第24話 王都観光

 王都に着いた私たちは特に止められることもなく門を通過した。

 景色を見るとなるほど。中世ヨーロッパの街並みに近世の最先端技術が同居したようなちぐはぐな雰囲気を感じる。


「おぉー。ここが王都か!」

「ちょっと、きょろきょろしてるとお上りさんみたいで笑われるわよ」


 私がSDSの舞台裏がこんな場所なのかと見渡しているとカトレアちゃんが耳打ちをしてきた。でも……。


「そういうカトレアもそわそわが隠せてないよ」

「そ、そんなわけないじゃない……」

「語尾が弱くなってるよ?」


 澄ました顔をしつつも尻尾が揺れて興味津々といった感情が隠せていないカトレアちゃんに苦笑しつつ道を進んでいく。

 ここの大通りはあのイベントの背景になっていたな。とかあそこの路地裏はこんなイベントの背景になっていたな。とか聖地巡りをしてる気分になりつつ思う。王都ペタンの街並みは世界観が大事だけど便利さは捨てられないといったSDS製作者の考えが出ているんじゃないかと。

 現実になった今では運営よくやった! って褒めたい気分だ。あ! 


「たしか、あっちに冒険者ギルドがあって、向こうに露店のでてる通りがあったよね!」

「いや、なんで始めて王都にきたサクラが知ってんだよ」

「え、えっと、なんかそんな気がしただけだよ。あはは……」

「サクラだからね」


 SDSの中で見ていた地図と今いる場所のイメージが重なって思わず声に出してしまった。突っ込まれて何とか誤魔化す。……誤魔化せたよね? 


 それにしても見た感じ冒険者がやたらと多い。やはり魔物が活性化してて魔物の数を減らすために来てるのかな? 


「先にうちの商会にくるか? それとも観光が良いか? それか学園でも見ていくか?」

「要所の場所は分かるからルアードさんおすすめの穴場教えてほしいかな」


 魔物に気を取られた私は上の空でルアードさんの問いに答えた。


「……」

「……」

「……」

「……。あ、いや、スティムは何度も王都来てて要所は分かるだろうからってことだよ」

「……」


 みんなの視線が痛い。最近うっかり発言が多くなった気もするし気を付けないと。


「と、とりあえず露店で何か買って食べよう」

「ごまかしたな」

「ごまかしたわね」

「う、うるさい。おなか減ったでしょ。行くよ」


 カトレアちゃんの背中を押して露店の出てる通りに進む。


 露店で肉串を買って近くのベンチに座る。たれのいい匂いに熱々のお肉が美味しそうだ。そういえば王都で出てる肉はウルフやオークあたりもので牛や豚といったお肉が出てこなかったな? 


「家畜? 魔物を狩れば肉が手に入るのに何で食用の肉を育てなきゃいけないんだ?」


 ルアードさんに聞いたらもっともな答えが返ってきた。わざわざ手間暇かけてまずい肉を育てるなら外で狩ってきたお肉を大量に買うとのこと。

 おなかを満たした私たちは再度移動を始めた。露店の通りを通り抜け、商店が並ぶ通りに向かう。それにしても家畜がいないのか……。ん? 


「じゃあさ、卵ってどうしてるの?」

「それは冒険者がコカトリスやらあしなが鳥の巣からかっさらってきてるのが流通してるぞ。やや危険らしいが報酬も多いから中堅の冒険者が良く取ってきてるらしい。場所によっては不足するが困ったって話は聞いたことないな」


 コカトリスか……。目を合わせたら石化する……なんてことはないが石化する毒を吐いてくる魔物だ。縄張り意識が強く侵入者を石にして飾る習性がある悪趣味な鳥なんだよね。


「あっしらも良くとりに行くっすよ」

「気配を消すことだけは一流だからな」

「サクラさんとウィードさんにはばれちゃったっすけどね」


 まあ、結界張ってる私とSランク冒険者のウィードさん相手だと分が悪いだろう。

 卵をとるのが危険なら鶏の家畜とか考えだけでも商業ギルドに売れたりしないかな? 


