
鹿獣人と鹿は別物なのか……。そういえばカトレアちゃんも狐なのにチョコやネギも食べてるし。お稲荷さん食べてもおなか壊してなかったな。
「じゃあカトレア……私の相方を待たせてるしもう部屋に戻るね」
「じゃーねー!」
「って振るだけ振っておいて無視するんかーい! ほなまたー!」
手を振って分かれる。それにしてもミーヤちゃんは一人でずっとにぎやかだったな……。部屋に戻ってカトレアちゃんに今の出来事を報告するとミーヤちゃんは私にそっくりって言われた。……私そんなににぎやかじゃないよ?
次の日からはしばらく冒険者としての活動に精を出した。カトレアちゃんと一緒に依頼を受けるたりSDSやったことがある依頼を一人で受けて聖地巡礼のような気分を味わったりして過ごした。
寮でたまたまミーヤに会った時に今王都ではガチャが熱いって熱のこもった演説をされたからルアード商会に顔を出す。
思った以上に集まっている客を引き気味に眺めているといつかの店員さんに呼ばれて会長室へ連れていかれた。そのままルアードさんに挨拶したら髪をくしゃくしゃにしながら感謝された。
スロットはやらないのか聞いたら、運のステータスが高い人だけが来て大当たりをかっさらっていかれる可能性が高く利益が見込めなかったらしい。胴元が儲かるように確率を調整する方法を教えると少し悩み始めたけど結局は豪運に勝てないと言っていた。運のステータス。おそるべし……。
ガチャもあたりの商品が先にとられるのでは? と思ったけど、お金をかけるスロットとかと違って人によって価値が変わるから問題ないらしい。
こうしてのんびりと過ごし二週間が経過し、入学式の日になった。
―――
「人が多いね。この学園って入学するの難しいんじゃなかったっけ?」
「そうね。でもアースフィア中の人が集まってくるから仕方ないわよ」
「んー、もっと学園の数を増やせば人数が分散するんじゃない?」
「私に言われても……。同学年に殿下がいるみたいだし提案してみれば?」
入学式に参加している私たちだがとにかく人が多い。ライアスと接触してみたかったけどこのままじゃ難しそうだ。待つ時間暇だな。そうだ!
「カトレア見てみて。人がゴミのようだ! あたっ」
「やめなさい。他人の振りしてもいいのかしら?」
「ごめんなさい。どうしてもやってみたくて」
「私はあなたの奇行に慣れてるからいいけど他の人が驚くから二度とやらないで」
少しふざけただけなのに怒られてしまった。でも気持ち周りの人が離れたのでスペースが確保できたし結果オーライかな。
「ちょっと空いたね! った!」
「サクラの発言にみんなドン引きなだけよ。なにも良くないわ」
カトレアちゃん酷い! 二回も叩いた! 意地悪するカトレアちゃんはモフらないと! カトレアちゃんに躱されつつもモフろうとしてると、視界に気になる金髪が見えた。
「ん?」
あれはライアスだろうか? 顔を見たかったが既に離れていて確認できない。
「サクラ、どうしたの? 気になる人でもいた?」
「いや、何でもないよ。それよりももうすぐ始まるみたいだから静かにしよう」
入学式の開始時刻になるとともに花火があがる。魔法を使った派手な演出だ。おしゃべりをしていた入学生たちも花火に注目し始めた。花火がいくつか集まり女性の形を作る。おそらく学園長の姿だろう。花火が形作った学園長がそのまま話し始める。
「諸君。厳しい試験を突破してよく入学してくれた。だが諸君らの人生の目標は入学することではない。卒業後いかに世界に貢献するか、自身に誇れる己になるか、はたまた生きていくための力を手にするか。目標は人それぞれだと思うがこの学園が諸君らの一助になればよいと思っている。まだ目標を持てていないものもいるだろう。そんな者達はまずこの学園の中でやりやいこと。やるべきことを探してみて欲しい。そうして経験したことの延長線上に人生の目標が見つかる者もいるだろう。もし見つからなくても学園で得た経験は決して無駄にはならないはずだ。例年、優秀な生徒が来てくれるが今年は特に素晴らしい生徒が三人も入学してくれたみたいだ。切磋琢磨してよい学園生活を送ってくれ。では幸運を祈る」
少し長めの話が終わって花火が散る。最後こっちの方を見ていた気がするがあれだろうか、舞台のどこから見ても自分を見てると思わせる視線の向けかた。なんて言ったかな?
「ねえねえカトレア、学園長は最後周辺視っていうの? 全員に目を合わせるやつやってた?」
「いや、思いっきりサクラを見てたわよ。さっきの発言で目を付けられたんじゃないかしら?」
「あはは……。あまり笑えないね」
勘違いでした。がっつり見られてたみたいです。あ! 見てたのって優秀な三人の生徒に私が入っているからかな? ……レイラさんかライラさんが私がSランク冒険者だと話したのかもしれないよね。
続いて新入生代表の答辞だ。新入生代表はシルビアだ。SDSのブレイン担当だけあって入学試験のトップも殿下らしい。彼はブルーム王国の王太子でSDSでは神霊のジークと契約していた。七周目の世界線では魔族に戦争を仕掛けられた時の備えとして防衛軍の大将を任せられていたため主人公パーティーに参加していなかった。防御が紙なのに防衛軍の大将なんて任せていいのか疑問に思うプレイヤーも多かったと思う。
「初めまして。新入生代表のシルビア・フォン・コモン・ブルームです。この学園では全員平等を掲げています。平民の方には難しいかもしれませんが積極的に話しかけてください。この学園でできるつながりはきっとあなた達の力になります。貴族の方も相手が平民だからと見下すことはせず、対等な存在だと理解してください。私を含め、貴族の人達は親が素晴らしいだけで私達子供が何かを成してきたわけではありません。家格ではなくあなた個人の武器。自慢できることを得て成長し、卒業できるようにしてくださいね。そしてこの学園に入れるほど優秀なあなた方と切磋琢磨できる機会を得られたことに感謝を。七つの科に分かれていますが手を取り合い、共に成長していきましょう。異なる分野の人の知識はあなたにとっての宝になるでしょう。最後に一つ、懸念事項があります。皆さんも知ってる人も多いと思いますがここ最近、魔物が活性化しています。王都の外に出る時は十分に注意してください」
魔物の活性化……。魔王の復活を意識して思わず手に力が入る。今日はこれで入学式は終わりで明日から授業が始まる。新入生たちが少しずつはけて寮に戻っていく。流れに合わせて、私たちもおしゃべりをしつつ寮に戻った。
―――
寮についたら寮母さんに声をかけられた。
「サクラさん。学園長がお呼びですよ」
「学園長が?」
「サクラなにやったのよ。初日から呼び出しなんて」
「なにもしてないよ!? さっき見られてたのと関係ありそうだね。とりあえず行ってくる」
「ええ、行ってらっしゃい」
急いで学園長室まで来た私は呼吸を整えてからノックをする。
コンコンコンッ
「失礼します」
扉を開けると先ほど見たばかりの学園長と殿下。そしてSDS一周目の主人公ライアス・アルパインがこちらを見ていた。
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