損なわれ失う命

シヨゥ

第1話

 数週間前に旅立った隣の家の子が帰ってきた。数か月から一年は戻らないだろうと予想していた彼がほんの数か月で帰ってきた。その事実に隣の家には村中の人が殺到している。

「うちの息子は?」

「うちのは?」

 怪我だらけで憔悴しきった彼に質問が飛ぶ。質問の通り彼はひとりで旅立ったわけではない。5人で旅立った。村の安全を守るための近隣の魔物の巣を潰し歩く旅。選ばれたのは村でも力が強く、若い5人だった。その中でも彼は一番力が強く、まとめ役のような立場だった。

 彼は質問に対して答えることなく、破れた鞄から4つの袋を取り出した。

「これしか持って帰られんかった」

 絞り出すようにそう彼はつぶやき、泣き始めた。

「ダメだったんか?」

 その問いかけに彼は頷く。すると視界の端で何人かが倒れた。きっと帰らなかった4人の親御さんの誰かだろう。

「よう、生きた証を持って帰ってくれた」

 村長は泣き続ける彼の肩に手を置いた。

「すまない……すまない……」

 彼はそう繰り返すばかりだ。

「いんや。わしらの見込みが甘かったんだろう。村の周りで見る魔物を見てやれる気になってしまったわしら大人が悪い。お前が背負い込むことはない。これは村全員の責任だ」

 村長はそう語りかけるとこちらに体を向けた。

「損失は大きいが、このままにしておくこともできないだろう」

「どうする?」

「もう一度国に掛け合ってみたらどうだ。死人が出たんだ。さすがに動くだろう」

 大人たちの頭はすでに次に打つ対策の話に切り替わっている。冷たいようでこれが現実だ。

「すまない……すまない……」

 そんな中彼は現実に取り残されるようにそう繰り返すばかりだった。

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損なわれ失う命 シヨゥ @Shiyoxu

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