「じゃあさ、ルアードさん。質は下がるかもしれないけど安価で安定した卵の供給ができるとなったらどう?」

「ほう。方法にもよるがかなり儲けるだろうな。今までの卵は質のいい高級品。安定したものは質が劣るが安い品。ってすみ分けもできるから摩擦も少なそうだ。なにか案があるんだな?」

「実現できるかはやらないと分かんないけどね。こういった方法や考えかただけでも商業ギルドで売れるかな?」


 売れるならカタログの利益に追加で不労所得が手に入りそうだ。


「そのことなんだが……。嬢ちゃん。商業ギルドへの登録はせずにルアード商会の専門アドバイザーにならないか?」

「私が得られる報酬をピンハネしたいと?」


 ルアードさんにジト目を送ると慌てて弁明を始めた。


「ピンハネをしたいわけじゃない。……いや、少しは貰うが目的はそこじゃない。嬢ちゃんの知識は金になる。だからこそ新参者としてやろうとすると周りが潰すか吸収しようとたくらむだろう。ま、嬢ちゃんならうまく対処するとも思うが……」

「アドバイザーであれば人手も元手もルアードさんが用意できるようになる……か」

「そうだな。せっかくの学園生活なんだ。学校以外での生活では遊びたいだろう?」


 なるほど。少しばかりピンハネされてもメリットが大きそうだな。


「私の考えが正しいかの確認と他からクレームが来た時の対応もしてもらうって解釈であってる?」

「おう、説明を頼むことはあるかもしれないけどな。もちろん嬢ちゃんの自由の邪魔はしない。時間がある時に顔出してアドバイスをくれるだけでいい」


 悪くない条件だね。お金だって死ぬほど困ってるわけじゃないし、面倒ごとを全部請け負ってくれるなら願ったりかなったりだ。


「分かった。よろしく」


 ルアードさんとがっしり握手をする。歩きつつ養鶏についてルアードさんに説明する。どうやら気に入ってもらえたようだ。

 そのまま歩いているとSDSで見覚えのあるお店が目についた。SDSで便利な商品を売っていたアイテムショップでよく来ていた。なによりも“あれ”を回すのによくお世話になった場所だ。


「お、ここに入るか? おススメだぞ」


 多くのプレイヤーがお世話になったこの店はルアードさんもおすすめのようだ。なんかにやにやしてるけどどうしたのだろう? 

 中に入るとなかなか盛況そうだ。さすがSDSでアイテムショップをしていただけあるね。


「いらっしゃいませ。なにかお探しですか?」

「いえ、適当に見に来ただけなのでお構いなく」

「かしこまりました。なにか御用ができましたらいつでもお声かけ下さい」


 うん。店員の接客も悪くない。ただこの店員さん、やけにルアードさんの方を見てる、それに少し緊張してるみたいだ。商売敵として知っていて警戒してるのかな? 


「ルアードさんって有名なの?」

「王都に住んでる平民なら大抵が知ってると思うぞ」

「そっか」


 店員さんを気の毒に思いつつも一通り見て回った。やはりいいお店だし、SDSの時みたいに品揃えもいい。でも、このお店のオリジナルグッズである“あれ”がない。


「この店はどうだった?」

「ああ、品ぞろえが良いな。質はまあまあだが安価で平民は助かるだろう」

「休日に遊びに来るにはちょうどいいわね」


 ルアードさんがニヤニヤしつつ問い、スティムとカトレアちゃんが答える。


「……」

「お嬢ちゃんは?」

「いいお店だけど……。“あれ”がない」

「あれってなんだ?」

「悪いけどこの店と関係のないルアードさんに“あれ”の事は言えない。さっきの店員さんに言ってくる」


 店員さんのところに行こうとしたらルアードさんに腕を掴まれた。


「待て待て待て待て、俺の商会の専門アドバイザーになるんだよな?」

「まだ契約前でしょ。契約後はルアードさんにも教えるから」


 このお店のアイデンティティを奪わせるわけにはいかない。


「あー、くそ、ちょうどいいからってドッキリ仕掛けようとしなければよかった。いいか、ネタ晴らしするとここは俺の店だ。これでいいだろう? 吐け」

「本当に? 聞きたいから嘘ついてるんじゃなくて?」


 なんか嘘くさい。とジト目を送っていると、さきほどの店員さんが来た。


「サクラ様。会長が言っていることは本当のことですよ。ネタ晴らしもされたみたいですし良ければ奥の部屋にどうぞ」

「へ?」

「そういうこった。行くぞ」


 私が驚いていると私の腕を掴んだままのルアードさんに会長室まで連れていかれた。

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