世界設定(2) 〈学院〉の騎士

 所謂いわゆる「学院の騎士団」は、諸国で編成された騎士団や聖堂騎士団とはその起源を異にしている。

 〈学院〉が国家機構を整備していく中で、領域の保全や要人の警護といった安全保障上の問題が生じると、〈学院〉は傭兵を求めた。

 当初は期限付き契約が主だったようであるが、やがて〈学院〉周辺に居を構え、〈学院〉を「お得意様」とする傭兵も現れ出した。彼らはやがて傭兵ギルドを結成して、排他的に〈学院〉からの傭兵契約を結ぶようになった。こうした専属性によりギルドは〈学院〉との結びつきを強め、あたかも〈学院〉の一部局であるかのような地位を得た。

 やがて〈学院〉の声望が高まる中で、傭兵ギルドも厳格な規律を定め格式を向上させ、ついに「学院の騎士団」を名乗るに至った。しかし、〈学院〉の一機関とはならず、その終焉まで両者の関係は対等な社団しゃだん間の契約関係であった。

 〈学院〉はギルドに対して、衛兵奉仕や域内の安全護送などが含まれた契約に基づき歳費さいひを支払う。この歳費をもとに、ギルドは各騎士への俸給を与え、騎士は〈学院〉への奉仕義務を果たした。またギルドは、館や練兵場の借地料や使用料を各年〈学院〉に支払っていた。一方で、自主財源として農場経営や商品流通まで手掛け、域内経済の発展にも寄与していた。


 騎士構成員は、当初の傭兵ギルド時代は下級騎士層が多かったようであるが、〈学院〉の附属機関と認識されていく中で、貴族・上級騎士層の次男以下を中心とした構成へと変化した。彼らは生国で叙任を受けた騎士であったり、ギルドの施設で修養を積み〈学院〉から叙任を受けた者(叙任は慣例的に次席賢者長が執り行った)まで多様である。

 また、〈学院〉に属する女性知識人を警護する必要から、12世紀初頭には女性騎士の存在も知られるようになる。すると、男子に恵まれなかった騎士層が娘に所領を相続させるための「はく付け」や、平民女性層の身分上昇手段としても利用されるようになった。


 さて、衛兵や正使の護衛などの俸給によって発生する業務とは別に、「自営業者」である各騎士には他の蓄財手段もあった。

 教師・学生が、遊学の安全護送のために騎士を雇うこともあり、これは個人契約であったらしい。現存する騎士団の契約日誌からは、その契約期間や受け渡される金額、また「お気に入りの騎士」や「お得意様の顧客」など、知識人と騎士の個人的な人間関係を垣間見ることもできる。

 12世紀末、メリュジーヌ・デルスクは特定の騎士四人とたびたび個人的に契約を交わしており、そのうち二人は女性騎士であった。1190年代半ばからしばらく、この四人の騎士はメリュジーヌの専属騎士的な様相を見せている。一度に四人と契約するのも異例であるが、その専属性も異例であり、メリュジーヌはよほどこの四名を気に入っていたようである。また、騎士たちの方でも確実な顧客としてメリュジーヌとの契約を大事にしていたようである。この騎士たちの盾にエルスク王家であるクレム家の紋章が描かれたことが、ギルドの紋章録から判っており、あたかも主従契約で結ばれたかのような良好な関係性を垣間見ることができる。


※O.ブーランジェ(今鐘ねる訳)『騎士』,舞香堂出版,2012年(原著1998年)より。脚註略。




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