第7話 魔力の発現
「「「サクラちゃん! 誕生日おめでとう(~)!!」」」
「母さま。カトレアちゃんにおばさんもありがとう!」
「ケーキ用意したからいっぱい食べるのよ~」
「うん、いっぱい食べる。カトレアもいっぱい食べてね!」
「「「「いただきまーす!」」」」
体を鍛え始めて早三年、私ことサクラ・トレイルは今日で六歳になった。この世界でも誕生日の概念があり、今日は我が家で私の誕生日をお祝いする日だ。お祝いにカトレアちゃんとカトレアちゃんのお母さんが遊びに来た。カトレアちゃんともこの三年で仲良くなり、今ではサクラ。カトレア。と呼び捨てで呼び合っている。
しばらく歓談しつつケーキを頬張る。カトレアちゃんも尻尾を振ってご機嫌のようだ。ケーキを気に入ったらしい。
ケーキを食べ終え、三人が誕生日プレゼントを取り出した。最初は母からだ。
「誕生日プレゼントをどうぞ~」
「ありがとう。開けてもいい?」
「いいわよ~。気に入ってくれるといいのだけど」
「お~。魔法の絵本だ。ありがとう。魔法の適正が分かるのって十歳になってからだっけ?」
「そうよ。洗礼式で分かるからね」
「楽しみだな~。どんな魔法が使えるかな?」
母の表情が一瞬難しそうなものになったがすぐ元に戻った。
「サクラは天才だからね。みんなには使えない特別な魔法が使えるかもね」
「ふふふ。そうだといいな」
「あら~。お母さまは本当にサクラが特別な魔法が使えると思っているのだけど?」
私が捨てられたのは鑑定で無適正だと出たからなのだが、これは母なりに励ましてくれてるのだろうか。
「母さま、今度魔法を教えてね」
この世界では魔法の適正は生まれたてでも分かるのだけれど、実際に魔力を扱えるようになるのは六歳になってからだ。魔力が扱えるようになると自分の適正に合った魔法を使えるようになる。
「そうね~。魔法はまだ早いけど、魔力は発現しただろうし、魔力を動かす練習なら始めてもいいかしら」
「魔力を動かすの? 地味だけど大切ってやつ?」
これは地味だけど大切だと言われる魔力操作というものかもしれない。よく聞くのは魔法の精度が上がるとか、魔法の威力が上がるとかだけどこの世界でも同じだろうか。
「さすがサクラ。よく知っているわね~。そうよ~、魔力を動かすのに慣れておくと魔法の適正が分かった後に魔法が使いやすくなるの。人族はやってないみたいだけど、エルフは必ずやっているわ。……どれだったとしても絶対に必須の技能だしね」
「必須?」
「ん~。サクラはまだ気にしなくていいのよ。十歳になったら教えるからね~」
十歳ということは適正が関係あるのだろうか。私が産まれてすぐに無適正って鑑定されたのを聞いているはずなのだけれど……。
次はカトレアちゃんのお母さんがプレゼントをくれた。
「あたしからはこれだよ。絵本なんて高価なものじゃないけどね」
「いえいえ、ありがとうございます! 開けていいですか?」
「もちろんさね。これからもカトレアをよろしくね?」
「はい! おー、マグカップだ! 可愛い!」
狐の絵の入ったマグカップを貰った。ご丁寧に持ち手が尻尾になっている。普段使いにしよう!
最後はカトレアちゃんからのプレゼントだ。
「私からはこれよ。サクラは元が可愛いんだからおしゃれくらいしなさい!」
「あはは。おしゃれとか面倒で……」
元男におしゃれとか無茶言わないで欲しい。最低限、清潔感があって相手に不快感与えなければ良くない?
「良くないわよ! いいからプレゼント開けて今すぐつけなさい!」
「こ、心の中読まないでよ……。ん? これはシュシュ?」
私の髪色に合う薄い緑色のシュシュが入っていた。桜の花のアクセサリーがワンポイントでくっついている。
「ありがとう! 毎日付けるね!」
「ええ、そうしてちょうだい」
早速後ろ髪をまとめてポニーテールにしてみる。重くもなくとても使いやすい。
「さすがカトレアちゃんが選んだだけあってサクラちゃんに似合ってるわよ~」
使い心地を確認しているとカトレアちゃんのお母さんが近づいてきた。
「カトレア。サクラちゃんとおそろいだ~って楽しみにしてたんだよ。ちゃんと使ってやってや」
そう私に耳打ちする。ご機嫌に尻尾を振るカトレアちゃんを見てみると少し頬を染めながら前髪に付いている桜の花と葉をモチーフにした髪留めを触っていた。え、何この子可愛すぎない?
感極まった私はカトレアちゃんに抱き着こうとしたが躱されてしまった……。ぐすん。
―――
「じゃあ~今日は魔力を動かす練習をするわよ~」
「おー!」
誕生日から数日後、今日は約束していた母に魔力操作を教わる日だ。ワクワクしすぎて昨日は八時間しか眠れなかった。よく眠れてるじゃないかって? 普段は十時間睡眠なのにいつもより二時間も早く起きてしまったのだ。
「母さま、魔力操作ってどうやるの?」
「ん~とね~、まずは魔力を感じるところから始めましょう~。おへその下あたりをグっと意識してみて」
「うん。やってみる!」
おへその下……。この温かいものだろうか。日本にいたときにはなかった感覚だったため分かりやすい。
「なにか感じるよ」
「あら~。はやいわね~。魔力がとても多いのかしら? やはりサクラは天才ね~」
抱きしめながら褒められた。えへへ。
照れている場合ではなかった。
「次はどうするの?」
「そうね~。ギュっとやってからスーってしてギュンってすればいいわよ~」
「!!?」
「その後はクルッてしてから最後にギュッてするのよ~」
「? ? ?」
「サクラ~。分かった~?」
「……。ごめん。母さま、全然分かんない……」
「ん~? ギュってやってスーってやってギュンってしたらクルッ、ギュッよ~」
「うん……。ギュってやってシューってしてグルンでギュね?」
「最後はギュじゃなくてギュッよ~」
「う、うん……」
母がまさかの感覚派だった。正直言って違いとか全然分かんない。こんな時こそ日本で集めた知識を使って適当に……。
「いや、ギュってなに!」
はっ。思わず叫んでしまった。
「さすがサクラちゃんね~。ちゃんとできてるわ~」
……。ちゃんとできていたらしい。
「毎日続けるのよ~。分からないことがあったら何でも聞いて?」
「い、いや、母さまの迷惑になりそうなのでなるべく自分で解決して見せます」
「も~。迷惑なんかじゃないのに~。いつでも頼るのよ?」
「は、はい...」
再度抱きしめられながら乾いた笑みをこぼす私であった。
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