第23話 王都ペタル

 襲撃の合図が鳴り響き、みんなが警戒態勢に入る。


「ルアードさん。返事はこの襲撃に対処してからでいいですよ?」


 カトレアちゃんがジト目で見てくるけど仕方ないじゃないか。いいタイミングで襲撃がくるのに気づいちゃったんだから。商談に利用してみたくなるでしょう? 

 ルアードさんの返事は聞かずに車の外に出る慌てて追いかけてきたルアードさんをウィードさんに任せて魔物の場所に向かう。


「助太刀しますよ」

「助かるっす。あっしらも数匹ずつなら対処できるっすけど。数が多すぎて手が足りてないっす」


 エニシャさんたち三人が連携して魔物に対処している。相手はオークの群れだ。体格が大きく、動きが遅いため魔法の良い的になる。対する三人は伝説の斥候にあこがれてるだけあって全員動きが速い。ただ……。


「魔法は使わないんですか?」


 速さに違いがありすぎて無傷で戦っているけど魔法を使った方が早く倒せる。パーティーを組んでるのだし一人くらい魔法使いがいないとおかしいと思って聞くと全員がそっぽを向いた。


「ばらんすの悪い組み合わせなんですね……」

「う、うるさいっす! 魔法使いを募集しても誰も入ってくれないんすよー!」


 地雷を踏んだか……。ルアードさんにアピールするためにも三人を楽させてあげるためにも交代しますか。


「三人とも下がってください。私一人で対処します」


 そういいつつ氷華を抜く。魔力を込めて冷気を発生させつつオークの群れに近付く。


「さすがに一人でこの数は無理っすよ!」

「僕もそう思う。僕たちが打ち漏らした相手だけ対処して欲しい」

「ん」


 三人は心配してくれているのが分かるから邪険にはできないな。どうしようか……。


「おまえら。雇い主として命令する。嬢ちゃんに任せて全員俺の護衛につけ」


 近くに来たルアードさんが三人に命令した。エニシャさんたち三人は一瞬信じられないものをみた顔をしたが私が頷くと下がってくれた。


「先に豪語したのは嬢ちゃんだ。俺を納得させることができたらさっきの条件を呑んでやるよ」


 どうやら私の予想は当たったようだ。これでしっかりとオークたちを殲滅すれば自由人のまま推薦状を貰えるね。張り切っていこうか。


「まずいわね。サクラ! やりすぎちゃダメよ!」


 すでに集中していた私にカトレアちゃんの忠告は届かず、私は冷気を全力で解放する。


「フローズン・ワールド」


 私の前方にいたオークがすべて凍り付いた。残りは端の方にいた数体だけだ。


「ほいっ」


 生き残ったオークたちが驚き戸惑っている間に身体強化をして首を刎ねていく。この間僅か数十秒の出来事だった。


「やったね! いたっ」


 みんながいる場所に戻ってピースをしたらカトレアちゃんに叩かれた。なんでよ!? 


 ―――


 氷漬けにされたオークは収納袋と偽ってアイテムボックスに放り込んでいく。オークのお肉は上質な豚肉みたいで美味しいからね。あとでカトレアちゃんと焼肉パーティーしよう。


 後処理も終わり、全員で車に戻る。戻る途中、エニシャさんがぜひうちのメンバーに入ってくれと頼まれたけど断った。モフモフは魅力的だけど間に合ってるからね! 


「嬢ちゃん。どこまでが台本だ?」

「なんのこと?」

「魔物の襲撃のタイミングが良すぎる。こんなんほぼ脅しじゃねえか」


 なにか勘違いさせちゃったかな? ルアードさんはどうやら私が魔物を操ったと思っていそうだ。


「逆だよ? 魔物の襲撃に気付いたからそれに合わせて会話を引き延ばしただけだよ」

「斥候のプロが集まったパーティーよりも早く気付いたってか? 一流とはいかなくてもプロの冒険者が学生前の子供に劣るとは思えないな」


 ルアードさんにかなり疑われてる。私は天の適正で魔力を固めて感知用の結界を張ってから遠くの魔物も位置が分かるのだけど……。私の天の適正を知らないと信じられないよね。


「そこは私のことを信じて欲しいかな。少なくとも戦闘能力は疑いようがないでしょう?」

「……。ふぅ。そうだな。直感だが嬢ちゃんは悪い人じゃあなさそうだ。腹黒そうだが」


 がーん。腹黒そうって言われた。領主様の所為だ! 


