第15話 洗礼式

「サクラちゃんこんにちは。ローズさんもお久しぶりです」

「サクラちゃんにローズさんこんにちは」

「おじさん、おばさん、こんにちは」

「ええ、お久しぶりです~」


 カトレアちゃんと教会へと移動し、無事に洗礼式の会場前でカトレアちゃんの両親と合流することができた。三つのモフモフが視界に入って私は幸せだ。ちなみに丁寧な口調の人がカトレアちゃんの父親である。


「相変わらず幸せそうな顔してますね」

「ええ、だらしない顔してるわ」

「カトレア? 私の顔のどこがだらしないの?」


 顔をキリッと引き締めて反対してみる。


「サクラはいつも残念な子だけど時々変になるわね」

「カトレアちゃんがひどい」


 変って言われてしまった。がーん。

 ショックを受けたしぐさをしながらカトレアちゃんがモフモフさせてくれないかな? とちらちら見ても無視されてしまった。


「サクラちゃん、いつもカトレアと仲良くしてくれてありがとな」

「ううん、カトレアは大切な幼馴染だから気にしないで! それと今日は待たせちゃってごめんなさい。場所取りもありがとう」

「はっはっはっ。場所取りくらいおやすいごようさ。それくらい私と旦那にまかせればいいのさ」

「そうですよ。私のことも実の父親だと思ってもっと頼っていいんですよ?」

「はい……。ありがとうございます」


 がっかりしているとカトレアちゃんの両親が声をかけてくれた。二人とも優しくて心がポカポカする。今の私には母を含めて気にかけてくれる人がこんなにもいるのだ! 


 カトレアちゃんの尻尾をモフモフしようとして躱されたり談笑したりしつつ洗礼式の開始時間が来るのを待つ。


 幾度かのアタックの末、モフることを許された私がモフろうとした瞬間、会場の扉が開いてモフモフがお預けとなってしまった。ぐすん。


 ―――


「おー、中も綺麗だね」


 中に入ると両端に燭台に創造神様をかたどった像がならんでいる。奥のステンドグラスには神々しい七頭の龍の姿と可愛らしい七匹の猫の姿が描かれている。創造神様の子である神霊達を表現しているのだろう。七人のうち六人はSDSで見たことがある姿だなと眺めていたら、とある神霊の姿に目がひきつけられた。


「ちょっとサクラ! なに泣いてるのよ!」

「……え? あれ、いつの間に?」


 いつの間にか涙が出ていた。どうしてだろう? と首をかしげる。


「異常がないならいいわ。何かあったらすぐに言うのよ?」

「だ、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」


 ずいと近づいて念を押すカトレアちゃんに大丈夫だよと安心させる。


「そういえばサクラちゃんは教会に来るの初めてだったかしら~?」

「そうだよ。お祈りしてデータをセーブしたり毒や呪いの治療をしたりしてくれる場所だっけ?」


 母の質問に答える。有名なRPGで学んだからどんな場所かも知ってるよ! 


「お祈りしか合ってないわよ。そもそもセーブってなによ。教会は孤児を育てたりお祈りしたりする場所であって病院じゃないのよ? 呪いは光の適正を持つ人に頼まないと意味ないじゃない」


 前世のイメージで聖職者は光のイメージがあったけどそんなことはないようだ。突っ込みをしつつ教会がどんなところか教えてくれるカトレアちゃんが神様に見えてきた。どうやって感謝を伝えようか。頭でも垂れてみる? 


「こんなところで崇めないで。神様に不敬だから。洗礼式始まるから」


 私の行動を察知したカトレアちゃんに止められてしまった。モフモフ教は認められないみたいだ。残念。


 ―――


 その後会場の中で大人組と一度分かれる。今日の主役は子供達なので前のほうに子供が座り、会場の後ろに大人が立つみたいだ。席について辺りを見渡すと私達以外にも数十人の子供たちが参加するようだ。

 想像するよりも多い人数を不思議に思った私はカトレアちゃんに尋ねる。


「こんなに子供いたっけ? メディ村でもセリアン町でも数人しか見たことないのに」

「グロウズ領は広いからね。遠くから参加する人も多いらしいわ」

「そうだった。遠くから来る人は大変だね」


 ウィードさんから聞いた話だが、この時期には冒険者に遠くから来る子供達の護衛依頼が領主からでるらしい、楽なうえに良い報酬がでて人気らしい。

 お話をしていたら優しそうなおじさんが前に出てきた。


「領主様が来たわよ。立ちましょう」

「優しそうなおじさんだね」

「グロウズ領は税も低いし、領主様もお忍びで下町にでて平民の意見を取り入れようとしてくれるいい人なのよ」

「カトレアちゃんは物知りだね」


 ふむふむ。悪徳領主ではない。と。ま、いい人なのはメディ村やセリアン町を見てるとわかるけどね。


「ちょっとくらい自分の住んでる領の領主様に興味を持ちなさい」

「カトレアちゃんが教えてくれるからいいかなって……」


 上目遣いで誤魔化す。正直領地とか興味ないし悪徳貴族が支配してなければ十分だと思う。


「何言ってるの?」

「むぅ。カトレアの意地悪……」


 私の上目遣いはカトレアちゃんに効果がなかったようだ。どうしても興味を持てないな。とうんうん唸っていると見かねたカトレアちゃんがため息をつく。


「ふぅ。聞かれたら教えてあげるけど自分でも興味を持ちなさい!」


 カトレアちゃん優しい! と抱き着いたら頭をはたかれてしまった。ひどい! 


 ―――


 桜庭龍馬の意識と***を接続します。

 イメージと現実の乖離の修復を試みます……。……。完了しました。


「桜庭龍馬、お会いできて嬉しいです」

「よく教会まで来てくれました。あなたの種族制限を一部開放しましょう!」

「あの子のこと、よろしくおねがいしますね」


 ―――


「-ラ。サクラ。話聞いてる?」

「はっ。ごめん、聞いてなかったよ」


 気が付いたらカトレアちゃんが私の前で手を振っていた。


「あれ? 洗礼式は? 鑑定は?」

「何言ってるの? さっき終わったところでしょ? 父さんも母さんも待ってるから戻るよ」


 寝ちゃったのだろうか? 鑑定するために使う石板を触ったところまでは覚えてるんだけどそこからの記憶がない。夢みたいなものを見ていた気もするけど……。


「私大丈夫だった?」

「その質問の時点で大丈夫じゃない気がするんだけど……。一応普通に洗礼式を終えていたわよ」

「そっか、ありがとう」


 疑問に思いつつも、問題なさそうだしいいかと特に気にせず洗礼式を終えたのだった……。

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