第3話

ピピピピピピピピピピ———————


毎朝毎朝、こんな朝早くに気持ちよく寝てたところを無理やり起こされていい迷惑だ。誰だよこんな時間に目覚ましかけたやつ・・・


枕の横に置いているスマホをとり、画面を確認すると6時半の文字を写している。仕方なくまだあまり開いていない目を擦り、起きようとベットを出ようとした。


わかって欲しい・・・。出ようとはしたんだ。


でもまあ結果的には無理だったので後5分寝ることにして静かに目を閉じた・・・。


 ・・・しかし、後5分って言って寝るやつの結末はだいたい決まっている。案の定5分でなんて起きれるはずもなく、目を瞑った次の記憶はデッドラインとして設定している7時20分のアラームに眠りを邪魔されたところからだ。


昨日の夜はさすがに寝るのが遅すぎたみたいだ・・・。いつも通りラノベのプロットを24時ごろまで考えていたのはいいが、そこで神崎さんの漫画を買ったのを思い出して読み始めたのがよくなかった。


 実際読んでみると予想以上に面白く、興奮して目が冴えてしまったのだ。その後は眠たくなるまでと思いアニメを見始めたわけだが、結局寝たのは3時以降である。


 ってことで焦ってベッドから跳び起き、即行で身支度を整えて学校に向かっている今に至る。


 あ、朝ごはんを食べる時間がなかったしコンビニよろ・・・



「おはようございます」


 ぺこっと校門前に立っている先生に頭を下げて学校内に入っていく。


 時刻は8時5分。始業10分前には何とかついた。


「よっ環、今日は随分とギリギリだな」


 横から話しかけられて、一瞬誰かと思ったが僕に話しかけてくる奴なんて1人しか心当たりはない。


「ああ、やっぱ廉か・・・、相変わらず廉もギリギリだなー」


「ま、早く来すぎるとクラスやつらのノリに合わせなきゃで大変なんだよ。てか、なんでそんな残念そうなんだよ。環に話しかけるのなんて俺くらいだろ?」


 くそっ、その通りだから腹立つ。2年生になるタイミングでクラス替えがあり、少し話せる程度だった人はクラスが別になったのをきっかけに話すこともなくなった。


 結果、友達と言えるのは1年最初から仲の良かった廉くらいだ。

 

 北野廉。無駄にイケメンで、テストの順位は常に上位。スポーツ万能。僕と違って社交的なのもあって友達は多く、学校ではまさに僕とは正反対な位置に属する。


 実際今も周りの女子の視線が廉に集まっており、僕は一刻も早く離れたかったりする・・・


「僕は先に教室に入ってるよ」


「いや、俺も一緒に入るよ。1人になると女の子たちに話しかけられちゃうからね」


学校の男子を代表して一発くらい殴っても許されるだろうか・・・。


「あ、廉くんおはよー」


「今日も相変わらず来るの遅いよー」


「俺朝起きるの苦手でさー」


「そーだったんだ〜」


「それより見せたいものがあるの〜」


教室に入ると、案の定廉は一軍の生徒たちに連れて行かれてしまったので、僕はそのまま自分の席に向かう。


2年になって初日の席替えで窓側の1番後ろという神ポジを引けたのは運が良かった。


しかし、こうして改めて教室を見回してみるとこの学校の校則の緩さがはっきりとわかる。


ここは市内では群を抜いて校則が緩く、

私服登校の許可。

化粧も許可。

ピアスもつけてこなければ開けるのは問題なし。

男女ともに髪型の規制もない。

一応髪を染めることとアクセサリー類をつけてくるのは禁止されているが、それらを破ったからといって何を言われるわけでもないので、もはや暗黙の了解でOKとされているのだろう。


なんでも、数年前の生徒会がすごかったらしく、今あげたもろもろをOKとし、高校に変革をもたらしたのだとか。


まあその規制の緩さから女子に人気の高校であり、男女比率は3:7といったところだ。さらに周辺の高校に比べてイベントごともダントツで多いため他校の生徒からは“エンジョイ高校”などと呼ばれていたりする。


 ・・・まあ、僕みたいにあまり社交的じゃない男子には少々過酷な環境だったりするわけだが。家が近いからって理由だけで選ばなければよかった・・・。



「・・・はーい、みんな席に戻ってねー」


 女子が多いクラス特有の『キャー』『やばい』『かわいい』が飛び交うガヤガヤしたクラスの雰囲気を壊すように、少し大人びた声が教室に響く。


 入ってきたのは長い黒髪を揺らしている眠そうな女性だった。


「つきちゃんおっはよー」


「はいおはよー」


「つきちゃん今日お弁当忘れちゃった」


「はーい購買に行ってねー。ちゃんとお昼は食べないとダメだよー」


「つきちゃん聞いて〜彼氏と別れちゃったの〜」


「どんまい」


 教室に入ってくるなりそんな感じで一斉に話しかけられているのはこのクラス担任の黒田彩月先生だ。担当は現代文と古典。25歳と若く、先生方の中でも特に生徒と距離が近い先生だ。


 まあ彩月先生が望んでというよりは生徒の方が寄ってきているという感じである。先生とこの距離感・・・エンジョイ高校のコミュ力恐るべし。


「つきちゃんは相変わらずツンツンしてるね〜、まあツンデレだか仕方ないけど」


「まあつきちゃんだもんね〜。ああ見えて私たちのこと大好きだからな〜」


「そこの2人は現代文の評価下げとくとして、HR始めるよー」


 「「つきちゃんひどいよ〜」」


 古典は難しく、好成績を取るのは難しい。それに比べて現代文はテストも簡単なことが多く高い成績を取る人は多いだろう。それを踏まえて古典ではなく“現代文の評価”を下げるあたりえげつない・・・。


 僕はそんないつもの光景をぼーっと眺めながら、コンビニで買ってきたメロンパンをいちごオレで流し込んでいた。こうして今日も学校が始まる。


 

 









 









 




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