第5話 幼馴染との出会い
現状の確認が終わったため、今後この世界でどうしていくか考えてみることにした。選択肢は主に二つ。SDSのゲームシナリオに向けて動くか、スローライフを目指しつつのんびりと過ごすか。前者だと失敗したときに死のリスクがあるし、そもそもこの世界がSDS六周目までの世界であった場合、私が行う行為がシナリオクラッシャーとなり私の行動で他の主人公たちが魔王を倒すことができなくなるかもしれない。後者では死の危険は少ないが、七周目の世界だった場合に魔王に対抗する存在がライラスだけとなり世界が詰んでしまう。
「ん~。結局はやることは同じかな?」
結構悩んでいたが、魔王を倒しに行くにしてもスローライフをするにしても身の回りの安全確保のためにも、せっかくゲーム世界に来たから世界を見て回るためにも、まずは体を鍛える必要があると気が付いた。いや、決して問題を先送りにしたわけではない。やるべきことをやるだけだ。
平和な世界で社畜をしていた私に戦い方などわかるはずがないので、基礎体力や筋力をつけるところから始めよう。鍛えながら師匠となってくれそうな人を探して弟子入りしてから戦い方を身に着けよう。
「というわけで体を鍛えることにしたよ」
「ん~。だめよ~。なにがあっても私が守るから一緒にのんびり暮らしましょう?」
寝る準備を終え、お布団に入ったところで母に宣言をしてみたが、即お断りされてしまった。守るといわれても普段からのんびりしている母さまは戦えないだろうから私がしっかり守らないと、と決意を固める。
「あらあら、私が守るって言ってるのに信じてないわね~?」
「信じてるよ? でも私も母さまを守りたいの」
「嬉しいこと言ってくれるわね~。でもまだ巣立つのには早いと思うわ~」
ぎゅっと抱き着いてきて嬉しいが息が詰まるとかはなさそうだ。私も大人になっても大きくならなそうかな? どこがとは言わないが。
「なにか失礼なこと考えてな~い?」
笑ってない笑顔で言われた。温度も気持ち下がった気がする。抱き着いる腕の力も気持ち強くなってる気がする。
「いや? やっぱり私が守る側がいいなっておもってただけだよ?」
こうなったときは気をそらせるのが一番だ。もちろん元男として大切な母を守りたいのも本心ではあるけれど。
「ふふふ、そしたらお母さまがサクラちゃんを守るからサクラちゃんもお母さまのことを守ってくれるかしら~?」
「もちろん! はやく体を鍛えて強くならないと」
一応許可はもらえたようだ。明日の朝が待ち遠しい。
「……そんなところまで私に似なくてもよかったのにね~」
「ん? 何か言った? 母さま」
「何でもないわよ~。強くなるためにもしっかり寝ましょうね~」
小声でよく聞こえなかったが問題なさそうだ。母が頭を撫でてくれてだんだんと眠気もやってきた。
「はーい。おやすみなさい」
「ええ、おやすみなさい」
「やっぱり血は争えないのかしらね~」
すでに夢の世界に旅立っていた私に母のつぶやきは届かなかった。
―――
母に体を鍛える宣言をした次の日、さっそく体作りを始めた。まずは部屋の中で腹筋からだ。
「1、2、3、4、……。はぁはぁ……」
わかっていたが三歳児のこの体。体力がまるでない。
少し休憩した後、今度は腕立て伏せに挑戦してみる。
「いーーーーー……」
全く体が上がらなかった。やはり筋力もなかった。分かっていたことだが長い道のりになりそうだ。
―――
その日の午後、お昼寝で体力をいっぱいにした私が再度腹筋に挑戦すると今度は五回できた。腕立てもほんの気持ちだけ体が上がった。今日動く体力はもう残ってないけどこのまま進めると上達していけそうだ。
次の日も朝と夕に腹筋腕立てに挑戦すると。少しずつできる回数が増えてきた。この調子なら他の特訓を増やせるようになるのも時間の問題だろう。とりあえずは腹筋も腕立ても二十回ずつできるようにすることを目標に立てる。我ながら単純だと思うが、できる回数が一二回増えただけでもきつい特訓も楽しくなってくる。
―――
「……17、18、19、20」
数週間後、腹筋も腕立ても継続してやってきた私だったが遂に腹筋と腕立ての両方で二十回を達成した。
「もうそんなにできるようになったのね! もう十分鍛えられたと思うし、特訓は終わったらどうかしら?」
母は私の特訓を無理に止めてくることはしなかったが気持ちとしては反対らしい。私がひとまずの目標を達成した時点で特訓を止めるように促してきた。
「まだまだやめないよ。母さまを守るにはもっともっと強くならないとだからね」
「もう十分よ~。そうだ! 今日は隣の町まで行ってみない? サクラと同い年の女の子がいるって聞いたのよ~。せっかくだし顔合わせしましょう! サクラの友達になってくれると嬉しいわね~」
同い年の女の子とな? と、友達……。隣町だと今の私では気軽に行くことができないし三歳では月に数回しか会わない相手のことはすぐ忘れるかもしれない……。
「ん~~。分かった。その子と会ってみたい」
「ふふふ、ありがとう」
頭を撫でてくれた。えへへ。
―――
言うが早く、その日の午後には隣町のセリアン町に着いた。この町は森を挟んだメディ村のお隣さんで田畑が多いメディ村よりもショッピングができそうな服屋や教会、ここら一体を統治している領主様の屋敷がある。
コンコンコンっ
「初めまして、あんたがローズさんか。綺麗な人さね。そっちのちっこいのがサクラちゃんだね? あたしの子に負けず劣らず可愛いじゃないか。これからよろしく頼むよ。サクラちゃんもよろしくな? ほらカトレアも挨拶しい」
例の女の子のいる家をノックすると狐耳の女性が扉を開けて挨拶をしてきた。そして女性の後ろからちょこんと顔を出す狐耳の幼女が……! 可愛い! モフモフしたい!
「か、カトレアです……。初めまして……」
おっと、モフ欲があふれ出ていたからか顔を引っ込めてしまった。自重しないと。
「すまないね。あたしと旦那以外の人と滅多に会わないから人見知りしているのさ」
「大丈夫です! 初めまして! サクラです! カトレアちゃん。よろしくね!」
その尻尾と耳をモフモフさせて欲しい! という言葉はしっかり飲み込んだ私、えらい!
「よ、よろしくね?」
うるうるのおめめでこちらを見上げる狐耳幼女可愛い! 突然悶えだした私を見て首をかしげる姿を見て絶対に仲良くなってやる! と決意を固めた私だった。
―――
<???視点>
三年前、サクラが産声をあげるのと同時に、ある森にて一人の少女が長い眠りから目を覚ましていた。
「んんぅ。目が覚めちゃった。何か嫌な夢を見ていた気がするな」
少女は一瞬悲しそうな顔をした後、森の中を少し歩く。
「んー、どんな夢だったか思い出せない。次は良い夢をみれるといいな!」
一度頭を振った少女は頭を切り替え、再度眠りについた。
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