第26話 ランク付け試験

 冒険者ギルドの宿舎に泊まった次の日の朝。ロビーでご飯を食べているとレイラさんが来た。……? レイラさんそっくりだけどなんとなく違う気がする。首をかしげてるとレイラ? さん? が話しかけてきた。


「おはようございます。今日はランク付け試験ですね。自信のほどは?」


 近付いたことで確信に変わった。魔力の質がレイラさんと違う。少し警戒しつつ質問をする。


「あなたは誰ですか?」


 するとレイラ? さんが一瞬きょとんとした後、笑い出す。


「はっはっはっ。レイラが気に入るわけだ。私達の見分けがつくなんてな。あたしはライラ。レイラの双子の姉だよ」


 なるほど。双子だったか。ウェーブのかかった髪を一纏めにしたライラさんが私の前に座る。


「前の席を失礼するよ。どうだ? ここの飯はうまいだろ」

「ええ。栄養バランスもいいし。質も高いですね。狩り立ての魔物のお肉でも使ってるからですかね?」


 朝からステーキやらとんかつやらボリューミーな物が多いが周りは冒険者たち。朝からたっぷりと食べている。かくいう私も今食べてるのはオーク肉の生姜焼きだけど……。前にオークの群れを殲滅してから食べたかったところにちょうどメニューがあってつい手を出してしまったのだ。


「そんなに食って大丈夫なのか? 試験をなめてかかると痛い目を見るぞ?」


 ライラさんが警告してくれる。こういってはなんだけどエニシャさんたちでBランクならAランクは固いと思うんだよな。


「その表情。自信ありなのかとぼけてるのか分からないな……」

「初めまして。ライラさん。サクラのこの表情は何も考えてないだけですよ」


 そう言いつつ私の横にご飯を持ってきたカトレアちゃんが座る。カトレアちゃんの朝ごはんはお稲荷さんみたいだ。

 ほっこりしつつも思う。なにも考えてないわけじゃないんだけど……。


「そうか……。それより、よくあたしがレイラじゃないって気付いたな」

「声が大きくて聞こえてきたので」

「そっかそっか。起こしちまって悪いな」


 あっはっはと笑うライラさん。双子なのにレイラさんとは正反対の人だな。


「ライラさんは昨日見ませんでしたが何の役職をしてるんですか?」


 私の質問に目を細めるライラさん。


「当ててみな。当たればご褒美にランク付け試験を甘く見てやるぞ?」


 ん? これってもしや……。


「もう試験が始まってるのかな?」


 私の呟きを聞き取ったライラさんが面白そうに私を見る。


「どうしてそう思った?」

「えっと。今思いついたというか、そうなのかな? って思って呟いただけだったんですけど……。今のライラさんの反応で確信が取れました。最初のヒントは昨日のレイラさんの態度ですね」


 一介の受付嬢が私達のような子供をAランク以上の冒険者しか泊まれない宿舎に入らせる判断はできないだろう。暇な時にだけ受付嬢をしてるって言っていたのも本来は別の業務・・・・があるってことだ。


「ほう。続けて?」

「次のヒントはライラさんのご褒美の発言です。こちらもただの職員が言い出せるような内容じゃない。そして昨日受付でライラさんを見なかった」

「それで?」


 面白い物を見る目で私をみるライラさん。ここまで自由にできる役職は数が少ないだろう。おそらく……。


「ライラさんがギルドマスター。レイラさんがサブマスターといったところでしょうか。他にも候補はありますがここら辺が妥当かと思います」

「なるほどなるほど。面白いね。でもそれはご褒美をあげるための質問であって本命の質問には答えてないよね? それとも私の質問は無視でご褒美が欲しいのかい?」


 ライラさんの質問はなんでランク付け試験が始まってると思ったのか。だったね。


「いえいえ、上位ランクの冒険者は実力だけじゃなくて人柄や性格も見ると聞いています。今回のライラさんのご褒美は飛びつくと落とされる罠だと思ったんですよ。罠が張られるってことはすでに試験が始まってると思って気を引き締めたほうが良いでしょう?」

「ふむ。一見筋は通ってるね。だけど二つ破綻してる場所がある。一つ、結果的にはレイラが受付をしていたからその仮説は通るけど、常時いるわけではないこと。二つ、あたし達はあんたたちと会ったことがないんだ。どうしてあたし達はあんたらが冒険者になると分かったんだい?」


