第11話 サクラへの試練<ローズ視点>

「ローズさん、嬢ちゃんは合格か?」


 森から姿を現したウィードがニヤニヤしながら私に問う。答えは分かり切っているのに聞く必要はないでしょう。


「見守っててくれてありがとうね~、ウィード。そうね~。及第点はあげてもいいかしら~」

「こりゃまた厳しいねぇ」

「発想は良かったけど~、後先をもっと考えて欲しかったわ~」

「それは初戦なのに高望みしすぎだろう」


 まったく、ウィードは一年間もサクラの師匠をしていたのに何をみていたのかしら。この子ならそれくらいできてもおかしくないでしょう。


 腕の中で眠ってしまった我が子の頭を撫でる私はローズ・トレイル。今回のピクニックとウルフの襲撃を仕組んだ張本人です。

 といってもサクラをいたずらに傷つけたかったわけではなく、サクラの試練としてウィードと共に計画したのです。体を休めてほしいといった気持ちも本物でしたが、サクラには私とウィードが見ている安全な状況で初めての実践をしてもらいたかったから。サクラが努力をしてきたことを知ってるとはいえ、我が子の頑張りと成長に涙がでそう。


 サクラには言っていないけど、試練を開始したのは一年前、ウィードが任務といってサクラから離れていったとき。

 最初の試練は師匠がいない中でもひた向きに努力を続けられるかの確認。あの子は師匠に言われたことを守りつつ一年間ずっと努力をしてきました。

 次は試練というよりも特訓といった方がいいかしら。サクラの隠密能力の向上が目的。危険な時にすぐ逃げられるように、生きていけるように、サクラの実践への好奇心を刺激しつつ私が邪魔をするといったひどい仕打ちをしながらもサクラの隠密能力を鍛えてきました。

 そして今日、最後の試練として一人で魔物を倒すことができたら試練は合格。今後は一人で森へ行く許可を出そうと考えていました。


「それにしてもやっぱり嬢ちゃんは強いな」

「うふふ~、サクラちゃんはただのウルフだと思ってたみたいだけど、一年かけて育てたウィード謹製のウルフだったのに倒せましたからね~」


 ウィードが一年前に始めた任務は今日戦うための魔物を育てること。魔物は魔力をもつ獲物を食べることで強くなるので、弱らせた他の魔物を目的の魔物の前に置いていくだけでどんどん強くなっていきます。魔物を強くするなんて本当は禁止されているけどばれなければ問題ないでしょう。


「まったく無茶させるぜ」

「それはサクラに? それともあなたに?」

「どっちもだよ。適当な魔物をある程度育てろとか正気を疑ったぞ」

「えぇ~、あなたのことは信頼しているから心配してないし、サクラは私の子ですからね~」

「はっ、ちげえねえ。薔薇の女王の娘は桜の姫ってか?」

「ウィード。それをいうのは禁止ですよ?」

「悪い悪い」


 エルフの王女として生まれた私は森に閉じ込められる生活が嫌で家を飛び出しました。周りには立派な女王になるために~なんて言って外に出てきたのだけど、単に世界を見る旅をしたかったのです。旅を始めると、ウィードを始めとした心強い仲間に囲まれました。ちょっとしたやんちゃをした結果、薔薇の女王なんて二つ名を付けられてしまったのはサクラには隠したい黒歴史。絶対に隠し通します。


 なぜかサクラは私がか弱いと信じて疑わないみたいですが、私はSランク冒険者として活動していました。やんちゃしすぎた私は仲間以外のほとんどに恐れられ、会う人会う人に化け物を見るような目で見られる程度には強かったんです。

 そんな中で、化け物としてではなく人として見てくれた人間に惹かれた私は仲間に反対されながらも冒険者を引退しました。サクラを産んで、その時に相手が実は私を“人”ではなく“才能ある子を産むための道具”として見ている人だったと気がつき、別れてから八年。何かと不思議なこの子と生きてきました。


「それにしてもローズさん。どうやったら嬢ちゃんみたいな子が育つんだ? 胆力もだが想像力も思考力もあり得ないほど高いぞ」

「ん~。生まれつき天才だったのよ~」

「はぁ、やっぱり親ばかだな」


 ウィードはため息をついていますが本気でサクラは生まれつきの天才だと思っています。

 生まれたて直ぐ、自分の置かれた状況を察することができ、しゃべる前から合図を考え、今まで見てきた子供よりも早く歩き始め、まるで大人のような思考力を持つ……。うふふ。やはりサクラは天才なのでしょう。


「やはり天の適正か?」

「そうだと思うわ~。氷華の本来の能力は切り口を凍らせるだけのものだもの。あんな使い方は天の適正がないとできないわよ~」


 この子の父親は適正無だと言ってサクラを捨てたけれど、鑑定で適正が分からない場合は超級適正を持つことはエルフの中で常識。ただ、それを言うとサクラを道具として利用しそうだったから黙って別れた。サクラに会わせてもらえたこと、現実は違ったけど化け物ではない人として接してもらったことは感謝していますが、もう二度とあの人と関わることはないでしょう。


 そして、薄々予測が立ちつつも今回の試練でやっと確定できたサクラの適正。超級適正には時と空と天の三種類あるけれど、魔力の操作に特化し、魔道具の能力を拡張できるのは天の適正です。超級適正の持ち主は他の適正を持つことは決してないと言われているけれど、天の適正は極めることですべての適正の魔法を使えるようになると言われている特別な適正。


「嬢ちゃんなら天の適正の極地に至れると思うか?」

「もちろんよ~。サクラちゃんは天才だもの」


 本当は私の娘だからって言いたいところだけど、この子は厳密には・・・・私の娘・・・ではない・・・・。私とあの人の子であることには間違いない。間違いないけど母親として接すれば分かる。この子は隠しているけどきっと……。それでもこの子が私の大切な娘であることには変わりない。これからも愛情をもって育てていきます。


「魔刀か。二年前は良く嬢ちゃんに渡したな。下手すりゃその場で氷漬けだっただろう? あれ」


 私がサクラに渡した魔刀と言われる氷華は元々私が冒険者時代に使っていた武器だ。氷華は手に持った者を主として認めないと氷漬けにしてくる危険な刀。それでも。


「まさか~。あの子は私よりも魔力が多いもの~。氷華が認めないなんてありえないわ~」

「まじか、嬢ちゃんの魔力ってローズさんより多いのかよ……」


 サクラの魔力は生まれつき私よりも多い。その上、今も増え続けている。そしてサクラが成長して刀を使いたいって言った時に直感しました。氷華はサクラが持つべきだと。


「巨大な力に潰されないためにも。誰かに利用されないためにもしっかりと鍛えないとね~」

「今から嬢ちゃんが気の毒だな……」


 試練の合否に関わらず今後は私もサクラを鍛える予定だった。想像以上に大きく育ちそうなこの子の将来を想いつつ気合を入れる。なぜかウィードが引き攣った笑いをしていますが気のせいでしょう。


「どんな修行をさせようかしら」

「力加減間違えて殺さないようにな」

「あらあら~。私の子よ~? 少しくらい厳しくても大丈夫よ~」

「ローズさんの少しは少しじゃないんだよな……」


 可愛いサクラも生まれたことだし後数百年間はエルフの国に帰るつもりはありません。まだまだこの可愛い我が子を愛でていたいし、エルフのみんなはのんびりしている人が多いから数百年程度、女王が帰ってこなくても気にしないでしょう。

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