小さな龍のレクイエム(改稿版)
助谷 遼
プロローグ
第1話 セブンズ・ドラゴンズ・シンストーリー
『魔王だ! 魔王が出たぞ!』
『戦争なんてやっていられるか! 全員退避だ!』
『もう駄目だ……お終いだ』
「やっとここまで来たか……」
俺の名前は桜庭龍馬。しがない会社員だ。魔王がでたのはここ日本……ではなく俺が遊んでいるセブンズ・ドラゴンズ・シンストーリー。通称SDSのゲームの中だ。ちなみにセブン・ドラゴンズでもセブンズ・ドラゴンでもなくセブンズ・ドラゴンズであってるらしい。発売当初、語法が間違ってると問い合わせが多く、開発会社が間違っていませんと公式発表していた。
実はこのゲーム、十年近く前に発売されたものなのに一度も完全クリアされていないことで有名なのである。
『魔王の――。周辺の生物の動きが止まる』
『サクラ、ライアスは体が動かなくなった』
「ちっ。やっぱ強すぎだろ」
完全クリアされない理由は二つ。一つ目はなんと魔王を七回も倒さなければならない。一回目から六回目は仲間パーティーも豊富で、各キャラに付く神霊という存在がいるためにギリギリ倒すことが出来る強さなのだが……。
『レオンハルトがキュアを使った』
『ライアスの状態異常が回復した』
『ミス! サクラの状態異常が回復しなかった』
「サクラーー。しっかりしてくれ」
クリアできない理由の一つは今俺がやっている七周目……SDSでは開始から魔王を倒すまでを一周とされている……七周目の主人公がとても弱いのだ。
名前をサクラといい、桜色の髪をした緑眼のエルフの少女でイラストだけは他のキャラの追随を許さない圧倒的魅力の持ち主なんだけどね……。
魔王のデバフは確実に食らうし味方のバフや回復は大抵失敗する。バフを失敗するとか何事かと思うが魔力が多すぎて魔法のかかりが悪いんだとか……。なら魔王のデバフも弾けよ! と文句を言ったことのあるプレイヤーは俺だけじゃないと思う。
『ライアスの煉獄。魔王の創り出した植物に阻まれた』
「くぅ。デバフ役がいないから攻撃が届かん」
二つ目は七周目だけ仲間キャラが猫の獣人であるライアスとその神霊であるレオンハルト……通称レオンの二人しかいないことだ。一周目から六周目まではメインの操作キャラや細かい部分は違えど主人公含めて六人の仲間とそのパートナーの全十二人のメンバーで戦えたのに七周目だけ主人公含めて三人しかいないという鬼畜仕様だ。
『魔王の――。辺りの植物が光り輝きレーザーを照射する』
『サクラは死んでしまった』
『GAME OVER』
「今回も無理だったか……」
ゲーム画面が暗転し、GAME OVERの文字が画面にでかでかと表示されたのを確認した俺はコントローラーを投げ出してベッドに寝転ぶ。
「三連休はまだ二日残ってるしな。もう一回やるか」
少し休憩した後に気合を入れなおしてもう一度ゲームを起動する。
『初期設定を開始します……。……。セーブデータを構築しました。ようこそセブンズ・ドラゴンズ・シンストーリーの世界へ』
『チュートリアルをスキップしますか? YES or NO』
「YESっと」
なんで初めからやり直してるのかって? それはな。このゲームは七周目に入る際にセーブデータが全て抹消されるからなんだよ。一周目から五週目までは魔王を倒すと暗転して直ぐ次の周に切り替わるのに六周目だけは暗転した後に次が最後の旅であること、今までのデータを抹消しないと進めないことが表示されるのだ。抹消しないと延々と進むことはできないためプレイヤーは完全クリアのために泣く泣くセーブデータを抹消しないといけないのだ。勘のいい人は気付いたかもしれないが七周目はセーブができない。主人公であるサクラが死んだらその場でゲームオーバーとなり一周目からやり直しになるのだ。
―――
『ライアス。ブルーム王国に行ったら獣人国の次期王として恥をかかないようにするのですよ?』
『おう、まかせろ』
「毎回思うけどただの田舎者なのによく次期王を自称するよな……」
慣れた操作で一周目を進め、ライアスの旅立ちパートを終わらせる。次は多種族国家のブルーム王国の王都にある学園に入学するのだが、ライアスの両親は本気で田舎者のライアスが獣人国の次期王様になると信じている。理由としてはライアスが獣人族で唯一の猫の獣人だからだ。実はSDSの世界に猫は存在しない。神霊様のビジュアルが猫そっくりのため被りが無いように猫の存在が抹消されているのだ。つまりライアスは獣人の中で唯一神霊と同じ特徴を持った存在であり、特別な存在だとされている。正直それと王様になることは関係ないと思うけどな。
『
「もちろんYES。放置するとマジで町が滅びるからな。それにしてもこの時期だとかなり
七周もして何度も繰り返すと飽きが来ると思うかもしれない。しかし運営は元からクリアできずに周回することを想定していたのか毎回発生するイベントが変わる仕組みを取り入れている。まったく同じ操作をしたとしても発生するイベントが変わるため何度やり直しても新しいゲームをしている気になれるのはSDSが人気になった理由の一つだろう。なにせ十年以上経った今でも新しいイベントが見つかるくらいだしな。
―――
「これで最後っと。いやー、きつかったけど無事に街も守り切れたし経験値も報酬もウハウハだしラッキーだったな」
『
少し時間がかかったけどこの後のレベリングの手間が省けたと考えたら儲けものだろう。それに放置するとマジで何処かの街が滅びるからな。前に放置して主要都市が落ちた時は酷い目にあったし……。
「気を取り直して進めていきますか」
―――
『魔王だ! 魔王が出たぞ!』
『戦争なんてやっていられるか! 全員退避だ!』
『大丈夫! マティナ様やルルディア様が倒してくれるわ!』
魔王が物語の中盤で現れる特殊なイベントもありつつ進めていきなんとか六周目の魔王戦直前まで進めることができた。スタンピードで鍛えられてたからよかったけど中盤に魔王が出てくると魔王も弱っているとはいえこちらの戦力も整ってないからきついんだよな。この辺りのゲームバランスが最強すぎる。イイ感じに鍛えたところを含めてさすが俺だな!
今気付いたけど魔王が現れた時のセリフでその周の主人公と
『魔王の――。レオナードに炎の花が襲い掛かる』
『レオナードは腕を欠損した』
『マティナはエリクサーを使用した。レオナードの腕が再生した』
「やっぱり仲間がいるとやりやすいな。もうちょっとで倒せそうだなっと」
『虎徹の紅蓮千枚おろし。魔王の周囲の植物が消滅した』
『シルビアの天雷。魔王を倒した』
『今までの冒険をセーブしました。七周目に進むにはセーブデータを削除する必要があります。六周目までのセーブデータをすべて削除して七周目を開始しますか? YES or NO』
「今日はもう夜遅いからな。一先ずNOと。明日起きたら続きをやろう」
相変わらず魔王を倒した余韻の無いゲーム画面を見届けて一度ゲームを落とす。俺はそのまま布団に入り眠りについた。
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