第25話 冒険者ギルド

 会長室までどなどなされた私たちはふかふかのソファに座った。


「それで、俺の店に足りない“あれ”ってなんだ?」


 座ってすぐ、待ちきれないというようにルアードさんが聞いてくる。


「いいですか、“あれ”とは、“ガチャ”のことです!」

「ガチャ?」


 そう、昨今のソシャゲで大人気のガチャである。いいアイテム、狙ったアイテムがでるかどうかの緊張感。出たときの嬉しさから逆に出なかった時の悲しさまで、いろんな人を虜にしてきた悪魔の商品だ。SDSではこのお店でガチャを回せたのだ。


「ええ、お金を支払うとランダムでいいアイテムが出てくるもの。それがガチャです!」

「……」


 ババーンと宣言する。が、感触が良くない。おかしい、一度でもやれば病みつきになるはずなのだが……。


「いや、それじゃわからんから説明してくれ」

「あ、はい」


 ガチャについてルアードさんに説明をした。ついでにスロットのような賭け事も合わせて教えてしまった……。子供にも遊べるゲームが大人のゲームになってしまう……。


「いいな。その商品うちで扱っていいのか?」

「もちろんですよ? これでも専門アドバイザー(になる予定)ですし」

「そうだったな。よし、さっそく冒険者ギルドへの推薦状を書いてくる。お前たち、この嬢ちゃんから耳よりの情報を貰った。礼に好きな商品を一つずつ渡すから相手してやってくれ」


 ルアードさんが紙を取り出して推薦状を書いてる間に店員さんがきてなんの商品が欲しいか聞いてきた。

 私が選んだのは石。ぱっと見変哲もない綺麗なだけの石だけど一定量の魔力を込めることで一度だけ所有者の身代わりになってくれる特殊な石だ。名前はサンディアだけどこの店には綺麗な石として置かれているみたいだ。

 サンディアを選んだ時に店員さんには変な目で見られたがしかたない。そもそも魔力を込めなければただの綺麗な石だしね。

 サンディアを受け取った私は魔力を流す。この石の便利なところは貯める魔力は誰の魔力でも良く、最後に魔力を流した人が所有者になるところだ。SDSでも六周目までの間は周の最後の方に余った魔力をこの石に貯めて次の周への持ち込ませることで序盤を楽に攻略する人が多かった。七周目だけは持ち越しができなかったせいで使えなかったけどね。


 一定量の魔力が貯まるとサンディアに模様が浮かぶ。推薦状を書き終えたルアードさんと店員が息をのむ。私はそのままカトレアちゃんにサンディアを渡す。


「これに魔力を流して?」

「なんなのよこの石。変な模様が浮かんでるんだけど?」

「お守り。カトレアに持っていて欲しいんだ」


 しばらく見つめあった私達だったがカトレアちゃんはしっかりと受け取って魔力を流してくれた。これで魔王が出てもカトレアちゃんは安全になるだろう。


 ルアードさんの視線はガン無視してただのお守りとして話を通した。


「ちっ。気になることが多すぎるな。まあいい。これが推薦状だ。悪用するなよ?」

「ありがとう。もちろんだよ」


 推薦状を受け取り、目的を達成した私たちはルアードさんの店を出た。


「ウィードさん。冒険者ギルドまで案内して?」

「嬢ちゃんさっきは場所知ってたじゃねえか」

「さっきは適当に言っただけだから。早くしないと遅くなっちゃうし行こう」

「サクラさん。あっしらも依頼達成の報告に行くっすから一緒に行くっすよ」


 さっきのうっかり発言が尾を引いてるがなんとか誤魔化しエニシャさん達と冒険者ギルドに向かう。テンプレ通りなら入った瞬間にかませキャラに絡まれるかもしれない。華麗に躱すかカッコよく成敗するか悩ましい。


「何を期待してるのかまでは分からないけどサクラの思ってることは起きないと思うわよ?」

「どうしたっすか?」

「サクラがろくでもないこと考えていそうだと思ってね」


 またもやカトレアに心を読まれてた気がする……。そんなことよりもどう撃退するか考えなくては。


「それにしてもルアードの旦那が推薦状を書くなんて明日は槍でも降るっすかね?」

「そんなに珍しいんですか?」

「そっすね。あっしらだけでこりごりだって。もう二度と推薦状は書かないって宣言してたっすから。それも冒険者ギルドに向かって、ひどいっすよね!」


 それは……、ルアードさんに悪いことをしちゃったかな? それにしてもエニシャさんたちは何をやらかしたんだろう……。


 ―――


 ちりんちりーん。


 冒険者ギルドのドアを開けると鈴の音が鳴る。中にいた冒険者たちが一瞬こちらを見るが直ぐに元の体勢に戻り歓談を再開する。


「あれ?」

「どうかしたっすか? 立ち止まってないで受付に行くっすよ?」

「う、うん。そうだね」


 誰に絡まれることもなく受付に到着する。何人か受付嬢がいるがみんな美人さんだ。そこは異世界のお決まりらしい。こちらを手招きしているウェーブのかかった髪の長い受付嬢の列に並ぶ。


