第12話 目が覚めて

 知ってる天井だ……。


 ごめんなさい。一度言ってみたかったんですこの言葉。少し違うけど……。


 どうやらウルフに止めを刺した後、母の腕の中で気を失ってしまったみたいだ。いつの間にか我が家のベッドに寝ていた。母が運んでくれたのだろうか。


「おう、起きたか嬢ちゃん」

「ウィードさん!? いつの間に帰ってきたの?」


 部屋の隅からウィードさんが声をかけてきた。なんでそんなところいるのかなと思ったら近くから寝息が聞こえてきた。確認するとカトレアちゃんが寝ている。


「俺と会ったのが久々だったからかめっちゃ威嚇してきてな……。一応ローズさんの援護もあってここまで近付くことは許してもらったんだが……」

「あ、あはは」


 Sランク冒険者でも幼女には勝てないらしい。ケモミミ少女は強し。


「俺が言う側ではないんだが……。カトレアの嬢ちゃん、かなり心配してたぞ。サクラが死んじゃうって言って離れなかったんだ」

「うっ」


 罪悪感が凄い。謝罪の気持ちを込めて頭を撫でてあげるとカトレアちゃんを起こしてしまった。少し目が赤くなっているが、気持ちよさそうに目を細めている。


「カトレアおはよう」

「ばっ! おはようじゃないわよ! 心配かけて! それといつまで頭を撫でるつもりよ!」


 声をかけると一瞬で覚醒したカトレアちゃんが抱きしめてきた。心配かけたなと反省する。あれ? 


「そういえばいつ来たの? しばらくおばさん用事があったんじゃ?」

「しばらくも何もサクラが寝てからもう三日経ってるのよ? とっくにお母さんも帰ってきたわよ」


 え? 三日……? 


「あー、サクラ。衝撃を受けてるところ悪いがローズさんから話があるんだがいいか?」


 ウィードさんが話しかけてきたと思ったらカトレアちゃんがウィードさんのほうを向いて毛を逆立てた。よっぽど警戒しているようだ。とりあえず頭を撫でてなだめる。

 それにしても母からの話とはなんだろう。とりあえず母のところに向かうかな。


「ローズさんがこっちに来るからサクラはまだ休んでおきな。ばかみたいに魔力使って疲れただろう」


 そういうことなら言葉に甘えて待つことにしよう。


「はーい。まだ体がだるいし休んでるよ。……ん? なんでほとんど魔力使ったこと知っているの?」

「あ、あー、それもローズさんが話すと思うから待っとけ。別に今言ってもいいが俺から言うとローズさんが不貞腐れちまうからな」

「あはは、そうだね。母さまに聞くとするよ」

「おう、そうしておけ。何か飲み物飲むか?」

「ん。お茶頂戴」

「カトレアは何か飲むか?」

「……サクラと同じ物で」

「はいよ。じゃ、準備してくるからお嬢は安静にしてろよー」

「わかってるよ~」


 ウィードさんが離れると聞いて威嚇を解いたカトレアちゃんとしばらく話をしていたが、すぐにカトレアちゃんがうとうとし始めたので布団の横に招き入れて寝てもらう。


 さて、暇になった。ここは集団戦が真骨頂のウルフのはぐれ相手にかなり苦戦してしまったし、ステータスの確認でもしてこれからの修行の方向性を考えたほうが良いかな? 


「ステータス、オープン」


 *****

 名前:サクラ・トレイル(桜庭龍馬)

 種族:ハーフエルフ(種族制限“大”)


 生命力:500→700

 魔力:50000→75000〈適正:天〉

 体力:F→C

 物理攻撃力:G

 魔法攻撃力:F→B

 物理防御力:F→D

 魔法防御力:F→C

 器用さ:G→F

 素早さ:G→D

 運の良さ:G


 特殊スキル:ステータス、アイテムボックス、鑑定

 *****


 全体的にステータスが伸びている。すでに一般人程度の基準であるD評価を超えたものも多く、魔法攻撃力に関しては中堅魔法使いのレベルまで上がっている。このステータスでウルフに苦戦するとは……。実践に慣れていなかったからなのか、力をつけていたウルフだったのか……。どちらにしろ今のままでは母を守り切れないかもしれない。師匠も帰ってきたことだし、今まで以上に実践をしつつ鍛えてもらわないといけないかな。


「あ。この前母さまと無茶しないって約束したばかりだった」

「は? 嬢ちゃんローズさんとそんな約束してたのかよ」

「いいわね。私ともその約束をしましょう」

「はっ! ウィードさんいつからそこに」

「いつからって。嬢ちゃんが頭を抱えてくねくねしはじめたところだが?」

「いやそこは“ステータスって言ってるところから”って答えて私が“最初からかい”って突っ込むまでがお約束でしょう」

「何言ってるのよ。寝すぎて頭のねじが外れたの?」


 しまった。こっちではこういったお決まりはなかったみたいだ。本気で心配されてしまった。そしていつの間にカトレアちゃんは起きてたの? 


「ウィードさんが入ってきたときに起きたわ」

「だから心を読まないで! ふぅ、気にしないで。私は平気だから。それより何をしに戻ってきたの?」

「そ、そうか。ほら、お茶だ。準備してくるって言ったろ?」

「あー、忘れてた。ありがとう」

「サクラ。大丈夫よ。毒は入っていないみたい」


 お茶の匂いを嗅いだカトレアちゃんが報告してくる。カトレアちゃんはウィードさんをなんだと思ってるんだ……。


 ―――


 しばらく談笑していると母が戻ってきた。


「母さま? おかえりなさい」

「ローズさん。お邪魔してます」

「うふふ~。ただいま。サクラちゃんはよく眠ってたわね~? そしてカトレアちゃんいらっしゃい。サクラちゃんを見てくれてありがとうね」

「うん。ぐっすり。ところで、ウィードさんが言ってたけど母さまから話があるんだって?」

「そうよ~。ご飯を食べ終わったらお話をしましょうね~。カトレアちゃんの分も用意したわよ~」


 言われておなかが空いてることに気が付く。


「三日間も寝てればおなかも空くものよね~」

「あっ。そうだった」

「あら~、もう聞いていたのね~。魔力の枯渇が原因だってわかっていたから慌てなかったけれど心配はしたのよ~。もう、無茶しちゃって」


 膨れてる母も可愛いが心配かけたのは申し訳ない。少しだけ反省しよう。同じ状況になったらまた同じことするけど。


 ―――


「「「「「ごちそうさまでした」」」」」


 ご飯を食べ終え、片付けが終わってからカトレアちゃんとカトレアちゃんのお母さんは帰っていった。残った私たちは机の周りに集まる。


 最初に口を開いたのは母だった。


「さて、サクラには明日から私が修行を付けます。今から私のことを師匠と呼びなさい」


 きりっとした顔で言い切った。


「か、母さま……?」

「違います。師匠と呼びなさい」

「し、師匠……」

「よろしい」


 いつもの母はどこに行ったのだろうか。のんびりした口調も鳴りを潜めはきはきと話している。ウィードさんのほうを見てみると引き攣った笑いをしていた。


「そうなると二度と嬢ちゃんに母さまと呼ばれることは無くなるんだな……」

「やはり呼び方は自由でいいです。いや、普段は母さま、修行中は師匠と呼びなさい」

「は、はい母さま」

「……嬢ちゃんが付いてこれてねぇぞ」


 ウィードさんの呟きにあっさりと掌を返す母。うん。ちょっと付いていけない。

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