七龍学園編
第21話 旅立ち
<???視点>
時は少しだけ遡る。
ある部屋の中である男が頭を抱えていた。
「なんで私がこんな目に合うんだ! 私は有能な存在だぞ! あの無能どもとは違うんだ。なのになんで私ばかりが責められるんだ!」
男は公爵家から攻撃され始めていた。たかが
だんだんと男からどす黒いオーラが見え始める。
「そうか! どれもこれもあいつの所為なんだな! ふふふふふあーはっはっは!」
突然笑い出した男はいつも思っていた。俺は他の奴らとは違うと。
男はそれを見た瞬間に無意識の中で気付いていた。こいつだけは生かしてはいけないと。
しかし男は決断できなかった。無意識だったから。理解しきれていなかったから。
男は知らなかった。忘れていたから。知ろうとしなかったから。
笑うのをやめた男は理由もなく思う。
「私は……俺はお前を殺す。なるべく苦しませてやるからな。待ってろよ。
―――
<サクラ視点>
学園への推薦をもらって五年。私ことサクラ・トレイルは七龍学園に入学する年になった。
出発組は私とカトレアちゃんと息子君ことスティム。最後にウィードさんだ。
カトレアちゃんはいまだにウィードさんが苦手らしく。私を挟んでウィードさんの反対側に立っている。
「領主様。馬車の手配ありがとうございます」
「ええ、学園に向けた準備をするって約束でしたから。快適な移動を約束しますよ」
決闘での約束通り、領主様が制服に鞄に魔動車まで全て準備してくれた。魔動車は送りに使うだけだけどね。領主様に礼を言っていたら見送りに来た母がごねる。
「サクラちゃん。一人暮らしは寂しいわよ? もっとギリギリまで延ばしましょう?」
「そうだね! 明日までのば痛っ!」
母が寂しがってるから残ろうとしたらカトレアちゃんに叩かれた。ひどい!
「ひどいじゃないわよ。そう言って昨日も延期したでしょう? これ以上は伸ばせないわよ!」
「そうだ! 私が魔法を使って魔動車の性能を引き上げれば。もっと速く移動できるよ!」
「伝説の超級適正をそんなことに使うなんて……」
領主様がショックを受けてるけどなぜだろう? 便利なものは使うべきでしょう?
「だめよ。サクラの魔力が……もつわね……。サクラとお話ししながら行きたかったけどサクラがずっと魔法使うことになるなら無理そうね。邪魔はできないし……」
「今すぐ出発しよう! 母さま行ってきます!」
手のひら返しが酷いって? カトレアちゃんが尻尾をシュンとさせつつ残念そうに言うんだよ? カトレアちゃんしか勝たん! 母のうらぎりもの~って声が聞こえる気がするけど無視だ!
「サクラちゃーん。もう少し残りましょうよ~」
「こら、娘たちの邪魔するんじゃないよ。元気でなー!」
あ、母がカトレアちゃんのお母さんに連れてかれた……。
「い、行きましょうか……」
運転手さんがちょっと引きつつ魔動車を動かし始めた。
―――
カトレアちゃんとお話をしつつ移動をする。最初は窓の外を見ていたけど直ぐに飽きてトランプしつつ過ごしている。
「また負けた! なんで?」
「すぐ顔に出るからよ」
ババ抜きを始めて十二戦すでに十二敗している。ぐぬぬ。私の心を読んでくるカトレアちゃんに勝とうなんて百年早かったようだ。
「ぐぬぬぬぬ」
「諦めなさい。あなたにだけは負ける気がしないわ」
今度はポーカーを始めて二十戦。二十敗だ。頑張って顔に出さないようにしたのに……。
「後一戦。後一戦だけでいいから……」
「何度目の後一戦よ! もう疲れたわよ。そろそろ休憩させてちょうだい」
「勝ち逃げされたー。このモフモフ! 美人! 可愛い奴め! 幸運の神様に愛されてる!」
「えぇ? なんでわるぐ……いえ、それ褒め言葉よね?」
カトレアちゃんを責める言葉なんてあるわけないだろう。え? 一戦くらい勝てたのかって? 察して?
「カトレアはどれくらい休むの? 十秒?」
「そんなに短いわけがないでしょう? そうね。次の休憩地点までは休もうかしら」
うーん。夕方前には野宿の準備が必要なことを考えるとそんなに時間はないか。
「よし! しばらくこの車に並走してくる!」
「サクラ!?」
短い時間なら大丈夫だろう。身体強化を使って魔動車を降りて走り出す。案外速いけどなんとかなるかな?
―――
「今日はここで野宿するぞー。みんな手伝えー」
「はぁ……はぁ……。はーい……。手伝うよ……」
「いや、サクラは休んでなさい」
「そうだな。その状態じゃ足手まといだ」
うぅ。想定以上に遅い時間まで走らされた……。
「普通考えたら分かるだろ。車があるんだから野宿の準備は必要ないって」
「はぁはぁ……。おっしゃる通りで……」
座席を倒すだけで寝ることができるし、公爵様が用意しただけあってこの魔動車には簡単な調理場がある。料理を作るのも運転手さんだ。公爵家の使用人ともなると料理運転なんでもござれのようだ。
「嬢ちゃんがばててる内に魔物が襲ってきても放っておいていいよな?」
「ひどくない!?」
というかフラグでは?
「自業自得だからな」
「あ、あはは……。それでもひどく。っ!?」
近くから足音が聞こえた。
「総員警戒。カトレアちゃんは私たちの内側に!」
小声で指示を出しカトレアちゃんを中心にフォーメーションを組む。
「フラグ回収速すぎるよ」
「アホなこと言ってないで集中しなさい」
「おい、お前ら、気を抜くなよ」
小声で話しながら周りを警戒する。足音のした木から何が出てきてもいいように姿勢を正す。
「あー、待て待て、俺らは怪しいもんじゃない。警戒を解いてくれるか?」
「姿が見えないのに信じられないかな」
「それもそうだな。これでいいか?」
すらっとしたおじさんを中心に商人みたいな人達が数人出てきた。
「あなた達は?」
「俺はルアード。王都で商会を営んでいる。で、こいつらは商隊のメンバーだ。そもそも強面の冒険者にお貴族様を襲うやつなんかいねえよ」
それもそうだ。公爵家の家紋入ってるもんね。私たちの乗ってる魔動車。
「なんで隠れてたんだ?」
「その冒険者の顔がな……。その子供たちを攫ったやつなのかと思ったんだ」
「ぶふっ! ! 確かに」
「おい嬢ちゃん。笑うんじゃねぇ」
小さいころから接してきたから気にならなくなっていたが、確かに夜中に子供といる強面のおじさん。まごうことなき誘拐犯だ。十年近く一緒にいるはずのカトレアちゃんも未だに慣れてないみたいだし。
私が笑ってる間にスティムが代表として挨拶をする。
「危険な人じゃなさそうだな。俺はグロウズ家の長男のスティム・グロウズ。で、こっちの笑ってるエルフがサクラで「よろしくー」狐の獣人がカトレア。「よろしくお願いしますね」そして強面のおっさんが護衛のウィードだ」
「丁寧にありがとうございます。改めまして、ルアード商会の会長。ルアードと申します。これからどうぞ御贔屓にお願いしますね」
こうして私たちはルアードさんと出会ったのだった。
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