「エニシャさんおかえりなさい。そっちの可愛い子たちは?」

「ただいまっす。ルアードさんを無事に商会まで届けたんで依頼達成の報告に来たっす。これが依頼完了の証明書っす。それでこの子たちはサクラさんにカトレアさんにスティムさまっすよ! 強面のおっちゃんはウィードさんっす。誘拐犯とかじゃないっすよ」

「親切な紹介ありがとな」

「いえいえ、なんてことないっすよ!」


 どうやらウィードさんの皮肉が全く通じてなかったようだ。


「ウィードさんはいろいろな意味で・・・・・・・・有名ですからね。私も存じてますよ」

「どんな意味か怖いな。あいつらの巻き込みだろうが」


 あいつら? ウィードさんが有名なのは単に凶悪顔だからだと思うんだけどな。


 気を取り直して簡単な自己紹介をした。この受付嬢の名前はレイラ・ミルクリープというらしい。ふわふわな雰囲気のする美人さんだ。レイラさんは暇な時だけ受付嬢をやっているとか。それでいいのかな? 


「ふふ、私はいいんですよ」


 ニッコリと笑うレイラさんに強権を持っていると悟り顔が引きつる。他の職員さんはご愁傷様です……。


「レイラさん。冒険者登録をしたいんですがいいですか?」

「もちろんですよ。推薦者や推薦状を出してください」

「はい。これが推薦状です」

「はい。確認しました。ありがとうございます」


 淡々と処理するレイラさんに少し違和感を持つ。なんだろうか? 


「はいはい、あっしも推薦者にはいるっす」

「俺もだ。Sランク冒険者としてこいつらの実力を保証しよう」


 エニシャさんとウィードさんが推薦者に名乗りを上げた。

 推薦者と推薦状は似ているけど違う制度だ。推薦状は後ろ盾になる代わりに優遇することを求める物で貴族や商会が出すことが多い。

 一方で推薦者は後ろ盾になるわけではなく、この人の実力を保証しますよ。というだけのもので現役の冒険者がなることが多い。今回の場合、私がギルドで活躍すればエニシャさんとウィードさんの評価も同時に上がり、私が問題を起こせば二人の評価が下がることになる。私のメリットとしてはすでにギルドから評価を得ている人材が信頼していることの証明になるため、ギルドに信頼されやすくなるといったものがある。


 ちなみにSDSでも推薦制度があり、特定の住人からの依頼が発生しやすくなったり、推薦者がいないと発生しないイベントがあったりもした。そのことを覚えていた私は交渉のときにルアードさんに推薦状を貰っていたのだ。


「大店商会長のルアードさんからの推薦状に加えてBランク冒険者のエニシャさんとSランク冒険者のウィードさんからの推薦ですか……。これはサクラさんたちへの期待が高まりますね!」

「任せてください! ……と言いたいところですが、七龍学園に入学するので休日しか依頼を受けられないんです」

「ふふ、そういった方も多いので問題ないですよ。ランク付けの試験は今から受けますか?」


 ランク付け試験……。冒険者ギルドでは冒険者の死亡率を下げるためにSからGまでランク付けするランク制度を導入している。魔物の強さもランク付けされており、自分に合った強さの魔物と戦えるようになっている。魔物は獲物を食べた数で強さが変動するためあくまで目安だけどね……。また、高ランクには性格なども加味されてるため、昇格が大変なのだ。人の集まる王都でもSランク冒険者の数は片手にも満たないと聞いたことがある。また、Aランク以上じゃないと受けられない依頼や、行けない場所もあるためひとまずはAランク以上を目指したいところだ。


「今日は遅いからまた明日にします。そうだ、おすすめの宿屋さんはどこですか?」


 宿のことを忘れていたけどこういうことは現地の人に聞くのが一番だよね? 


「うーん。この時間となるとどこの宿も満室になっていそうですね。……分かりました。特別に冒険者ギルドの宿舎を使う許可を出しましょう」

「え? うらやましいっす! あっしらもいいっすか?」

「僕も泊まりたい」

「ん」


 とつぜんエニシャさんたちが騒ぎ始めた。聞くと。冒険者ギルドの宿舎はとても豪華でAランク以上の冒険者じゃないと泊まれないらしい。


「いいんですか?」

「私が良いって言えばいいんです。ただ、エニシャさんたちは普段使ってる宿に行ってくださいね」


 ニッコリと笑うレイラさんにエニシャさんたちはあっさりと引き下がった。レイラさんはかなり怖いらしい……。


 もう遅い時間になっていたため私達はそのまま宿舎に案内されてゆっくりと過ごすことにした。

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