第2話 夢の世界
「***とは戦いたくないよ! ***も同じ気持ちなんでしょう?」
「気持ちだけじゃダメなの! 私は……。魔王として討伐されるならサクラに討伐されたい」
***の背後に一回り大きな花が咲く。花弁が輝きだし、レーザーのような攻撃をしてくる。
私は冷気を固めて氷を鏡のように固定してレーザーの向きを逸らす。
「魔王としての能力を制御しようよ! 私達の旅でしてくれたみたいに活性化した魔物でも人を襲わないようにできるんでしょう?」
「さすがサクラだ。気付いてたんだね。でもダメなんだよ。今は良くても最後は抑えきれなくなる。私は……僕はもう人を滅ぼしたくない! もう悲鳴は聞きたくない! 敵意の籠った、殺気の籠った目で見られたくない! 僕はしたくてやってるわけじゃないのに!」
悲鳴のような。拒絶するような強い***の感情と共に無数の小さな花が舞い上がる。全ての花が輝き始め、小さなレーザーを大量に発生させた。
私は氷の鏡を増やしてレーザーを逸らし続けるが幾つかが鏡をすり抜けて足に、肩に、少しずつ傷を付けていく。
でも、まるで小さな子が泣きじゃくるようなそんな攻撃に反撃をする気は無い。何とかして救ってあげたい気持ちが強くなる。
「救うというなら! 僕を救ってくれるというなら、サクラが僕を殺して! 化け物としてではなく! 誰かの仇でもなく……。魔王ではなく****として、サクラの友だちとして。私を殺して」
***の攻撃が止む。全てを諦めた。絶望したような感情を持ちつつ私を見つめる。
正直、***の抱える闇が分からない。錯乱しているようにも感じるし、悪い夢と現実が混ざっているようにも感じる。
「***は誰も傷付けてない! 誰かに敵視される理由もない! 未来だって決まったものじゃない! なのになんで全てを諦めてるの? 絶望するのはまだ早いよ!」
「サクラ。***誰も知らないけれど、この世界は**********」
え? 私の頭に浮かんだのはSDSの一周目から六周目までの世界。魔王が王国を攻めてきて、主人公達が撃ち破る光景。
「僕が僕で居られるのはサクラが生きている間だけだ。サクラが僕の************、僕の理性として生きてくれているから僕は魔王にならずにいられる」
「だからサクラが僕を殺さないと僕は救われない。サクラには辛い思いをさせるけど、今までの世界で僕が起こしてきた罪に罰を。そしてこの世界の未来をサクラが
繋がりが強いからこそ分かってしまう。***が言ってることに嘘はない。
私は、私は……。一つの決意を胸に氷華を構えた。
―――
ふと、目が覚めた。なんだか夢を見ていたような……。
なんだか大事なことを考えていた気もするけれど夢の内容を思い出せない。
夢の内容を思い出そうと頭を捻っているとふとSDSのパッケージが目に入る。
「SDSのことかな? 昨日も寝る前まで遊んでいたし」
パッケージに描かれたキャラを見つつ夢を思い出そうとする。
「ライアス……は出て来てないな」
一周目の主人公である青年猫獣人のライアス・アルパイン。パートナーのレオンハルトと共に描かれている。
「虎徹……というか男キャラじゃないな」
二周目の主人公である老人天翼族の芍薬 虎徹と三周目の主人公であるブルーム王国の王太子で人族のシルビア・フォン・コモン・ブルーム。パートナーのドラゴハルトやジークハルトと共に描かれている。
「女性キャラだとしたら誰だろう」
四周目の主人公である吸血鬼の姫、レオナード・ルピナス。五周目の主人公、人魚のマジュリー・オリエンテイル。六周目の主人公、ドワーフのマティナ・マスタード。それぞれヴィヴィリア、リーヴィア、ルルディアと契約している。
「しっくりこないな。となるとサクラかな?」
七周目の主人公、サクラ・トレイル。パートナーの神霊もおらず、幼少期に父親に捨てられてすべてのやる気を失くしてしまった悲しきエルフの少女。
「親に捨てられた……か。どっちの方が幸せなんだろうな」
俺にも親はいる。捨てられてもいない。ただ、親は俺に無関心だった。どちらの方が不幸だとか幸せだとか比較するつもりはない。俺が勝手にサクラに対し仲間意識を持っているだけだ。
「しっくり……は来ないな。サクラも関係してそうだけど何か足りない気がする」
所詮はただの夢だと気持ちを切り替えてSDSを起動する。昨日の最後に見た七周目に進むか否かの選択肢が表示される。
『七周目を開始するにあたり、六周目までのセーブデータをすべて削除しますがよろしいですか? YES or NO』
「もちろんYESと。待ってろよサクラ。今回こそクリアしてやるからな」
親の顔よりも見た画面をササっと次へ進める。
寝起きで頭の働いていない俺はある一文を見逃したままSDSの七周目に突入したのだった。
『すべてのイベントが消化されました。SDSの制限を解除し、***のアクセスを許可します』
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