 それは恐らく……。


「ルアードさんがグルなんでしょう。それだけで二つとも解決します」

「グル?」

「ええ、ルアードさんは私達が冒険者に登録をしようとしてることを知っていますから。私達が商会を出てここに来るまでに連絡したんでしょう。エニシャさん達は目印です。私達の顔を知らないレイラさんが私達を担当できるようにエニシャさん達を付けたんだと思います」

「ってことはあれかい。毎度毎度あたし達は推薦制度が使われるたびにそんなくそめんどいことをするってのかい? そんなに暇人じゃないんだけどね」


 そりゃそうだ。ギルマスもサブマスも忙しいから推薦制度の利用者が出ただけでここまで手の込んだことはしないだろう。


「単に推薦制度が使われるだけではないですね。おそらく高ランク冒険者のみ。AかSランクの推薦者に対してのみ行う試験でしょう。そもそもこの宿舎はAランク以上の冒険者しか使えない。人柄や性格が重要視されるのもAランク以上。Bランク以下ならここまで手の込んだする必要性がないですから」

「ふむふむ。素晴らしいね。でもすべて仮説だ。証拠まではいかずとも根拠が欲しいかな」


 これは認めたってことでいいかな? これが答えられればひとまずの試験は突破かな。


「根拠ならレイラさんの反応ですよ。最初から私達が推薦状を持ってるのを知ってるかの言動をしていたし、ルアードさんの推薦状を見ても驚かなかったのが根拠です」

「ルアードの推薦状が驚かないのが不自然なのかい?」


 一見違和感ないけど、あの発言が正しいとしたら? 


「エニシャさんが言ってたんですよ。ルアードさんは二度と推薦状を書かないって宣言していたって。もちろんギルドでも宣言していたらしいですし、ギルマスサブマスの二人が知らないわけないですよね?」


 確認するようにニッコリ笑うと。ライラさんが笑い始めた。


「素晴らしい。ルアードからサクラは頭が切れるって聞いていたけどここまでとは思わなかった。試験は甘い罠に引っかかるかの確認だけだったんだけどね。思わず楽しんじまったよ。期待してるよ。頑張ってな」


 そう言ってライラさんは席を立った。……途中から試験関係なかったのかい! ! 


 気を取り直して私とカトレアちゃんと途中で合流したスティムの三人で受付に行く。今日もレイラさんが担当みたいだ。


「おはようございます。お姉ちゃんから聞きましたよ? サクラさんはとても頭がいいそうですね」

「ありがとうございます。今日はランク付け試験をお願いします」


 さて、試験本番だ! 


 ―――


 ギルドの裏にある訓練場に全員で移動するとそこには一人の長身の男が立っていた。黒いフードをかぶっていてなんだか黒魔術でも使いそうな人だ。


「今から金属製の壁を用意する。方法はなんでもかまわないがチャンスは一度きり。壊せなかった時点で試験は終了だ。壊せたら次の壁を用意する。なお、こちらで無理だと判断した場合も失格として試験を終了する」


 黒フードの男が説明をする。少ないけどここからいろんなパターンを想定して対処しろってことか。壊せなくても失格じゃないのがミソだな。つまりなんらかの妨害があるってことだ。そもそもランク付け試験なのに瞬間火力だけ見ても意味ないよね。


「誰からやる?」

「私がやります」

「待て、サクラは最後にしなさい。どうせどんな試験か予測がついてるんだろう?」


 私から始めようと思ったらライラさんに止められた。カトレアちゃんがどういうことよ? って目で訴えてくるけど私は首を横に振るしかできない。それだけでカトレアちゃんには伝わったようだ。


「じゃ、私が最初にやるわ」

「よかろう。中央へ」


 カトレアちゃんが黒フードの指示に従って中央に行くと金属の壁がカトレアちゃんの四方を覆った。


「きゃっ!」


 一瞬だけカトレアちゃんの驚いた声が聞こえたけど無事に壁を壊して出てきた。その後も何度か同じことを繰り返し、五回目の壁を壊せずに試験が終了した。


「カトレアおかえり」

「ただいま。心構えが無ければ危なかったわ。……ありがとう」


 最後の一言はライラさんに聞かれないように小さな声だ。私の考えは無事に伝わっていたようだ。

 次にスティムも同じ試験をしていたが六回目で試験が終了した。


 私の番になるとライラさんが黒フードの男に耳打ちをした。こちらを見ていたずらっ子のように笑う。……これは嫌な予感がするな? 

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