第22話 商談

 互いの挨拶が終わった。ルアードさんが今から野営の準備をするから一緒に行動してもいいか聞いてきた。私としては別にいいんだけど……。ウィードさんと頷きあう。


「その前に隠れてる三人に出てきてもらわないとな」


 さっきから出てきてない三人組が気になっている。おそらく護衛だとは思うんだけど……。


「ばれちまってんのか。まあいい。出てきていいぞ。この人たちは悪い人じゃない」

「ほんとっすか? そこの凶悪顔の人も?」


 木の上から声が聞こえる。ウィードさんがちょっと怒ってるけど私だってウィードさんを初めて見たら最大限警戒するし気持ちは分かる。


「大丈夫ですよ」

「ほんとっすね? ほんとのほんとにほんとっすね?」

「これ俺怒ってもいいよな?」


 うーん。どうしたら降りてくるかな? ……あ、そうだ。


「ふーん。びびりなんですね」

「ちょっと待つっす。だれがびびりっすか!」

「ふっ」


 あっさりと隠れていた人が降りてきた。どうやら犬の獣人のようだ。うまくいったとカトレアちゃんに向かってピースしたら白い目で見られた。ひどい! 


「はっ! 孔明の罠っす!」

「エニシャが悪い」

「ん……」


 私の含み笑いで罠に嵌められた気付いたリーダーらしき人が騒ぎ、後から降りてきた二人が突っ込んでいる。リスの獣人に熊の獣人だ。


「ふっ、やるっすね。サクラさんだったっすか? あたしのライバルに認めてあげるっす!」

「僕は向こうの方が圧倒的に実力者だと思う」

「ん……」


 放っておくと三人でずっと話してそうだな。一人は頷いてるだけだけど……。


「自己紹介をしろ自己紹介を」


 三人だけでの話が続いてウィードさんのこめかみに血管が浮かび上がり始めた。


「すまないっす。あっしはエニシャ。伝説のガーデンのメンバーの斥候だったロータス様にあこがれて冒険者になったっす! ちっこいリスの獣人がメル。でっかくて無口な熊の獣人がソアラっす!」

「よろしく」

「ん……」


 ウィードさんがまじかよって顔をしてる。驚きが勝って怒りが収まったようだ。

 それにしてもソアラさんは意思疎通ができるのかな? ん……。しか言ってないけど。


「幼馴染とかじゃないかしら? 私だってサクラの考えてること分かるし」

「そ、そうだね……」


 カトレアちゃんレベルのエスパーはそうそういないと思うよ? 


「サクラ以外の考えは分かんないからエスパーじゃないわよ」


 さいですか……。


「で、野営は同伴してもいいか?」


 ルアードさんが再度聞いてくる。そういえば元はそんな話だった。でもこちらのリーダーは一応スティムだ。視線を送るとスティムが頷いた。


「いいだろう。こちらの邪魔をしなければ好きにすればいい」

「ありがとうございます。では、しばらくの間・・・・・・、よろしくお願いします」


 しばらく……ね。


 ―――


 車に入ってルアードさんたちについて話をする。


「サクラ。どう思う?」

「悪い人じゃないと思うよ。でも王都までは気を付けた方がいいかも」

「だな。俺も同意だ」


 カトレアちゃんとスティムの頭にはてなマークが浮かんでいる。

 ふっふっふ。この私が教えてあげようじゃないか! 


