第6話 知識チートは難しい

 特訓を初めてから数か月、特訓したり母と一緒にカトレアちゃんのいるセリアン町に遊びに行ったり、逆にカトレアちゃんがお母さんと一緒にメディ村に遊びに来たりしつつ過ごした。

 特訓にも慣れ、だんだんと筋力と体力が付いてきたと思う。事実、ステータスにも少しずつ反映され始めている。


「ステータス、オープン」


 *****

 名前:サクラ・トレイル(桜庭龍馬)

 種族:ハーフエルフ(種族制限“大”)


 生命力:500

 魔力:50000〈適正:天〉

 体力:G→F

 物理攻撃力:G

 魔法攻撃力:F

 物理防御力:G→F

 魔法防御力:F

 器用さ:G

 素早さ:G→F

 運の良さ:G


 特殊スキル:ステータス、アイテムボックス、鑑定

 *****


 鍛えたおかげで体力と物理防御力、素早さが上がった。もともと物理攻撃力は上がっていないがこれはSDSのサクラが魔力特化で物理方面によりポンコツだったのが反映されているのだろう。今後も努力し続ければきっと……! そう思って頑張っていこう。


 話が変わるが、せっかく異世界転生をしたことだし、してみたいことがある。

 それは知識チートと言われるものだ。異世界物の小説を読んだことのある人であればご存じだと思うが、日本で得た知識を元に異世界で荒稼ぎをするあれのことだ。定番の物として良く挙げられるのはオセロやおいしい料理といったものだろうか。


 そして私自身、日本ではそこまで頭がよくなかった私だけど日本で学んだ知識を使えばこっちでは天才扱いされるのではないか? とも思う。分不相応だと思われるかもしれない。十で神童、十五で才子、二十過ぎれば只の人? 上等だ! 今から学べば二十過ぎても天才でいられるかもしれないし、母に褒められるのが嬉しいのだ! それにカトレアちゃんに勉強を教えてあげればきっとお礼にあの尻尾を……。うふふふふ。


 最後に邪念が溢れてしまったが気を取り直してオセロを用意してみた。母に紹介してみよう! 


「みてみて、母さま。こんな遊びを考えてみたよ。売れると思う?」

「あら~? リバーシじゃない。どこで聞いたの?」

「へっ?」

「お母さまも小さいころによく遊んだわ~。大人になってからは遊んでいないし久々にやろうかしら」

「リバーシ……。すでにあったんだ……」

「あらあら、落ち込まないの。簡単なものとはいえ、一から考えただけですごいんだからね~」

「かんたんなもの……」

「あら~。もっと落ち込んじゃったわね。せっかく考えたんだし遊びましょうか。一度にたくさんの石がひっくり返ると面白いわよ~」


 異世界転生物の知識チートの定番なのに! とショックを受けていると頭を撫でてもらえた。えへへ。

 ちなみに母とやったリバーシは一度も勝てませんでした。


 ―――


 次に食事の改善が何かできないか考えることにした。一人暮らしをしていたから簡単な料理ならできるし、おいしい料理を母に食べさせてあげられると思う。


「母さま。お料理の手伝いがしたいです」

「丁寧な言葉遣いでどうしたの? サクラはまだ三歳なんだし、料理は危ないからだめよ~。もっと大きくなったら教えてあげるからね~」


 普通に断られてしまった。年齢について忘れていたが中身はすでに三十年近く生きてきた身である。平気だと思うのだが母に伝えるつもりはない。


「お料理してみたいな」


 上目遣いでおねだりしてみる。私に甘い母ならこれで堕ちるはずだ! 


「そんなに言うってことはお母さまの料理はまずいのかしら~?」

「そんなことないよ。母さまの役に立ちたいだけだから」


 堕ちなかった。なんならただ悲しませる結果に終わりそうだ。


「そうなの? でもサクラちゃんが一緒にいるだけで私の役に立っているのよ~?」

「ほんとう?」

「ええ。一緒にいるだけで元気がでてくるもの」


 うむ。力こぶ作ろうとしてる母は可愛い。しかたないけど母を悲しませるのは本意ではないので諦めるしかないかな。


 ちなみにお昼ご飯は今日もおいしかったです。


 ―――


 よくよく考えたら料理も日本にいたころと同じような料理も出てきているし、母の料理も普通においしい。そもそも料理チートは無理だったし改善するところもなかったことに気が付いた。お米などの日本食も空島で作られているらしく、定期的に仕送りをしてくれる人がいるため困っていない。誰が送ってくれるのか聞いたら昔の知り合いらしい。詳しい関係はぼやかされてしまった。昔の男だったりするのだろうか? 

 ちなみにだが私の服装は和服だ。これも空島で作られている服らしく。食事同様、仕送りしてもらった物らしい。


 日本を懐かしく思った時や、大きくなって旅に出た時には絶対に空島に行きたいと思う。


 他に定番な知識チートは……。もうネタがない。下水道も魔法で整備されているみたいだし、衛生観念もしっかりしている。電気機械的なものは専門家でないから分からないしゴーレムなどの魔法や電話機ならぬ念話機のような魔道具がある時点で求められていない。車はないけど魔力で動く魔動車があり、まったく揺れないと聞いたことがある。



 忘れていたが原作知識のチートならあるかもしれない。ライラスたちで魔王討伐だって何度もしてきたのだ。サクラでは一度も倒したことないけれど……。


 旅立ちパートでは各主人公の出身地である国や村の情報しかないから将来旅に出た後じゃないと役に立つことはない。

 サクラの旅立ちパートは……実は存在しない。SDSの七周目はサクラが王都付近で魔物といるところをライアスに助けられてから始まる。当初はどうやって王都に行ったんだと疑問に思ったが、後にサクラが自分は優しい母に報いることができない。自分は母のお荷物なんだ。と思い詰めて家出をし、商家の魔動車に隠れて乗り込み、王都近くまで来たと話をしていた。

 共通のパートも基本的に王都でイベントが発生するため、メディ村では役に立たない。


 魔王についての情報は……。実はほとんどない。SDSでは共通のパートの一つとして魔王探索の旅に出る。一周目よりも二周目、二周目よりも三周目、と魔王に関する噂話は増えていくが、実際の目撃情報や姿の情報、なんなら幹部や腹心の情報さえ出てこない。魔族が崇拝しており、魔物を操れるといった情報はあるけどそれはアースフィア全体での常識として知られている。

 正直復活した後も、常に補助キャラで状態異常の解除をする準備をしていないと火力組が近づいた瞬間に操作不能になるため即詰むとか、いろんな植物が襲い掛かってくるけど色に対応した適正の魔法じゃないと植物を倒すことができないとか。その程度のものだ。ちゃんとした手順を踏めば倒せるらしいが、私は主人公のステータスを上げてごり押ししていた。……七周目で対魔王戦にたどり着いたら手順を調べようと思っていた自分が恨めしい。先に調べておけばこの世界でも活かせたかもしれないのに……。


 どの道、私がもうすぐ魔王が復活すると注意喚起したとしても母以外の人は信じないだろう。子供の戯言としてとらえられるだろうし最悪民の不安を増長させたとか言って処刑されるかも……。さすがに処刑はないにしても白い目で見られるのは確かだろう。


 ……うん。私に知識チートは無理だったようだ。


 気を取り直してカトレアちゃんと念話機でおしゃべりしよっと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る