「それは駆け引きの師匠が腹黒かっただけで私が腹黒いわけじゃありません!」

「弟子は師匠に似るのね」


 否定したのにカトレアちゃんが背後から打ってきた。ひどい! 


 ―――


 次の日の朝になり、ルアードさんたちと一緒に行動をすることになった。

 少し進み、森に入ってから度々襲ってくる魔物を倒しつつ王都へ向かう。今は魔物と戦うため車の外に出て車は収納袋にしまって移動している。


「そうだ、ウィードさん。王都ってどんなところ?」

「そうだな。田舎しかしらない二人は驚くかもしれんな。高いビルにガラス張りの建物。レンガで整備された街並みに綺麗に整地された並木道。魔法の技術と自然が調和した街だ。見たことが無いと想像できないと思うぞ」


 田舎暮らしの私でも日本での知識があるからなんとなくイメージができる。現代と中世ヨーロッパの良いとこ取りをしたような町ってことかな?  王都がどんなところか想像しているとルアードさんが補足してきた。


「王都の名前はペタル。豊富な自然と国内一の学園があることで有名だな。この森のことだが、近くに魔物が住み着いてる森が王都の三方向に広がっていて防衛がしやすいんだ。そのおかげで他国魔族からの侵攻にも強い。国王様が温和な方で良い人だし。王太子も頭が良くて今後も安泰だって言われている。他の大陸とも交流が深いからな。人族の王都だけど他種族も多く住んでるよ」


 ウィードさんは外観を中心に教えてくれたけどルアードさんは内面を教えてくれた。

 王太子ってSDSの主人公の一人であるシルビアだよね? 頼めば神霊ジークを見せてくれるかな? 


「なるほど。ありがとう。楽しみだな~」

「そうね。不安なこともあるけど、せっかくだし楽しみましょうね」


 カトレアちゃんも楽しみにしてくれてるみたいだ。不安なことは……魔王のことだろう。


「大丈夫だよ。私が何とかするから」

「分かってるわよ。やりすぎないようにね」


 や、やりすぎって……。そんなことした記憶がないんだけど……。


「……そうね」


 ジト目で見られた! なんでよ! 


 ―――


 王都が近づいてきた。ふと嫌な感覚がして氷華を振るう。


「いきなりなにしてんのよ!」


 カトレアちゃんに引っ叩かれた。


「……なんとも言えないんだけど。嫌な予感がしたの。気の所為だったみたい」


 私がえへへと笑うとカトレアちゃんは仕方ないわねといった顔をしてこれ以上の追及をしてこなかった。


「さて、王都に着いたぞ!」


 更にしばらく歩いたらウィードさんが声をかけてきた。どうやら王都ペタルに着いたようだ。


 ―――

<???視点>


 どうしてこうなったんだ。息も絶え絶えに男が森を走る。


 復讐を誓ったがいいが邪魔が入った。一介の伯爵家では公爵家には太刀打ちできなかった。男が捨てた道具・・・・・の場所を探そうとすると今までは嫌がらせ程度だった公爵家からの攻撃が本格的なものに変わっていった。


 男は逃げた。今潰されるわけにはいかなかったから。復讐をすると決めたから。


 なのに、なのに……! 森を抜ける最中に突然氷の槍・・・が降ってきて足が貫かれた。公爵家の追手かと思ったけど追撃はない。


 男はしばらく警戒して身を隠したが追手がいないと判断して再度森に向けて進み始める。


 男は足を引き摺りつつも森を奥へと消えていった。

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