「ルアードは商人で、護衛の三人はそこそこではあるけど腕は悪くなかった。そして姿を隠してる間も、俺達じゃなくて周りに気を配っていたんだ」


 ……ウィードさんが説明を始めてしまった。……カトレアちゃんの尻尾をモフろう。


「自分で言うことでもないんだが、護衛対象が初対面の俺と話してる間に俺でなく周りを警戒すると思うか?」

「思わないわね」


 即答するカトレアちゃんにウィードさんが苦笑いする。うん。このモフモフは良いものだ。


「だろ? だから護衛としての俺たちを利用しにきたのか、親切心で俺たちを助けに来たのかどちらかに絞られる」

「いつまでモフってるつもりよ。拗ねてないでサクラも説明しなさい」

「ちぇー」


 モフりすぎてカトレアちゃんに怒られてしまった。仕方ないのでモフるのをやめてウィードさんの言葉を引きつぐ。


「結論としては私達を利用するために接触した可能性が高いの。なんでかっていうと私たちのメンバーにはお貴族様がいるからね」

「俺か?」


 突然名前が挙がったスティムが驚いた声を出す。


「うん。貴族が生半可な護衛を雇うとは思わないでしょう。ま、私たちが弱くても関係なく声をかけてきたと思うけどね」

「なんでだ? 弱い護衛なんて利用できないだろう?」


 護衛は利用できなくてもメリットはあるよね? だって。


「私たちが強かったら身の安全が確保できて、弱かったら貴族に恩を売れる。向こうからすればどちらでも良かったってことね」


 カトレアちゃんに美味しいところをとられた……。


「待てよ。しばらくの間よろしくって……」

「うん。今夜だけ・・・・じゃなくて王都に・・・着くまでの・・・・・ってことだね」


 再度カトレアちゃんが尻尾をモフりつつ答える。


「ああ、だから恐らく王都までの道のりに盗賊の目撃情報か、魔物の活性化の情報を教えてくるはずだ」


 ウィードさんの言葉にはっとする。魔物の活性化……。魔王の復活の前兆かな? 私の手が止まったことに気付いたカトレアちゃんが私をみる。


「サクラ……」

「うん」


 さすがカトレアちゃん。私の懸念が伝わったようだ。


「いつまで引っ付いてるの。離れなさい!」


 伝わってなかった! 引っぺがすところじゃないでしょう! カトレアちゃんをモフりたい私とモフられたくないカトレアちゃんの勝負をしてると車のドアがノックされた。

 ウィードさんが出るとルアードさんがいた。スティムの許可を得てウィードさんが中に招き入れるとルアードさんが口を開いた。


「耳よりの情報がある。無料で教える代わりにこちらのお願いを聞いて欲しい」


 私はにやりと笑みを作り返事をする。


「その情報って魔物の活性化のこと? いや、危険な中で王都までの護衛を兼任する代わりの対価がそれだけのわけがないよね。どんな素晴らしい情報なのか気になるな」


 カトレアちゃんが小声で違ったらどうするのよ。って突っ込んでくる。確かに絶対ではないけど可能性は高いし、駆け引きが始まったらハッタリは大事だ。それに違っても問題ない言い方をしているから問題ない。だてに領主様に鍛えられてないのだ! 


「ちっ。耳が良いな。悪いが情報はその魔物の活性化だ。注意喚起しに来ただけさ」

「なにも言わずについてくるなら敵意有と判断して攻撃するけど良い?」


 ルアードさんが立ち去ろうとするけど逃がさないよ? 挑発するように笑いかけて脅しをかける。あれ? 私悪役っぽい? 


「……。頭も良くて胆力もある……か。嬢ちゃんと知り合えたことで良しとするか」


 ルアードさんは私を見て少し考えた後何かに納得したのか座りなおした。


「分かった。あんたらを敵に回したくはない。駆け引きじゃなくて取引といこう。自己紹介の時にも言ったが俺は王都で商会を開いている。好きな商品を一人一つずつ無料で渡すことを報酬にして俺たちの護衛を引き受けてくれないか?」


 お金じゃ味気ないと思ったのかな? ……いや、貴族スティムがいる時点でお金に困ってないと判断したのか。ま、断ってこの人たちが襲われても目覚めが悪いから報酬の有無に関わらず引き受けるんだけどね。


「いいよ。それじゃあカタログ見せて」

「あ? カタログってなんだ?」


 へ? カタログの概念ないの? 


 どうやら通販の無いこの世界では自分たちで管理するような品書きはしていても客に見せる用のカタログは作っていなかったみたいだ。どこかに売り込むにしても商品を収納袋にいれて持っていき、直接見てもらうから必要のない概念だったのだろう。


「見せ方に工夫がいるが……。準備の手間も省けるし厳選した商品じゃなくてすべての商品を確認してもらえるようになるのか」


 ルアードさんがぶつぶつと何か言っている。こちらとしては商会についてから選ぶでも問題ないんだけど……。


「嬢ちゃん。そのカタログって概念を俺の商会で扱っていいか? 利用料はそうだな……。カタログから売れた商品の利益のうち一割でどうだ?」


 おっと。突然商談が始まったぞ? ここらへんの相場は知らないからな……。とりあえずあれとあれが欲しいかな? 片方はあればだけど。


「んー。アイデア料だけだと一割で良いかもしれないけど、商品の運搬費、見せる用の製品の作製費を削減出来る上にルアード商会が発信者となるんでしょ? 後発組からいい値段とれるよね? そこも加味して欲しいな。利益の五割で」

「はぁ? さすがにそれはぼったくりだろう。カタログで全く売れなかったら赤字になるんだ。二割」

「赤字って言っても数枚作るだけなんだから微々たるものでしょ。四割」


 そろそろ落としどころがくるかな? せっかく楽しくなってきたのにな。


「ちっ。王都までの護衛を引き受けたときの報酬を一つから二つに増やす。値段はこれが限度だ。二割五分」


 ルアードさんがこちらをまっすぐとみる。どうやら本当にギリギリまで譲歩してくれたみたいだ。この調子なら私の要求が通るかな。


「護衛依頼の報酬は一つずつでいいよ。その代わりに王都の案内をして。カタログの料金も二割でいいや。その代わりに商業ギルドと冒険者ギルドへの推薦状を作ってくれる?」

「おまっ。それが狙いかよ。……ん? そこの貴族様に推薦状を作ってもらえばいいだろう?」


 冒険者ギルドの推薦状はいわゆる保証人になりますと言ってるようなものだ。無くても影響はないけど多いほうが信用されやすくなる。しかし、後ろ盾になってもらう代わりにある程度推薦者を優遇する必要が出てくる。あの領主様は喜んで書いてくれるだろうけど面倒ごとに巻き込まれる未来しか見えない。


「貴族の下につくつもりはないよ。自由に生きたいし」

「嬢ちゃん。つまり後ろ盾になって保証人をしろ。だけど命令は聞かないし自由にやるって言ってんだな?」

「そうだよ? 少しくらいなら優先してあげてもいいけど基本は私のやりたいようにやるってことだね」


 少しの間にらみ合う。でもね。結局は私の条件を呑むことになると思うんだよね。だって……。


 ピーーーー! ! 


 魔物の襲撃の合図が鳴り響いた。

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